◆■十将軍十番勝負 その7 織田信長軍VSE.G.O. 中編
カードゲームデザイナー 中井まれかつさん
 ずしん。ずしん。
 地響きを立てて、ゆっくりと巨大な人型の影が歩いていく。
 E.G.O.朝霞研究所から、ブレイブカイザーが到着したのだ。
「そこでストップ」
 電子装備を満載したトレーラーのコンテナ中で、斎木麗名が言った。
 本来は輸送用の装甲を施されたトレーラーを改装し、前線指揮車として使用しているのだ。
 トレーラーの中にいるのは、麗名のほかは、白衣にインカムを着けた熊谷真実、制服姿のふたりの少女、斎木美奈と斎木新名、数体のアンドロイドオペレーター。そして、戦闘服姿でライフルを構えたドリス・ラングレーが、影のように麗名に付き従っている。
「ブレイブカイザー、エリアG−4で移動停止してください」
 ケーブルで電子機器に直結されたオペレーターのアンドロイドが、麗名の言葉を汲み取り、指示を出す。
 命令が届き、ブレイブカイザーの歩みがぴたりと停止した。
「ブレイブカイザー、エリアG−4到着。待機状態に入りました」
 アンドロイドの報告に、麗名はごくかすかにうなずいて見せる。
「待ちに待ったブレイブカイザーの初陣! 機会を与えてくれてありがとうございますっ!」
 興奮した声をあげているのは熊谷真実。ブレイブカイザーを開発したマッドサイエンティストだ。
 元は真面目で内向的な、なかなか芽の出ない研究者だったが、何があったのか、何時からかはじけた言動と卓越した開発能力を発揮し、頭角をあらわした。
「そうね。期待しているわ」
 麗名は熊谷を振り返りもせずに言った。
「伊達政宗隊、C−8よりD−7方面へ移動を開始しました」
 オペレーターの報告に麗名はうなずいた。
「メカィアーリス隊をFラインに展開」
「メカィアーリス隊、Fラインに移動してください」
 オペレーターの声にモニター状の光点が移動していく。
「ブレイブカイザーもメカ隊に合流」
「ブレイブカイザーとメカィアーリスの超融合! それだ! さぁっすが社長!」
 熊谷の言葉に、麗名は、眉をしかめた。
「少しコマが足りなかったのよ。私としては……」
 愚痴になりかけていることに気付き、麗名は後の言葉を呑み込むと、気を取り直してオペレーターに質問した。
「真田隊の動きは?」
「まだありません」
「見逃さないでね。……花音、γ、ΛをG−4に」
「滝沢花音、サイキック・ウェポンγ、キャンセラーΛ、エリアG−4に移動してください」
「美奈、新名。あなたたちも準備を」
 オペレーターの声が響くなか、麗名は背後を振り返った。
「はーい」
「…………っ」
 明るく手を上げて返事をした斎木美奈とは対照的に、斎木新名は真っ青な表情でうなずくので精一杯の様子だ。
 麗名は、そんな新名の肩に手を置くと、ぎゅっと力を込めた。
「あなたも斎木の家に生まれたからには、いずれ、この日が来ることはわかっていたはず」
「…………」
 新名は麗名の顔を見ることができないまま、びくりと肩を震わせた。
「伊達隊、D−7到達。引き続きD−6方面へ移動しています」
「真田隊動きました。D−3からE−4方面へ移動。同時に豊臣本隊も移動開始。B−5からC−5方面へ直進」
 麗名はさっとモニター正面へと踵を返した。
「メカ隊、砲撃開始。伊達隊へ一斉射後、ブレイブカイザーと真田隊を攻撃。サイボーグ隊は直進。伊達隊を追撃」
「メカィアーリス隊、Eラインへ前進。D−6からD−5の伊達隊を砲撃」
「サイボーグ隊、エリアE−4へ移動してください」
 オペレーターの声が錯綜する中、麗名は振り向かずに言った。
「『ちから』を受け継いだあなたなら、できるわ。私と違ってね」
「……はい。お母さん」
 新名は小さく、だがしっかりとうなずいた。
「新名ちゃん、行くよ」
「あ、はい!」
 重たい扉を開きながら、美奈が声をかけてくる。
「行ってきます!」
 新名は麗名に手を振ると、軽やかに駆け出した。
 その姿を見送った麗名は、不安げな表情を浮かべた顔を伏せた。
 顔を伏せていたのはほんの一瞬で、ふたたび顔を上げたときには、母親の表情はなく、指揮官の顔に戻っていた。
「サイキック隊は豊臣隊を直接攻撃」
