◆四魔導師のお茶会
カードゲームデザイナー 中井まれかつさん
 こぽぽぽぽ……。
 軽やかな音を立てて、琥珀色の液体が白いカップに注がれていく。
 湯気とともに、さわやかな香りが立ち上った。
「みんな〜、お茶が入りましたよ〜」
 焼き立ての手作りクッキーと、暖かそうな湯気を立てるティーセットを前に、エレクトラ・ウィルはにっこりと微笑むと、豊かな金髪を揺らして振り返り、他の三人に声をかけた。
「はいは〜い」
 豊かな赤毛の髪を振って真っ先に駆け寄ってきたのは、イオ・プロミネンス。
「う〜ん、いい匂い」
 ケーキ、紅茶と顔を近づけ、匂い立つ香気を胸いっぱいに吸い込んだ。
「あう……」
 紅茶の湯気でイオの眼鏡が曇る。
「も〜!」
 イオは苛立たしげに眼鏡を外し、魔導師のローブで眼鏡を拭った。
「あらあら」
 エレクトラはくすりと笑った。
「また、ローブをそんなことに使って。魔導師のローブをなんだと思ってる?」
 呆れ顔でそういったのは、レダ・ブロンウィンである。
 まっすぐ伸ばした長い黒髪を流れるようにうねらせ、お茶の支度のしっかり整ったテーブルにつく。
「だってこれ埃立たないから眼鏡拭きにいいんだよ。汚れないし」
 イオはかけ直した眼鏡の具合を確かめるようには目をしばたたかせ、口を尖らせた。
「それは、防御魔法の織り込んであるローブなら当然。だけど、上級魔導師の証を眼鏡拭きに使ってちゃ下の子たちに示しがつかないだろ」
「固いこといいっこな〜し」
 イオはレダの説教を無視して、クッキーをぽりぽりとかじり始めた。
「エレクトラのクッキー、いつも美味しいね」
「うふふ、ありがとう。励みになります」
 イオの言葉にエレクトラは笑った。
「円卓会議でステラさまが留守の間は私たちが戦闘部門を任されてるっていうのに……」
 レダはほのぼとしたイオとエレクトラの会話に肩をすくめた。
「それに、カサンドラがまだ……」
「…………」
 いいかけたレダは、いつの間にかカサンドラ・ソーンが自分の隣にちょこんと座っていることに気付いた。
「い、いつの間に……」
「…………」
 カサンドラは短い艶やかな黒髪を軽くかしげて、静かに紅茶を啜った。
「みんなそろったことだし、お茶会を始めましょ」
 エレクトラはぱん、と手を叩いた。
「…………」
「もう始めてる〜」
「いただきます」
 三者三様に応え、日当たりの良い中庭でのお茶会が始まった。
 地の魔導師、カサンドラ・ソーン。水の魔導師、エレクトラ・ウィル。火の魔導師、イオ・プロミネンス。風の魔導師、レダ・ブロンウィン。
 WIZ-DOMが誇る魔術戦闘部隊に所属する、おのおのが四大元素をそれぞれ司る、魔導師四人衆である。
「ダークロアの連中ならいつでも来い、ってとこなのにな〜」
「この間の阿羅耶識には参っちゃいましたね」
 イオとエレクトラが先日の戦闘の思い出話を始めた。
「玄武の巫女だっけ? あの子の到着が早かったらヤバかったね」
「実際、ボコボコにされてたのは誰だったかしら?」
「は〜い、あたしで〜す」
「いつもいつもムダに突出するから、危なくてしょうがない。あの時も死の印の詠唱が間に合ってよかったようなものの……」
「死の印、メギドの炎と大呪文連発したものね。さすがにヘトヘトになりました」
 レダの嘆きに、こればかりはエレクトラもうなずいてため息をついた。
「ごめんごめん。でもレダがフォローしてくれるって信じてるからぁ」
「そんなおだてに乗るもんか」
 イオの言葉にレダはぷいと横を向いて紅茶をすすった。
「私は?」
 イオのカップに紅茶を注ぎ足しながら、エレクトラは少しむくれて見せた。
「もっちろんエレクトラも」
 イオはおがむようにカップを持ち上げて見せた。と、ちょいちょい、とイオの肩がつつかれた。
