◆十将軍十番勝負 序章
カードゲームデザイナー 中井まれかつさん
 アメリカ合衆国はニューヨーク。かつて世界の経済、外交の中心地として隆盛を誇ったマンハッタン島に、アトランティス王国のドラゴンズ・パレスはあった。
 城塞が巨大な多頭竜の背に据え付けられ、竜の頭がゆっくりとくねり、刺すような瞳が周囲を睥睨していた。
 その足元に、二騎の人馬が近づいていった。
 一騎は、真っ赤な鬣の汗馬と、それに跨った黒髭をたなびかせる偉丈夫。
 もう一騎は、真っ黒な肌の麒麟に乗った、男装の女性だ。
 極星帝国は夏王国の将軍、関羽と、同じく夏の摂政であり、将軍でもあることから太師の称号で呼ばれる女仙人、聞仲であった。
 関羽の乗騎は、赤兎馬。聞仲の乗騎は黒麒麟。黒麒麟は飛行能力を持つため、逞しい脚からもうもうと土煙をあげて疾走する赤兎馬とは対照的に、優雅に宙を翔けていた。
「開門、開門!」
 ドラゴン・パレスを背負う竜の頭のひとつ、その真下まで近づいた関羽が、赤兎馬の手綱を引き、大音声を発した。
「十将軍が一、関雲長! 太師聞仲とともに、レイナ姫のお呼びにより参上つかまつった!」
 その声に応え、巨竜の頭が地上に降りて来た。
 ずぅん。地響きを上げて着地した竜の額に、竜を模した鎧兜に身を包んだ男がひとり、すっくと立っていた。
「お待ちしていた。乗騎はそのまま、こちらへ」
「これは、ラスタバンどの。御自らお出迎えとは忝い」
 赤兎馬から降りたった関羽は言った。
「礼には及ばんよ。竜どもが騒がしいので何事かと様子を見に来たまで。どうやらお主らの気に反応しただけだったようだ」
 十将軍がひとり、ドラゴン・ロードこと、アトランティス王国将軍、シャルルマーニュ・ラスタバンは肩をすくめた。
「黒麒と赤兎はこのままで大丈夫か?」
 聞仲が黒麒麟の背から巨竜の頭にひらりと飛び降りながら尋ねた。
「こいつらに任せておけば間違いない」
 ラスタバンは足元の竜を示して笑った。
「ドラゴン・パレスのドラゴンの眼下ほど安全な場所はそうないぞ」
「確かに」
 竜の頭に駆け登った関羽も複雑な微笑を浮かべた。
 シャルルマーニュの言葉は逆に、ここでアトランティスに逆らうことの危険性も示していたからだ。
 ひゅうっ。
 ラスタバンは低く口笛を吹いた。
 すると、三人を載せたまま、巨竜の頭部がぐうっと持ち上がった。
「一同お待ちかねだ。このまま直行するぞ」
「我らが最後か?」
 聞仲の問いにシャルルマーニュがうなずくうちに、巨竜の頭はパレスの塔のひとつのバルコニーに接近した。
「よっ、久しぶり」
 竜の頭から、バルコニーに降り立った三人に、アンデッド・ロードことレムリア王国の将軍、ジュバが気安げに手をあげた。
「遅いぞ」
 巨大な大理石のテーブルの前で背筋を伸ばしたまま、苦々しげな口調で言ったのは、ランスロット。キャメロット王国の将軍である。
「太平洋を渡ってきてるんだ。少しは大目に見てやってもいいんじゃないか?」
 だらしなく、卓上に足を乗せているのは、カウス・ボレアリス。アルフヘイムのエルブン・ロードだ。
 彼もまた、遠くオーストラリア大陸から、海をひとつと大陸を半分渡ってこの地にやってきていた。
「それはここにいる誰も同じだぞ。アトランティスの者を除いてはな」
 そう言って、皮肉そうにシャルルマーニュに目をやったのは、アレクサンダー。アレクサンドロス大王国の国王にして、極星帝国の十将軍を兼任している。
