◆十将軍十番勝負 その6 関羽VS各務兄妹 後編
カードゲームデザイナー 中井まれかつさん
 びゅん! どがっしゃあ!
 赤兎馬に乗った関羽が駆け抜けた後から、衝撃波が各務秋成を襲った。
「うお!」
 秋成は、腕を上げて飛び散る礫から顔面をかばった。
「馬で音速超えてるってのかよ!?」
 何度目かの舌打ちをもらして、秋成は小走りに駆け出した。
「勝ち目はねえし、勝っても負けてもいいことねえし。こんな戦いは逃げるのが一番……」
 どどどっどどどど!
「逃がさん!」
 鮮やかな手綱さばきでとって返してきた関羽が秋成の行く手を遮った。
「やっぱダメか」
 秋成は肩をすくめた。
「それじゃあ、二の線で行かせてもらいますか」
 いいながら、腰を落として身構え、ボロボロのコートのポケットをまさぐる。
「やっとやる気になったか」
 関羽はどことなく満足げな表情を浮かべ、矛を構え直した。
「そういうわけでもないけどな」
 秋成はうそぶきながら、ポケットの中の感触を確かめてから叫んだ。
「来いよ、関羽!」
 その瞬間、秋成の左目の瞳の色が、焦げ茶色から鮮やかな赤紫色に変わった。
 邪視。レッド・アイ。さまざまな名称で呼ばれる、魔力を持った眼差し。秋成の瞳には、生まれつき魔力が宿っていた。
 それは、ダークロアの血を引くと言う母から受け継いだものに間違いなかった。
「魔眼か! しかし、そんなものでワシは倒されんぞ!」
 怯えいななく愛馬を力でねじ伏せ、関羽はその視線を真っ向から受け止めて突進する。
「倒すのが目的じゃねえからいいんだよ」
 秋成は呟き、ポケットから、先ほどから握り締めていた黒く焼け焦げた二本の小枝と、オイルライターを取り出した。
 かちん! しゅぼ! ぼぼぼぼ……!
 オイルライターの火が、あっという間に枝に燃え移る。
 秋成は素早く呪文を唱え、燃える枝を砕きながら周囲に撒く。
「オンアクウン! 被甲護身! 護摩の法!」
 撒かれた灰が淡い輝きを発し、秋成の周囲に障壁を作る。
「ふん、その程度の結界、見飽きたわ! 結界ごと貫いてくれる!」
「おいおい、殺さないって言ってたくせに……」
 関羽の鼻息に、秋成は苦笑しつつ、もう一度同じ動作を行う。
「二重の護摩壇の灰の結界だ。多少は効果あるだろ」
 そして、関羽に向かって視線を戻す。
「アンタを殺せはしないけどな、しばらく寝込ますことぐらいはできるんだぜ。相打ち覚悟ならな!」
 ぐんっと腰を落とし、手の平を開いたまま、片腕をゆっくりと目の前にかざした。
「その意気や良し!」
 叫んだ関羽の繰り出す矛が、輝く障壁を次々に砕き、秋成の胸へとまっすぐに向かう。
「殺る気満々じゃねえかよっ!」
 秋成は毒づきながら、腕で矛の穂先を内側に受け流す。
 さらに、受け流しながら矛を軸に身体を捻り、右足を高くあげる。
「ぬん!」
 その間も視線は関羽から逸らさない。
「ぬりゃあ!」
 矛の穂先は肩を貫くに任せ、大地を捉えた左足の足先から、高く上げた右足の先までを一気に伸ばす。
 どがぁっ!
 全身の発条と、地面を使った渾身の蹴りが、カウンターで関羽の顎に入った。
「ぐはっ!」
 自身の運動エネルギープラス、秋成の全身の筋肉の威力を丸ごと食らい、さしもの関羽もたまらず落馬する。
「痛ってぇ……」
 矛に左肩を見事に貫かれ、秋成は呻いた。
「このワシを落馬させるとは……見事といっておこう。しかし、この程度ではまだまだ……ぬ!?」
