◆ストレートガール
アクエリアンエイジ開発チーム

  夏休み。
  長く規則正しい毎日の繰り返しを地獄と思う学生と、部活だけのために学校に来ている学生には、天国の時間である。
  暑い校舎と教室から解放される長い休み。
  部活動以外では学校に来ることさえ無いそんな昼時、校舎のある一室では一人の少女が資料を前に悩んでいた。
  生徒会室。
  部屋のプレートにはそう書いてある。
「スポーツの祭典の行われている時期なのに、うちのスポーツの実行委員が怪我で欠員になるなんて」
  困ったと、腕を組んだまま資料を眺めている少女。
  彼女の名は相楽香津貴。この学校の生徒会長である。





  彼女の持つ学生に対するカリスマ性は圧倒的で、この学校の歴代の生徒会長の中でもダントツの支持率で生徒会長へと登りつめた少女である。
  彼女の所属するE.G.O.は学生も多く、その能力はそちらからも信頼されている。
  彼女はこの時期に出た実行委員の欠員を埋めるため、新たな人選に手間取っていた。

「どの子も悪くはないのだけど、何か足りない気がするのよね」
  手に取った資料を机に置くと、大きく伸びをする。
  一息つけ、何気なく窓から部活動の行われている校庭に目を移した。
  !
  その瞬間、香津貴の目の動きが一点で止まる。
  その先には真夏の暑い太陽の日差しを跳ね返すような、活力に満ちた女の子がいた。
「なんだろうあの子、あの子ならいい感じかも」
  そう言って、香津貴は素早く携帯電話を取り出し連絡をすると、足早に生徒会室を飛び出していった。
 
 
 
  数分後、香津貴は目的の場所に来ていた。
「はじめまして、明音鈴さんね。」
  そう声をかけた香津貴は、数分で出来る限りの情報を集めている。
  部活合間の休憩時間に声を掛けられた少女は、突然の声に驚いていた。
「は、はい。明音です」
  答えた少女は、明音鈴(あかねりん)という。
  少し長めの髪を真っ白なリボンで留め、白いセーラー服とちょっと短めなスカートを纏った彼女の健康的な体は、真夏の太陽のを弾き返している。
  その躍動的な身体は、まだまだ成長の中にある、溢れるエネルギーに満ちている。

  その姿をもう一度確かめると
「私は相楽香津貴、この学校で生徒会長をやっているの」
「休憩中悪いけど少しお時間をいただけるかしら」
  鈴が頷くと、香津貴は鈴の正面に腰掛けた。

「さっそくだけど、あなたの生徒会の仕事をやってみない?」
「すいませんお断りします」
「……」
  あまりの即答に香津貴は一瞬ぽかんとしてしまう。
「少しぐらい考えてみる気はない?」
  香津貴は気を取り直して聞きなおす。
  その問いにも頭を下げると。
「すいません。私器用じゃないから、今はスポーツに集中したいんです」
  と鈴ははっきりと答えた。
 
(かなり意志の固い子みたいね、説得は無理かな……じゃあ)

 
「明音さん勝負しましょう。私が勝ったらもっと詳しく話を聞く、あなたが勝ったらもう干渉しないわ」
  その言葉が出た途端に鈴の目の色が変わる。
(うわ、本当に変わったわ、情報どおりね)
  香津貴は事前に調べていた彼女のデータを思い出す。
(DATA、注※勝負に真剣になりすぎる感あり、だったかな)
「分かりました、その勝負受けます」
  その眼差しは真剣で、他に何も考えていない様だ。
 
  勝負のルールはサッカーのドリブル勝負となった。
  鈴がボールを持ちドリブルして突破をする、それを香津貴がディフェンスする。
  鈴は突破できれば、香津貴はディフェンスでボールを取れば勝ちである。
 
  このルールは香津貴が提示した物である。
  運動能力では差が有りそうだが、香津貴にはそれなりの自信があった。
  香津貴もスポーツは苦手ではない、むしろその逆でスポーツ知識には自信があり。頭から入るタイプの少女である。
(さあフェイントでもなんでも来なさい、欧州でも南米でも、必ず受けきってみせるわ)

 2人の緊張の空間に静かに真夏の風が横切る。

「行きます!」
  そう言った鈴の言葉が聞こえた瞬間、鈴との距離は半分に縮まっていた。
 
「ま、まっすぐ!?」
  一切の小細工など無い真っ直ぐなドリブルは、何かしようと反応するより早く、香津貴に驚きと強烈な衝撃を与え、香津貴の意識を途切れさせた。
 

 

 香津貴は額に冷たい温度を感じて目を覚ました。
  うっすらと目を開けると、木陰で鈴に膝枕されて、濡らしたハンカチを額に当てられている状態だった。
「あ、気がつきましたか、良かった」
  鈴は安堵した顔で微笑む。
「すいませんでした。私、勝負って聞くと熱くなっちゃって」
  申し訳なさそうに謝る鈴に、知っていてけしかけた自分が悪いのだと香津貴は思う。
 
「完敗だわ、明音さん。」
  そう言って香津貴は寝たまま手を差し出す。
「いえ、相楽先輩が攻める手番を私にくれたからです。私が守りに回っていたらきっと逆になっていたと思います」
  そう言って差し出された手を握る。
  膝枕と手の温もり、木陰の涼しさ、額のハンカチ、香津貴は全てが心地良かった。
「あなたに興味が湧いたわ、今後は友人として仲良くして貰えないかしら」
  香津貴は、自分が惹かれた鈴の持つ魅力が、なんとなく分かり初めた気がした。
「もちろんです!私も相楽先輩とその生徒会に少し興味が出てきました」
「ほんとに!じゃあ、ひょっとして!」
  香津貴は笑顔で起き上がる。
「でも今はだめです。もう少し時間をください、その時は生徒会に全力で集中してもいいですから」
「OK、期待してるわ」
  軽く香津貴は頷くと手を伸ばし鈴の手をとり起こす。

「じゃあ、次からは鈴と呼んでください」
「分かったわ、私も香津貴でいいわよ鈴ちゃん」
「はい、香津貴先輩」
  そうやって再び固く握られたその手は、彼女達に今後、学校生活を大きく変えることになりそうな、わくわくする予感を与えていた。



明音鈴

back
AquarianAge Official Home Page © BROCCOLI