<?xml version="1.0" encoding="UTF-8"?>
<rss version="2.0"
	xmlns:content="http://purl.org/rss/1.0/modules/content/"
	xmlns:wfw="http://wellformedweb.org/CommentAPI/"
	xmlns:dc="http://purl.org/dc/elements/1.1/"
	xmlns:atom="http://www.w3.org/2005/Atom"
	xmlns:sy="http://purl.org/rss/1.0/modules/syndication/"
	xmlns:slash="http://purl.org/rss/1.0/modules/slash/"
	>

<channel>
	<title>アクエリアンエイジ公式サイト &#187; フラグメンツ</title>
	<atom:link href="http://www.aquarian-age.org/category/story/fragment/feed/" rel="self" type="application/rss+xml" />
	<link>https://www.aquarian-age.org</link>
	<description>美少女TCG（トレーディングカードゲーム）の真骨頂「アクエリアンエイジ」公式サイト 2011年10月より新シリーズスタート！</description>
	<lastBuildDate>Fri, 21 Apr 2017 07:49:32 +0000</lastBuildDate>
	<language>ja</language>
	<sy:updatePeriod>hourly</sy:updatePeriod>
	<sy:updateFrequency>1</sy:updateFrequency>
	<generator>http://wordpress.org/?v=3.1.2</generator>
		<item>
		<title>アクエリアンエイジ フラグメンツ～約束の世界～ 断片6</title>
		<link>https://www.aquarian-age.org/fragments-world06/</link>
		<comments>https://www.aquarian-age.org/fragments-world06/#comments</comments>
		<pubDate>Tue, 23 Aug 2011 09:00:24 +0000</pubDate>
		<dc:creator>aqweb_admin</dc:creator>
				<category><![CDATA[ストーリー]]></category>
		<category><![CDATA[フラグメンツ]]></category>

		<guid isPermaLink="false">https://www.aquarian-age.org/?p=1113</guid>
		<description><![CDATA[断片6「覚醒者たちの沈黙」 　上空から闘争を見物していたミカエルの表情に、かすかな陰りが生じた。 「ム……分解再構成を行ないすぎたのか……。ノイズが混ざっている」 　　　　　☆ 　プラズマの球体を連れた藤宮真由美が、冷たい月みたいに空から見下ろしている。 　地上に人間の形を模したものが立っていたが、左腕が根元から失われていた。傷口がぶくぶくと黒く泡立ち、ふくらみ、たちまち元のように腕が再生する――と思いきや、肘の関節は逆向きについていて、おまけにヒヅメがついていた。 　奇形の左腕はまた泡に代わり、再び形が生まれたが、今度は鳥の翼の先に鹿の枝角がついたおかしな形状だった。何度もやりなおして、ようやく人間型の左腕が構成されたが、プラスチックのような質感をしていてそれはどうしても直せないらしかった。 　藤宮真由美は四つのプラズマを一度に投射した。プラズマは目標に向かう途中で弾けて鞭のようになり敵に襲いかかる。すべてが命中した。食らった「それ」は黒い泡になって飛び散り、瞬時に元の姿へ再生する。 「それ」はふいに地表に沿って飛んだ。飛びながら背中から無数のビームを放った。