「…………」
 イオが指の主を見ると、カサンドラがまっすぐイオの目を覗き込んでいる。
「カサンドラも〜」
 イオはいいながらカサンドラの頭を抱いて黒髪を指で梳いた。
「でもマジな話、結界タイプは厄介だよね」
 にっこりと微笑むカサンドラの髪を梳き続けながら、イオは言った。
「イオはまだ帝国のヤツとは戦ってなかったか?」
 レダはいまいましそうに尋ねる。極星帝国の氷河戦士こと、ミリアム・レムリアース・シリウスのことだ。
「皇帝の妹? 姉だったっけ?」
「どうなのかな? 名前からするとレムリア王家の人間なのは間違いなさそうだけど」
「帝国内部のことはまだ情報が少なすぎますね」
 考え込むレダに、エレクトラは首を振った。
「ガブリエルがパイプを持ってるみたいだけど?」
「イレイザーの情報がどこまで信用できると思います?」
 エレクトラはこういうことには疑り深い。
「なんでもいいけど。アレはあたし平気だったよ」
「そうなんですか。じゃあ起動型の魔力だけなのかしら? ステラさまも手を焼いていたけれど」
 イオの言葉から、エレクトラは推測をはじめた。
「嘘〜ステラさまが? ちょっとショック」
「戦いには相性ってものがあるからな」
 レダはくすりと笑った。
「私もダメでしたけど……カサンドラはどうでした?」
「…………」
 エレクトラの問いに、カサンドラはしばらく考えたのち、ぷるぷると首を横に振った。
「そうみたいですね」
「じゃあ次からあれはカサンドラとイオに任せるか」
「ん〜でもあたしらも格別相性いいわけじゃないよ?」
 レダの言葉にイオは顔をしかめた。
「ホムンクルスどもを呼んだほうが早いか?」
 レダもいいかけて、自分の言葉に眉をあげた。
「少し癪だな」
「クラリスさまはこういうこと考えて量産はじめたのかしら?」
「……絶対違うと思う。手段と目的が入れ替わってる人だもん」
 エレクトラのつぶやきにイオは首を振り、次に卓上のバスケットを振った。
「クッキーもうないの〜?」
「はいはい、まだまだあるわよ」
「お茶も〜」
 立ち上がったエレクトラに、イオは手を振った。
「…………」
 カサンドラも黙って空いたカップを差し出す。
「は〜い。ちょっと待ってね……」
 言いかけたエレクトラは不意に身体を固くした。
「!」
 他の三人も先ほどまでとは打って変わった真剣な表情でお互いを見回した。
「帝国か。円卓会議を狙って来たか」
 張り巡らした魔法の警戒網に極星帝国の一軍がひっかかったのだ。
「バッカだね〜そいつら」
 イオは眼鏡をくいと掛けなおしてうそぶく。
「どうします?」
 エレクトラ、イオ、レダの目がカサンドラに集中した。
 カサンドラは静かに立ち上がった。三人はうなずき、続いて立ち上がる。
「あたしたちを舐めてかかったこと、後悔させてやるから!」
 イオの身体から炎が噴出し、宙に向かって飛び出す。
「待て、イオ! またひとりで突出するつもりか!?」
 レダも風を呼んで宙に舞い、イオを追う。
「さっき任せるっていったじゃん?」
「それは……」
 イオとレダのやりとりをよそに、エレクトラはいくつか魔法を使いながらカサンドラに確認する。
「下の子たちにも連絡しておきますね。ホムンクルス部隊にも?」
「…………」
 カサンドラはこっくりとうなずくと、床に向かって指先を動かした。小さな魔法陣が一瞬輝いて浮かび、カサンドラの小柄な身体が浮き上がり、滑るように動き出した。
「……出撃する」

COMMENT

愛用のグラサン。
1500円くらいだったかな。

http://www.ops.dti.ne.jp/~marekatu/index.html


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