 関羽は、立ち上がろうとして、手足に力が入らないことに気付いた。
「貴様……」
「やっと気付いた? アンタがしばらく身動きできなくなればよかったんだよね。オレの目に見られたヤツはしばらく動けなくなる。まあ、気絶しなかっただけ見事だよ。それが心配で、一応馬から落としておきたかったんだよね……痛っ!」
 ぐぼっ! 肩から矛を引き抜き、秋成は顔をしかめた。
「で、問題は残りの連中だな」
 秋成は懐から取り出したハンカチを裂いて、血止めにきつく肩の付け根に巻きつけながら、注意深く周囲を窺う。
「やれっかな……やってる間に関羽に回復されるとまた厄介だし。護摩の灰は使い切っちまったし……」
「心配いらん」
 そこに、砂煙の中から声がかけられた。
「雑魚は私が始末しておいた」
 そういいながらすたすたと関羽に向かって歩いているのは、各務柊子。秋成の異母妹にして、各務流退魔拳法の統主である。
「柊子?」
「貴様にしては上出来だな。伝説の関将軍の足を止めるとは」
「……各務柊子か」
「はい。将軍、お覚悟を」
「……聞太師はどうしている?」
「降伏なされ、捕虜に。しかしながら、極星帝国内部の情報の見返りに、客分として遇させて頂いております」
「……一息にやってくれ」
「各務流退魔拳法の本分なれば」
 うなずいた柊子の掌に白い光が宿る。
 それに、関羽もうなずき返し、目を閉じる。
 とん。
 ゆっくりと伸びた柊子の揃えて伸ばした二本の指が関羽の眉間を軽く突いた。
 がくり。
 その瞬間、関羽の全身から、力が完全に抜けていった。
「柊子……」
 関羽の死体に黙祷を捧げる柊子に、秋成は声をかけた。
 しかし、柊子はそれを無視して話しはじめた。
「今の話は聞いていたな? 聞仲が降伏していろいろな情報が得られた。十将軍がそれぞれターゲットを決めて暗殺に動いている。お前もそのひとりだった。それで、美鈴の命で私がここに来たというわけだ」
「余計なことを……オレよりお前の命の方が重要だろ」
 秋成の言葉に、柊子はうなずいた。
「無論だ。お前には新しい任務がある」
「新しい任務?」
「私の護衛をして、ユーラシアを縦断、ダークロア、WIZ-DOMに連絡を取る」
「……おいおい」
「私も貴様と組むなど真っ平だがな、確かに他に良い捨て駒がいない」
「捨て駒かい」
 秋成は苦笑した。
「さて。愚図愚図している暇はないぞ。貴様、馬は?」
「もちろん、いけるぜ」
「では、あちらに雑魚の馬が残っている……私はこれにするか」
 柊子は言いながら、関羽の死骸に向かって頭を垂れていた赤兎馬の首を軽く叩いた。
「いい子だ。よろしく頼むぞ」
 そう話しかけながら鐙を調整して、柊子はひらりと赤兎馬の背に跨った。
「早くしろ。あまり時間がない。詳しい情勢は移動しながら話す」
 手綱の感触を確かめながら、柊子は秋成を促した。
「へいへい」
 秋成は肩をすくめて、騎馬兵たちの死体が転がる中を歩き始めた。
「やれやれ、とびきり厳しい任務を柊子と組んで、とはねえ。美鈴ちゃんもやってくれるよ」
 毒づく口調とは裏腹に、秋成の顔には、微かな笑みが浮かんでいた。

次回予告
十将軍十番勝負その7 信長VSグレート・マザー


COMMENT

愛用のグラサン。
1500円くらいだったかな。

http://www.ops.dti.ne.jp/~marekatu/index.html


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