暗い光線がからみあい、カーブを描いて上空の真由美に殺到する。真由美は回避運動に入った。ランダムに宙をかけめぐるが半数以上のビームが避けられない。体の正面にシールドを多重展開して受けとめる。ビームが着弾する。まるで噛みつくようにシールドが割られていく。あとたった２枚を残してかろうじて防御に成功する。 「それ」は慣性を無視するようなありえない角度で曲がって襲いかかってきた。色違いの左腕が長い針状に変わる。勢いをこめて先端が真由美の胸元に突きこまれる。その直前、真由美は球形の力場を創造して相手にぶつけた。左腕の針はひしゃげた。と思うとそれは四つ又に分裂して真由美にからみつこうとする。 　真由美は自分を中心に力場を形成して針を吹き飛ばした。同時に見えない拳を相手に叩きつけ、そのまま地面まで打ち下ろす。 　相手が地面に叩きつけられたのを見届けると、真由美はそのまま相手を、見えない巨大な手で握りしめ、押さえつけ、握りつぶしにかかる……。 　その見えない真由美の手が、内側からゆっくりと押し開かれつつある。敵は怪力で、強引に束縛から逃れようとしているのだ。真由美は握りつぶす力をさらに増す。 　さらに強い力で内側から押し開かれていく。 　真由美はさらに力をこめる。額に汗がにじむ。毛細血管が破れ、体の末端に紫斑ができはじめている。歯茎から血がにじんでいる。 　真由美はさらにエネルギーを注入した。 　　　　　＊ 　E.G.O.の円形ホールでは、断続的に絶叫が上がっていた。すでにかなりの人数が、ねばついた白い泡を吐いて、シートの中で昏倒していた。真由美が消費している精神エネルギーは、標準的なエスパーが１人が内包している全精力を一瞬ごとに空にしてしまうほどだ。 　結城望が同胞たちに警告した。 「サイコスピアが来ます！　みなさん、備えて！」 　　　　　＊ 　藤宮真由美は敵を固定したまま、自分の周囲にサイコスピアを展開した。 　ひとつやふたつではない。まるで時計の目盛りのように、無数のサイコスピアが彼女の周りに放射状に展開していく。かなり強力なエスパーでもこれ一本を生み出すためにほとんどの力を使い果たす。 　サイコスピアの輪が、角度を変える。高速回転を始める。 　動けない敵に向かって、投げつけられた。 　避けられない「それ」は、光の輪をまともにくらった。爆風に混じって、「それ」の肉体は細かい泡の粒となって四散する。 　　　　　＊ 　その攻撃を支えるために、数十名のエスパーがまた気絶した。ホールは恐慌状態に陥りつつある。 　誰かがヒステリックに叫んだ。 「ちょっと！　藤宮真由美は私たちを殺す気なの!?」 「違うわ」 　結城望が目をつぶったまま、小さく答える。 「どう違うの！」 「……私たちが、彼女を殺しているの」 「わからない。真由美はこっちの状況を把握できていないのか？」 　万城目が呈した疑問に、結城望が「いいえ」と答える。 「彼女は、何も感じないことに決めただけ。何も感じないから戦える。……そうなったのは彼女のせいではありません」 　　　　　＊ 　無数の泡となったものは、砂礫の大地にしみこんでいった。すると地面はふいに赤く染まり、たちまち赤黒い樹木が生い茂りはじめた。一点から放射状に、赤い森林が発生する。 　樹木はねじれた枝をのばしてゆき、ある一瞬、無数の触手へと変化した。それら触手のすべてが上空の藤宮真由美を狙って伸びていく。真由美は力場を弾けさせてそれらを砕いていったが、ついに全身にからみつかれてしまった。 　触手はまたたく間に、真由美を取り囲み、繭のように閉じこめてしまった。 　大地が揺れた。 　まるで地の底で何かが爆発したような衝撃だったが、その感覚は正しかった。いくつもの場所で土が噴水のように吹き上がる。液化した土の噴出が、柱のようにあちこちに立った。柱はつながって壁になり、そして地表面がまるごと転覆した！ 　土石流が発生し、生まれたばかりの赤い森をまるごと飲み込んで消し去っていく。やがてそれがおさまってしまうと、風景は元の荒野に戻り、藤宮真由美は何事もなかったかのように繭を切り裂いて自由になった。 　地面の上で、黒い泡が一カ所に結集し、「それ」はひとつに再構成された。しかしその姿は、足のあるべきところに鳥の翼が生え、手のあるべきところに魚のひれがあり、その他さまざまな動植物の部品が混ざり合った異様な形状だった。 　　　　　☆ 「いかん……。短期間で再構成を繰り返しすぎだ。