 麗名の声は、血の繋がった少女たちへの命令を静かに告げた。
「私も参りましょうか? ご心配でしょう?」
 作戦開始以来、初めてドリス・ラングレーが声を発した。
「今のあなたの役目は指揮官の護衛よ。まだその局面ではないわ」
 麗名はきっぱりと言った。
「出すぎたことを。申し訳ありません」
 ドリスは素直に引き下がる。しかし、鍛え上げられたドリスの耳は、麗名の小さな声を捉えていた。
「……ありがとう」
 静かに微笑を浮かべたドリスの耳に、今度はオペレーターたちのよく通る声が届いた。
「伊達隊、敗走。メカィアーリス隊はエリアE−5で真田隊と交戦を開始しました」
「サイキック隊、C−5にて豊臣隊と接触……豊臣隊、ふたつに別れました。分隊はエリアD−5を突破。Eラインに向かっています」
「指揮官はわかる?」
「確認します。お待ちください……」
 麗名は焦りの表情を浮かべた。
「本隊は豊臣秀吉。分隊は島津義弘が指揮をとっています。……分隊は全員がスケルトンホースに騎乗」
「!」
 麗名の表情が変わった。
「メカィアーリス隊、壊滅しました」
「な! カイザーは? 私のブレイブカイザーは!?」
 熊谷が血相を変えてオペレーターを締め上げる。
「活動停止。現在自動修復モードです」
 首を締め上げられながら、アンドロイドのオペレーターは淡々と報告する。
「ふぅ……」
 それを聞いた熊谷は安堵のため息をもらし、オペレーターを解放した。
「それなら大丈夫だ。カイザニウムは時間さえあれば元に戻る」
 一方、麗名はきつく唇を噛み締める。
「やられた……」
 どん、とモニターを拳でたたき、頭を振る。しかし、ふたたび一瞬の後に指揮官の表情に戻る。
「ドリス。アームドモジュールIX-0を使っていいわ。サイボーグ隊と合流して幸村を倒して」
「承知いたしました」
 麗名の命令にドリスは一礼して、静かにトレーラーを出て行く。
「指揮車、撤退開始」
「指揮車Gラインより戦線を離脱します」
 オペレーターの声と同時に、装甲トレーラーが重い響きとともに動き出す。
「サイキック隊と豊臣本隊の状況は?」
「豊臣本隊、敗走を開始しています」
 オペレーターの報告に、麗名は穏やかな表情を浮かべた。
「……遊名に繋いで」
「回線開きます」
『苦戦してるみたいね』
 モニターに遊名の顔が映し出されると同時に、声が響いた。
「ごめんなさい。やっぱり私には戦いは無理だったみたい。島津隊に抜けられそう。できるだけひきつけるから。後はお願いね」
『島津隊だけ? それなら予想よりも楽ね。もうじき援軍が到着するはずよ』
 麗名の苦い言葉を、遊名はあっさりと打ち消した。
「援軍? 徳川隊は?」
 麗名の質問に遊名は笑って応えた。
『壊滅させたわ。もともと守り向きの部隊編成だったから、なんてことはなかったわ。さとりと真純がいたしね。楽勝よ』
「島津隊、指揮車に接触します」
「!」
 オペレーターの報告に、麗名は窓に目を向けた。と、その瞬間。
 ごうっ! ごぉおおおおお!
 轟音とともに、火柱が麗名の視界を覆った。
『時間ぴったり。姉さんのことだから、幸村はきっちり始末してくれたんでしょう? あいつだけは厄介だから』
 モニターの中の遊名が微笑んだ。その言葉に、麗名は指揮官である自分もコマに過ぎなかったことに気付いた。
「クロスファイア隊、到着しましたっ」
 窓から、五十嵐なつきが飛び込んできて、麗名の前でおどけて敬礼してみせる。
「なつき、失礼よ」
 こちらは、きちんと扉から入ってきた五十嵐ふぶき。
「島津隊、壊滅」
『この子たち相手に、数攻めなんて無意味よね』
 オペレーターの報告と遊名の声に、麗名はうなずくことしかできなかった。
『あとは、佳名がうまくやってくれることを祈りましょ……』


次回予告
十将軍十番勝負その7 第六天魔王織田信長軍VSE.G.O. 後編


COMMENT

愛用のグラサン。
1500円くらいだったかな。

http://www.ops.dti.ne.jp/~marekatu/index.html


AquarianAge Official Home Page © BROCCOLI