◆誕生! 超融合ロボ ブレイブカイザー
カードゲームデザイナー 中井まれかつさん
 ぐぐ、ぐぐぐぐぐ……。
 くぐもった軋み音を立てて、巨大な人型機械が、据え付けられた試作戦闘攻撃機NFX-02に近づいて行く。
 ぎゅばっ!
 奇怪な音を立てて、その人型機械の前面の装甲板が開くというより裂け、その裂け目からから太股にかけて数本のアームが展開した。
 そのアームは金属の輝きを持っていながら、形、動きは妙に生物を思わせる不思議な形状をしていた。
「しゃああ! その調子だぁ!!」
 だん!
 熊谷真実が、無造作にビニール紐でくくられた、フケのふりつもった長い髪をふり乱し、ぎゅっと握り締めた拳をコンソールに叩きつけた。
 無精髭が端正な顔をカビのように覆い、脂の浮いた眼鏡には、数日間ふりつもったフケが張り付いている。
 普段は物静かな学究肌の青年科学者といった風体の熊谷だが、研究開発がクライマックスに入ったとき、『マッドサイエンティスト』の肩書きに相応しい姿になる。
「ちょっと、落ち着きなさいよ、今日はスポンサーが来てるんだから」
 斎木重工業株式会社・朝霧研究所の同僚である、ヘレン・フィールグッドが、顔をしかめながら熊谷をいさめた。
 その視線の先には、斎木重工の代表取締役社長である斎木麗名の姿があった。
 現在ではほぼ日本経済そのものといっていい斎木コンツェルンのオーナー一族の長女であり、斎木工業グループのトップ企業である斎木重工の社長である麗名は、E.G.O.の経済部門の名実ともにトップである。
 その麗名が、富士山の麓、朝霧高原にある朝霧研究所まで足を伸ばすことはめったにない。
 麗名の仕事は、この研究所で開発されたさまざまな実験モデルを実用化し、さらには量産化、採算ベースに載せることである。
 それには、実物を見る必要はなく、実験を見る必要などさらになかった。
 かといって彼女が無駄飯喰らいと見做されがちな研究開発をないがしろにすることはなく、顔も口も出さないが金は潤沢に出す、という、ヘレンたちにとっては実にありがたいスポンサーである。
 これまでに朝霧研究所で開発された兵器の代表は、『PSIエクスパンダースーツ』や『アームドモジュール』といったサイオニクス強化兵器である。
 ヘレンの専門はこちらのサイオニクス工学であるが、 朝霧研究所の事実上の所長の立場にある彼女は、極星帝国という強大な敵との戦時下にあって、何でも屋的な役割を余儀なくされていた。
 ヘレンとしては熊谷の専門である、非効率的な大型兵器の開発実験などに関わりたくはない、というのが本音であるが、昨今は開発途上のものやワンオフものを無理矢理仕上げて、前線に送り出す機会が増えてきている。
 この形で、採算が取れずとも、戦力になることを優先してここから巣立っていったものに、『メカィアーリス』や滝沢花音、γといったサイボーグたちがいる。
 メカィアーリスはその後、生産効率のみを重視した形で、ほぼ使い捨ての兵器として量産化されたものの、兵器としての効率は良いとはいえず、サイボーグたちにいたっては修理すらこの研究所で面倒をみている始末だった。
 そんな、開発途上の非効率的な兵器の代表が、今まさに実験が行われている大型人型兵器である。
「ようし、融合せよ、ブレイブカイザー!」
 アームでがっちりと戦闘機をつかんだブレイブカイザーを見て、熊谷は金切り声で叫んだ。
 この人型兵器を、熊谷はどこからとってきたものか、『ブレイブカイザー』なる名前で呼んでいる。
「いまどき合体ロボなんて……」
 ヘレンは呆れ顔でこの日何度目かのつぶやきをもらした。
「合体ではないっ! 融合! いやっ! 超融合! そうっ! 超融合ロボ、だっっ!!」
 それを聞きつけた熊谷が絶叫した。