エネルギー欠乏症で自己崩壊を起こしてしまう」 　太陽を背にして地上を見下ろしていたミカエルは翼を大きく動かして急降下を始めた。減りすぎたエネルギーを供給してやろうと思ってのことだ。 　だが……。 　地上近くまで降りてきたミカエルは、突如、下から伸びてきた触手に胸の中央を貫かれた！ 「な……吸わ、れる……」 　ミカエルは見た。その触手は自分が救ってやろうとしたものの体の一部だった。触手がストローのようになって、自分の中身を吸い出していくのを、ミカエルは感じた。 「待て、貴様……」 　ミカエルの周囲を覆っていた炎のオーラが消え失せる。たちまち人の形を維持できなくなる。ミカエルは自ら炎のかたまりへと変身すると、触手をそれで焼き払い、どこかへ消え去った。 　　　　　☆ [...]]]></description>
			<content:encoded><![CDATA[<div class="boxtext">
              <h3 class="chapter">断片6「覚醒者たちの沈黙」</h3>
              <p>　上空から闘争を見物していたミカエルの表情に、かすかな陰りが生じた。<br />
「ム……分解再構成を行ないすぎたのか……。ノイズが混ざっている」<br />
<br />
<br />
　　　　　☆<br />
<br />
<br />
　プラズマの球体を連れた藤宮真由美が、冷たい月みたいに空から見下ろしている。<br />
<br />
<br />
　地上に人間の形を模したものが立っていたが、左腕が根元から失われていた。傷口がぶくぶくと黒く泡立ち、ふくらみ、たちまち元のように腕が再生する――と思いきや、肘の関節は逆向きについていて、おまけにヒヅメがついていた。<br />
　奇形の左腕はまた泡に代わり、再び形が生まれたが、今度は鳥の翼の先に鹿の枝角がついたおかしな形状だった。何度もやりなおして、ようやく人間型の左腕が構成されたが、プラスチックのような質感をしていてそれはどうしても直せないらしかった。<br />
<br />
　藤宮真由美は四つのプラズマを一度に投射した。プラズマは目標に向かう途中で弾けて鞭のようになり敵に襲いかかる。すべてが命中した。食らった「それ」は黒い泡になって飛び散り、瞬時に元の姿へ再生する。<br />
<br />
「それ」はふいに地表に沿って飛んだ。飛びながら背中から無数のビームを放った。暗い光線がからみあい、カーブを描いて上空の真由美に殺到する。真由美は回避運動に入った。ランダムに宙をかけめぐるが半数以上のビームが避けられない。体の正面にシールドを多重展開して受けとめる。ビームが着弾する。まるで噛みつくようにシールドが割られていく。あとたった２枚を残してかろうじて防御に成功する。<br />
<br />
「それ」は慣性を無視するようなありえない角度で曲がって襲いかかってきた。色違いの左腕が長い針状に変わる。勢いをこめて先端が真由美の胸元に突きこまれる。その直前、真由美は球形の力場を創造して相手にぶつけた。左腕の針はひしゃげた。と思うとそれは四つ又に分裂して真由美にからみつこうとする。<br />
　真由美は自分を中心に力場を形成して針を吹き飛ばした。同時に見えない拳を相手に叩きつけ、そのまま地面まで打ち下ろす。<br />
<br />
　相手が地面に叩きつけられたのを見届けると、真由美はそのまま相手を、見えない巨大な手で握りしめ、押さえつけ、握りつぶしにかかる……。<br />
　その見えない真由美の手が、内側からゆっくりと押し開かれつつある。敵は怪力で、強引に束縛から逃れようとしているのだ。真由美は握りつぶす力をさらに増す。<br />
　さらに強い力で内側から押し開かれていく。<br />
　真由美はさらに力をこめる。額に汗がにじむ。毛細血管が破れ、体の末端に紫斑ができはじめている。歯茎から血がにじんでいる。<br />
　真由美はさらにエネルギーを注入した。<br />
<br />
　　　　　＊<br />
<br />
　E.G.O.の円形ホールでは、断続的に絶叫が上がっていた。すでにかなりの人数が、ねばついた白い泡を吐いて、シートの中で昏倒していた。真由美が消費している精神エネルギーは、標準的なエスパーが１人が内包している全精力を一瞬ごとに空にしてしまうほどだ。<br />
