◆十将軍十番勝負その3 ペルセウスの三者面談 前編
カードゲームデザイナー 中井まれかつさん
「転校生ということでいろいろご迷惑をおかけしたのではないでしょうか? この通りおとなしい子ですし……」
 涼しげなブラウスに、カシュクールのフレアスカート姿のガブリエルは、隣に並んで腰掛けた制服姿の榎本アンナに視線を走らせた。
「いえ、もうすっかりクラスに溶け込んでいますからご安心ください。学業や素行はまったく問題ありませんし」
 1年B組の担任教師はにっこりと微笑んだ。
 今日は、アンナたちの学校の三者面談の日である。
「そうですね、もうすこし積極性が出てくれれば担任として言うことはありません」
「そうですか。では、今後ともよろしくお願いします」
 ガブリエルはぺこりと頭を下げた。アンナもそれに続いた。
「それでは、失礼します」
 ガブリエルとともに立ち上がったアンナに、担任は声をかけた。
「廊下の敖紹くんに入るように伝えてください」
「はい」
 アンナは無表情に応え、がらりと扉を開いた。
 そこには、珍しく詰襟をきちんと閉めた南海竜王敖紹と、その兄である東海竜王敖広のまじめくさったスーツ姿があった。
「……!」
 ぴくりと反応した敖広を敖紹が肘でつついた。
(兄さん! 今日のところは……)
(わかってる! 対帝国作戦も討議中だからな。問題を起こす気はない。ただ面食らっただけだ)
 ひそひそ声で敖紹と敖広は会話を交わす。
 一方のアンナとガブリエルも天使だけに聞こえる高波長の声で会話していた。
『ガブリエルさま。クラスメイトの南海竜王とお兄様の東海竜王です』
『そう、この方たちが……敖紹くんには仲良くしてもらっているのよね?』
『はい』
 結局、ガブリエルと敖広はお互いに軽く会釈を交わすのみで、無言ですれ違った。
「アンナちゃーん」
 その背後から、大きく手を振りながらぱたぱたと足音を立てて走ってくる少女がいた。
 制服にツインテールの少女を認めたアンナは足を止めた。
「ガブリエルさま。茗子さんです」
「皆口茗子さん? E.G.O.の」
「はい」
 ガブリエルも足を止めて振り返った。
「このひとがガブリエルさん?」
 茗子は目を輝かせてアンナとガブリエルを交互に見た。
「はい」
「やっぱり、すっごーく綺麗なひとだねえー」
 茗子はガブリエルの美しい髪をうっとりと見つめた。
「皆口茗子さんね。アンナから聞いてます。いつもアンナと仲良くしてくれてありがとう」
 ガブリエルは微笑んだ。
「あ! はじめまして、皆口茗子です!」
 茗子はかなり失礼な言動をとったことにいまさらながら気付き、慌ててふかぶかとお辞儀をした。
「皆口さんの親御さんはまだ?」
 ガブリエルは尋ねた。
「だって『み』ですから。五十音順だからまだまだ時間あるんですよお。アンナちゃんは『え』だから早くていいよね」
「はい」
「ショーちゃんのお兄さんには会った?」
「はい」
「スッゴイかっこよくなかった? ショーちゃんはちょっと頼りない感じするけど、お兄さんはちょっとワイルドな感じで、でもびしっとキメてて」
「うふふ」
 オーバーアクションでおしゃべりに興じる茗子の姿を見て、思わずガブリエルの口から笑いがこぼれる。
「アンナから聞いている通りのお嬢さんね」
「え? やっぱりそんなに可愛いですかあ?」
 顔をあげた茗子はにこにこと笑った。
「…………」
 アンナは気まずそうな表情で茗子とガブリエルを交互に見ている。
「うふふ。そうね、とても活発で可愛いわ。見ているとこっちまで元気になれる」
「んー? なんかそれってバカっぽくないですか?」
「そんなことないわ。皆口さんのおかげでアンナもずいぶん明るくなったのよ。これからもお友達でいてあげてくださいね」
「任せてくださあい! あと、『茗子ちゃん』でいいですよ?」
「わかったわ。茗子ちゃん」
 もはや、ガブリエルは茗子の言葉に笑みがこぼれるのを抑えようとはしなかった。
「ほらあ、アンナちゃんも呼んでよね。いつまでもさん付けなんだから」
「でも」
「デモもストライキもなし!」
「それは古すぎるジョークです。そして、茗子さんは茗子さんです」
「またあー」
 頬を膨れさせる茗子に、ガブリエルは頭を下げた。
「ごめんなさいね。アンナはこういう子だから。でも、昔にくらべたらずいぶん明るく、年相応になったのよ。茗子ちゃんたちのおかげね」
「えへへー」
 茗子は照れ笑いを浮かべる。
「時間があるなら、ショーちゃんやこてっちゃんともお話してってくださいよお。こてっちゃんはガブリエルさまがそんなに美人なら会ってみたいって」
「そうね。茗子ちゃんの親御さんにもご挨拶しておきたいし」
「げ。そ、それはちょっと……」
 口ごもる茗子に、アンナが尋ねた。
「何故ですか?」
「うちのおかーさん美人じゃないし、年取ってるし。ガブリエルさまと並んじゃうとさあ……」
「それが何か問題ですか?」
「……なんだか不思議な感じね」
「?」
 アンナと茗子の会話を眩しそうに聞いていたガブリエルの言葉に、アンナは怪訝そうな表情を浮かべる。
「イレイザーからWIZ-DOMに移ったわたしが言うのはおかしいかもしれないけれど……こんな風に話せるものなのね」
「はい」
 アンナは珍しくにっこりと笑ってうなずいた。
「ですから、ガブリエルさまには是非他の皆さんにも会っていただきたいです」
「だよねー」
 アンナの言葉に、茗子はこくこくとうなずいた。
「あ、ちょーどいい。ケイトくんだ。一緒にいるのは親戚の人かな?」
 茗子がガブリエルの後方から近づいてくる百武ケイトに気付いた。
「おーい、ケイトくーん! ほら、前に話してたアンナちゃんの」
 大きく両手を振ってケイトを呼ぶ。
 アンナとガブリエルもゆっくりと振り向く。
「……ガブリエル?」
 ケイトは確認するように尋ねた。
「はい」
「だそうです。ラユューさま」
 ケイトは隣のスーツ姿の女性に向かってうなずいた。
「ラユュー?」
 ガブリエルは怪訝な顔を浮かべる。
「はじめまして。ムー王国国王の姉にして、極星帝国十将軍、ラユュー・アルビレオ」
「え? えええ? 何? 何なのよお?」
 突然のことに茗子は軽いパニックに陥った。
「大天使ガブリエル、あなたを殺しに来た」
 ラユューの髪が揺れ、額の第三の目がぎらりと輝いた。

次回予告
十将軍十番勝負その3 ペルセウスの三者面談 後編


COMMENT

愛用のグラサン。
1500円くらいだったかな。

http://www.ops.dti.ne.jp/~marekatu/index.html


AquarianAge Official Home Page © BROCCOLI