「ブレイブカイザーは、これまでメカィアーリスやサイボーグに使用してきた生体金属触媒を基本システムとして使用する画期的な兵器なのだ」
 誰に向かってなのか、熊谷は流れるような口調でべらべらとまくしたて始めた。
「当研究所で開発されたカタリスティクバイオメタル・カイザニウムが通常なら大変困難である有機物と無機物の結合を可能にした」
「カイザニウムって……」
 ヘレンはため息をついた。熊谷がどんな大げさな芝居がかった名前で呼ぼうと、彼女にとってはただの研究開発コードM-CB82に過ぎない。
「だが! 私が開発に成功したニューカイザニウムは、結合を超えて融合を可能にしたのだっ!」
「ただグズグズに融かして屑鉄にしちゃうだけじゃないの。産廃処理には役立つかもしれないけどさぁ」
 ヘレンは毒づいた。だが、熊谷はかまわず続ける。
「生体金属を間接部分に使用することで従来のモータ、アクチュエータを遥かに上回る効率、メンテナンスフリーの駆動が可能になったことは、数々の実験ケースで明らかだった。それを応用することで、人類の夢であった巨大ロボが実現可能になったのだっ!」
「……おまえの妄想を人類の夢にするなっ!」
 耐えかねたヘレンは、ベシッと熊谷の後頭部をはたいた。
「これからがいいところなのに……」
 熊谷はずり落ちた眼鏡を引き上げながら嘆いた。
「コンセプトは資料で知っているわ」
 初めて、麗名が口を開いた。
「私が興味あるのは、メンテナンスフリーの大型兵器と、新旧多様な兵器を仕様統一なしでオペレーション可能なメインモジュールなのだけれど」
「そうっ! それですっ!」
 熊谷は我が意を得たりとばかりに麗名に向かって人差し指を突き出した。
「ニューカイザニウムを基本フレームおよび装甲に使用することで、ブレイブカイザーは金属の生命体としてメンテンナスフリーを実現し、古今東西あらゆる兵器との超融合を可能にしたのですっ!」
「つまり……?」
「なんでもかんでも無節操に自分の武器・パーツにできるってことです。……うまくいけば」
 麗名の視線を受けて、ヘレンがいやいや補足説明した。
「専用のパーツを設計からしなければならない合体メカの呪縛から、ブレイブカイザーは解き放たれたのですっ!」
 熊谷は拳を天高く突き出した。
 その眼下で、ブレイブカイザーは試作戦闘機を取り込み、機首を胸から突き出させ、主翼を背に、推進器から尾翼を腰に装備した飛行ロボといって良い形状に変形していく。
「これこそがっ! 超! 融! 合っ! さあっ! 今こそその力を見せよっ! 超融合ロボッ! ブレイブぅっ! カぁイザぁぁあっ!」
 ごとん、ぐしゃっ! どしゃっ!
 両手を広げて叫んだ熊谷の背後で、ブレイブカイザーの全身から戦闘機のパーツが音を立てて落下した。
「あれ……?」
「…………」
 ほんの少し前まで、戦闘機であったばらばらの物体は、火に投げ入れられたプラモデルのような無残な姿となって地面に散らばっていた。
「触媒が多すぎたかな……」
 熊谷はぼりぼりと一月近く洗っていない頭を掻いた。
「試作品といっても、あの戦闘機だって安いものじゃないのよ」
 顔を覆ったヘレンの横で、麗名は静かな声でいった。その顔には冷たい笑みが張り付いている。
「メンテナンスフリーの巨大兵器だけをコンセプトにすることね」
「そんなぁ……」
 熊谷はがっくりと肩を落とした。

次回予告
稲妻 VS 氷狼


COMMENT

愛用のグラサン。
1500円くらいだったかな。

http://www.ops.dti.ne.jp/~marekatu/index.html


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