　結城望が同胞たちに警告した。<br />
「サイコスピアが来ます！　みなさん、備えて！」<br />
<br />
　　　　　＊<br />
<br />
　藤宮真由美は敵を固定したまま、自分の周囲にサイコスピアを展開した。<br />
　ひとつやふたつではない。まるで時計の目盛りのように、無数のサイコスピアが彼女の周りに放射状に展開していく。かなり強力なエスパーでもこれ一本を生み出すためにほとんどの力を使い果たす。<br />
　サイコスピアの輪が、角度を変える。高速回転を始める。<br />
　動けない敵に向かって、投げつけられた。<br />
<br />
　避けられない「それ」は、光の輪をまともにくらった。爆風に混じって、「それ」の肉体は細かい泡の粒となって四散する。<br />
<br />
　　　　　＊<br />
<br />
　その攻撃を支えるために、数十名のエスパーがまた気絶した。ホールは恐慌状態に陥りつつある。<br />
　誰かがヒステリックに叫んだ。<br />
「ちょっと！　藤宮真由美は私たちを殺す気なの!?」<br />
「違うわ」<br />
　結城望が目をつぶったまま、小さく答える。<br />
「どう違うの！」<br />
「……私たちが、彼女を殺しているの」<br />
「わからない。真由美はこっちの状況を把握できていないのか？」<br />
　万城目が呈した疑問に、結城望が「いいえ」と答える。<br />
「彼女は、何も感じないことに決めただけ。何も感じないから戦える。……そうなったのは彼女のせいではありません」<br />
<br />
　　　　　＊<br />
<br />
　無数の泡となったものは、砂礫の大地にしみこんでいった。すると地面はふいに赤く染まり、たちまち赤黒い樹木が生い茂りはじめた。一点から放射状に、赤い森林が発生する。<br />
　樹木はねじれた枝をのばしてゆき、ある一瞬、無数の触手へと変化した。それら触手のすべてが上空の藤宮真由美を狙って伸びていく。真由美は力場を弾けさせてそれらを砕いていったが、ついに全身にからみつかれてしまった。<br />
　触手はまたたく間に、真由美を取り囲み、繭のように閉じこめてしまった。<br />
<br />
　大地が揺れた。<br />
<br />
　まるで地の底で何かが爆発したような衝撃だったが、その感覚は正しかった。いくつもの場所で土が噴水のように吹き上がる。液化した土の噴出が、柱のようにあちこちに立った。柱はつながって壁になり、そして地表面がまるごと転覆した！<br />
<br />
　土石流が発生し、生まれたばかりの赤い森をまるごと飲み込んで消し去っていく。やがてそれがおさまってしまうと、風景は元の荒野に戻り、藤宮真由美は何事もなかったかのように繭を切り裂いて自由になった。<br />
<br />
　地面の上で、黒い泡が一カ所に結集し、「それ」はひとつに再構成された。しかしその姿は、足のあるべきところに鳥の翼が生え、手のあるべきところに魚のひれがあり、その他さまざまな動植物の部品が混ざり合った異様な形状だった。<br />
<br />
<br />
　　　　　☆<br />
<br />
<br />
「いかん……。短期間で再構成を繰り返しすぎだ。エネルギー欠乏症で自己崩壊を起こしてしまう」<br />
<br />
　太陽を背にして地上を見下ろしていたミカエルは翼を大きく動かして急降下を始めた。減りすぎたエネルギーを供給してやろうと思ってのことだ。<br />
　だが……。<br />
<br />
　地上近くまで降りてきたミカエルは、突如、下から伸びてきた触手に胸の中央を貫かれた！<br />
「な……吸わ、れる……」<br />
　ミカエルは見た。その触手は自分が救ってやろうとしたものの体の一部だった。触手がストローのようになって、自分の中身を吸い出していくのを、ミカエルは感じた。<br />
「待て、貴様……」<br />
　ミカエルの周囲を覆っていた炎のオーラが消え失せる。たちまち人の形を維持できなくなる。ミカエルは自ら炎のかたまりへと変身すると、触手をそれで焼き払い、どこかへ消え去った。<br />
<br />
<br />
　　　　　☆<br />
<br />
<br />
「馬鹿な！　完全にコントロール外ではないか！」<br />
