◆星に願いを
アクエリアンエイジ開発チーム

 真夏の太陽が沈み、大地が蓄えた熱を吐き出し終え、吹き抜ける風は涼しさを運びはじめている時間。
  E.G.O.の総本部である斎木家の屋敷の一室に、2人の女性が通されていた。
  ひとりは、東海林光。





  ライトニングディーヴァの二つ名を持つ、電子を操る能力を持つ超能力者。E.G.O.の切り込み隊長である。
  多くの戦いの場を経験した、叩き上げの実力者だ。
  それ故他の勢力の実力者とも面識が多く、他勢力との協同作戦などにも顔を出すことも多い。
  今日はいつもの動きやすいラフな服装ではなく、白いドレスを身に纏っている。

 もうひとりのセーラー服の女性は、藤宮真由美である。




  サイキック・モンスター、サイキック・プライマル、様々な名で呼ばれているが、地球最強のサイコキネシストである事は間違い無い。彼女もまた、最前線で活躍しつづけている、E.G.O.の重要な超能力者である。
 
  2人の通されたこの部屋は、E.G.O.の経済部門のトップである斎木インダストリー代表取締役社長、斎木麗名のプライベートな応接室である。
  E.G.O.の誇る2人の超能力者は、麗名に呼び出されてここに来ていた。

 2人の間には緊張の色は無く、ゆったりとした空気が流れていた。
「こうしてゆっくりと会うのも久しぶりね、真由美。元気だった?」
「はい、光さんも元気そうで良かったです」
  彼女達は昔からの長い付き合いである。超能力者として、苦も楽も同じ境遇として分かり合える数少ない親友だった。互いに忙しい2人は久しぶりの再会を喜んでいる。
「最近は日本に居ない事の方が多かったみたいですね、光さん」
「そうなの、極星帝国が来てからというもの大変よ。あいつら世界各地に拠点があるから、今回はインド洋かと思えば、次はアメリカとかそんな感じ」
  極星帝国の動向は非常に予測しづらく、且つ迅速で、後手に回った事で数々の場で痛い目をみているのが現状である。その情報収集のため各地の部隊と同行するのも、光の仕事の1つになっている。
「真由美はどうなの?」
「そうですね、最近は新しい子達が随分力を付けてきたので、その子達と一緒に戦う事が多いですね。星野飛鳥ちゃんとか相楽香津貴ちゃんとか」
  光の表情が懐かしい名前に反応する。
「相楽さんて……、あの相楽さん?」
「そうです、あの相楽美由貴さんの妹さんです」
「ホントに、懐かしいなー」
  光は自分のセーラー服時代の事を思い出す。
「私がまだ能力に目覚めて間もないころに、随分世話になったのよね」
「カリスマ性は今も健在ですよ」
「そうなんだ、今度挨拶に行こうかな」
「光さんなら大歓迎ですよ。相楽さん、きっと喜びますよ」
「ちゃんと新しい力が育っているのね」
  光は腕を組み、うんうんと首を振って納得している。
  その様子に真由美も自然と微笑む。

  こんこん
  ドアをノックする音で話は切れる。
「失礼いたします」
  部屋の主の登場かと視線がドアに集中するが、それとは違う聞き慣れた声が来訪者の耳に届く。
  ドアを開き入ってきたのは、斎木家のメイドを束ねるチーフメイド、佐々原藍子だった。




「お久しぶりでございます、光様、真由美様。御挨拶が遅れてしまい、申し訳ありません」
  無駄の無い美しい礼で非礼を詫びると、にっこりと微笑む。
「お久しぶりね、佐々原さん」
「お久しぶりです、佐々原さん」
  2人も笑顔で応えた。
「麗名様は現在、屋敷で行われております、もう一つの催し物の方に出席しておられます。今しばらく時間が掛かるとのことで、私が御連絡を承りました」
「催し物?」
「はい。極星帝国とイレイザーの対策のため、まだまだ根回しが必要とのことで、関係各所の方々を招いて晩餐会を開いております」
「なるほどね、分かったわ」
「伯母様も大変ですね」
  2人は状況を察すると藍子に応えた。
 
「御時間があるようですから、ティータイムといたしませんか」
  そう言って藍子は、ティーセットの乗ったワゴンを部屋に入れる。
  すると、光の表情が一気に明るくなった。
「待ってたのよー!そうだよね、ここに来たら佐々原さんの手作りケーキ食べていかないと」
「何時も楽しみにしているんですよ、佐々原さん。私達サイキッカーは、糖分取っても太りにくいっていうのが、少ない役得の一つですしね」
「そう言っていただけると光栄です。よろしければ、バルコニーで星を見ながらというのはいかがですか」
  光と真由美は顔を見合わせると、そのアイディアに笑顔で賛成の意を見せた。
  
 
  扉を開くと、満天の星空が広がっていた。
  光と真由美はバルコニーに出ると、言葉を失って空を見上げる。
  この屋敷は市街地からも離れているため、街の明かりに遮られる事無く、見渡す限りの星空である。星が掴めそうな感覚というのは、こんな感じなのだろうか。
 
「綺麗な星空ですね、光さん」
「そうね……こんな落ち着いた気持ちで夜空を見上げる事は、しばらくなかったわ」
  数々の国の夜空を見上げてきた光だが、何時も心を休める事の出来ない任務の中で見上げる星空は、安らぎを得るよりも寂しさや不安を感じる事が多かったように思える。
  光の瞳から涙がこぼれる。光はこの瞬間を大切な時間と感じていた。




 その暖かい想いが伝わったのか、真由美は無言で距離をとり、ひらりと手すりに腰掛ける。




  「あら、流れ星」
  藍子が指差す方向に、すっと空から流星のラインが流れてゆく。
  子供のころ聞いた話がある。流れ星が消える前に3回願い事を唱える事が出来たら、その願いは叶うのだと。
 
  混沌の時代、アクエリアンエイジを生きる彼女達は流れる星に何を願うのだろうか。
  彼女達の願いを乗せ、流れ星は夜空に真っ直ぐな輝きを残し消えていった。
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