 他の国が国王とは別に十将軍を任じられているのに対し、大王国だけが特殊な人事となっているのは、極星皇帝マクシミリアン・レムリアース・ベアリスに最後まで抵抗し、七つの王国のうち最も遅く帝国に加わったことへの報復であり、最も広大な土地と国力、軍事力を持つアレクサンダーへの牽制であることは、誰の目からも明らかだった。
(あいつがアレクサンダー。ユーラシアの大半を支配してる)
 ジュバがそっと、傍らで腕組をしている織田信長に囁いた。
(いずれおまえが殺さなきゃならない相手だな)
(望むところよ)
 ジュバの囁きに、ごく最近十将軍に加わったばかりの信長は、不適な笑いで応えた。
「お待たせして申し訳ない。しかし、陛下も筆頭将軍の姿も見えないようだが?」
 聞仲が慇懃に頭を下げてから、挑発するように言った。
(最後に来た二人組が夏の関羽と聞仲。一番手ごわい連中だな)
(唐土の将軍と軍師だな。ことを起こすなら、最初に戦うことになるか)
(そういうこと)
 ジュバは、髑髏が剥き出しの半面で器用に笑って見せた。
「陛下はお出でにならぬ」
 そこに、靴音高く入ってきたのは、レイナ・アークトゥルス。アトランティスの王女にして、十将軍筆頭、皇帝の腹心の部下であった。
 すっ、と、これまで無言であったラユュー・アルビレオが無言のまま席を立ち、直立不動の姿勢をとった。
 それに気付き、ランスロット、ラスタバン、それ以外とラユューに続く。
 最後に鷹揚に立ち上がったのは、アレクサンダーであった。
 レイナは一同を見回し、着席を促した。
「この度の皇帝陛下よりの我ら十将軍へのご下命は、十将軍筆頭たるこの私、レイナ・アークトゥルスがうけたまわっている」
 レイナは、皇帝から賜った姓である、アークトゥルスをことさら強調して発音し、皇帝との繋がりを暗に示してみせた。
 皇帝が星々から選んでつける新しい姓は、皇帝の覚えが目出度いことを示している。
 十将軍のなかでは、ジュバ、レイナ、シャルルマーニュ、ラユュー、カウスが星の姓を下賜されている。
「それで、命令というのは? オレたちをわざわざ集めたからにはそれなりの命令なんだろう?」
 カウスが尋ねた。彼は、常に飄々としていて、誰に対しても物怖じをしない。礼儀知らずなわけではないが、皇帝に対しても本当の名を決して明かそうとはせず、便宜的にカウス・ボレアリスという星の名を通称として与えられたことからもその性格は推し量れた。
「この地の者どもに、共闘の動きがある。それに対し先手を打つ」
 レイナの言葉に、一同の表情が変わった。
「我ら十将軍ひとりにつきひとり。これから挙げる十名の首級を挙げよ、とのご命令だ」
「面白そうだな」
 ジュバが笑った。
「その十名の名は?」
 聞仲が尋ねた。
「E.G.O.は首領、斎木遊名。同東海林光。阿羅耶識は首領、厳島美鈴、同各務秋成、斎木奈々。WIZ-DOMはクラリス・パラケルスス、ステラ・ブラヴァツキ、ガブリエル。ダークロアは夜羽子・アシュレイ、シルマリル、ルシフェル」
 レイナは一息に言った。
「名に聞こえた強者ばかりだな」
 関羽が言った。
「でなければわざわざ我らをこうして集めはしまい」
 ランスロットが深々と息を吐いた。
「誰が誰をやるかは選ばせてもらえるんだろうな?」
 アレクサンダーが尋ねた。
「むろん。そのための軍議だ」
 レイナは微笑した。

次回予告
十将軍十番勝負 その1


COMMENT

愛用のグラサン。
1500円くらいだったかな。

http://www.ops.dti.ne.jp/~marekatu/index.html


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