　巡洋艦クラウディアの艦橋で激発したのは、医療ポッドから出たばかりのラユューである。彼女はミカエルに降りかかった事態をモニターごしに見て、三眼をむいた。<br />
「収束キラービーム、準備せよ！」<br />
「目標は？　コマンダー」<br />
　問うたオペレーターにラユューは怒鳴った。<br />
「あの狂った戦闘ユニットに決まっているだろう！」<br />
<br />
<br />
　宇宙空間から人間１人を狙撃することのできる破壊光線。それが軌道上から発射された。致死性の光がはるか頭上から「それ」に襲いかかる。対象は何が起こったかわからないまま、蒸発して消滅するはずであった。<br />
<br />
　攻撃結果を報告しようとして、オペレーターが、一拍、口をつぐむ。<br />
「目標、レーザーのエネルギーを吸収しています」<br />
<br />
<br />
　　　　　☆<br />
<br />
<br />
　細い光が、「それ」の立っている場所だけに激しくふりそそいだが、まるでシャワーを浴びているようなものだった。ミカエルと軌道レーザーのエネルギーを吸収しおえてしまうと、「それ」は正しい位置に手と足と翼のある本来の姿へと戻った。<br />
<br />
「それ」は、クラウディアのいる方向を、正確に見据えた。右手に、闇色の力場が生じて、棒状に伸長する。<br />
　黒いサイコスピアだった。<br />
　宇宙空間へ向けて、投射された。<br />
<br />
　　　　　＊<br />
<br />
　黒い槍は、クラウディアの舷側を貫いた。貫通場所から誘爆が起こり始める。<br />
<br />
　　　　　＊<br />
<br />
　藤宮真由美は、念動で地面を持ちあげ、再び敵に襲いかからせた。しかし今度の土石流は、見えない力場にせきとめられ、凍りついたように固まってしまう。相手に届かない。<br />
「それ」の足元が、渦を巻き始めた。「それ」が立っている周囲の地面が、すり鉢状に消滅しはじめる。<br />
　そのすり鉢が、放射するように広がっていく。<br />
　深くなっていく。<br />
　すでに樹海だった場所の三分の一を占めるほどになっている<br />
　その中心、もとは地面だった高さに、「それ」が浮いている。<br />
<br />
　藤宮真由美は理解する。<br />
　あれは、手近な質量そのものをエネルギーに変えて、食ったのだ。<br />
　だから食われた部分は、《イレイズ》されたように見える……。<br />
<br />
「それ」の周囲の空間がゆがんでいるのが見えた。「それ」の周りに、真由美には黒っぽく感じられる力場がいくつもわだかまり、細かいプラズマを放出していた。<br />
<br />
　真由美は対応が遅れた。局所的な暴風が巻き起こる。おそらく真由美のいる場所を、大気の分子ごと「食おう」としたらしかった。<br />
　空間消滅に巻き込まれる――寸前。<br />
　空飛ぶ何者かが手を引いて真由美を救ったのだ。<br />
<br />
　全身に傷を負った東海林光だった。<br />
　真由美の腕をつかんだまま、カーブを描いて高速飛行する。<br />
「あれは地球をまるごと食う気よ。冗談じゃないっ」<br />
　眼下のすり鉢状の地形は見ている間にその版図をじわじわと広げていた。<br />
　その最深部に、もはや地面の色はないのだった。中心部に、虚無があった。真っ黒な闇があり、そのさらに向こうに、さまざまな色をした天体がきらめいているのだった。<br />
　宇宙……。<br />
「このままじゃ地球の全部があれに変わる。バックアップエスパーを半分こっちに繋いで。２人がかりなら、今ならまだいける！」<br />
<br />
　藤宮真由美は、感情のとぼしい口調で、こうつぶやいた。<br />
　<br />
「あなたは生き残って」<br />
<br />
「え？」<br />
「力は私が預かる」<br />
　その瞬間、東海林光の意識はダウンした。東海林光の中に残っていたエネルギーは握った腕ごしに藤宮真由美が奪いとっていた。東海林光は、強力な念動力で、自分が遠くに吹き飛ばされるのを、薄らいだ意識の片隅で感じた……。<br />
<br />
　　　　　＊<br />
<br />
「どうして!?　……え？」<br />
　モニターしていた結城望が立ちあがる。万城目が緊張して問うた。<br />
「何を感じた？」<br />
「私の能力を、真由美さんの中に一時的に転移すると言っています」<br />
「どういう意味？」<br />
「あ……。真由美さんが私を逆ハックしている。もうすぐ私の能力は彼女の一部になります」<br />
「抵抗して！」<br />
「無理ですよ……。あと数秒で……」<br />
<br />
　結城望の意識は落ちた。彼女は藤宮真由美のシステムの一部となった。真由美の一部となった結城望はホールにいる全員に対して強制的にテレパスをつなぎ、巨大な集合意識を形成した。<br />
　ひとつの意識と化したエスパーたちのホール。意識をなくした者、まだ意識のある者、そのすべてがひとつに束ねられ、力は柱のように天上に向かって伸びた。<br />
　結城望を中心にして、今やこの場は、巨大な精神感応のアンテナだった。今、ここから、地球上のあらゆる特殊能力者に対して強制接続が可能だった。<br />
　その力が、行使された。<br />
<br />
　彼女たちの精神のひだは、光よりも速い速度で地球をあまねく覆い、人を超えた能力をそなえたあらゆる存在の意識に強制的にバイパスをねじこんだ。<br />
　テレパシーのバイパスが、ヨーロッパ圏に集うWIZ-DOMの魔法使いたちにねじこまれた。<br />
　日本と北米と台湾とロシアにいる、E.G.O.の超能力者たちにねじこまれた。<br />
　アジア全域と南米に偏在する、阿羅耶識の霊能者たちも、意識をつなぎとめられるのを感じた。<br />
　世界中の闇に潜む、ダークロアの堕ちた神たちすら例外ではなかった。<br />
　次元を越えて、極星帝国の古代人たちすら、その精神のネットワークの一部と化していた。<br />
<br />
　およそこの世の「覚醒した人類たち」の中で、その強制接続から逃れえたものなど、１人もいなかった。<br />
<br />
　その「光の道」を経由して、それらすべての偉大な存在たちから、「力」が吸い上げられていった。偉大な存在たちは、その偉大さの源を吸い上げられるのを感じたが、それに抵抗するすべはなかった。<br />
<br />
　集められた力のすべては、結城望を経由して、藤宮真由美に送りこまれてゆく。<br />
<br />
<br />
　　　　　☆<br />
<br />
<br />
　兵力を集め、態勢を立て直すために、いったん戦いの中心地から離れようとしていたレイナ・アークトゥルスは、その道程で強制接続を感じた。<br />
「な……これは」<br />
　自分自身から力が失われていくのを感じて、彼女は戦慄した。抵抗しようと、意志の力をふりしぼろうとしたとき、自分自身の意志の内部に藤宮真由美の２つの目があって、見つめられているのを感じた。自分の中に藤宮真由美がいることを知って彼女は驚いたが、藤宮真由美の中に自分がいるのかもしれなかった。<br />
<br />
　両側を歩いていたはずのカーラとレジーナが、頭をかかえ、膝をついた。ふりかえると、レイナに付き従っていた魔剣士たちがばたばたと倒れていった。<br />
<br />
「何だ……何が起こっているのだ」<br />
<br />
<br />
　　　　　☆<br />
<br />
<br />
　満身創痍の弓削遙、そして各務柊子の２人が、四聖獣の巫女の肩を借りて、まだかろうじて森林といえる樹海外縁部をさまよっていた。<br />
　６名が同時に、「接続」を感じた。直後、弓削と各務の両名が、最後に残っていた生命力を奪われて気絶する。<br />
<br />
　四聖獣の巫女たちも、それぞれに立っている力を喪失し、全員が地に倒れ伏した。<br />
「気が、気が枯れる……」<br />
　阿武巳弥は、感情のない２つの目が、自分を見ているのを感じた。その目の正体が何者なのかもわかった。<br />
「やめて……。私たちはいい。お２人が死んでしまう……」<br />
　竜ヶ崎藍が怒りを込めて地面を叩いた。<br />
「――藤宮真由美ッ！」<br />
<br />
<br />
　　　　　☆<br />
<br />
<br />
「アジトは放棄だ！　各自都市部に潜伏しなさい！」<br />
<br />
　飯塚秋緒は手下の人獣たちを逃がし、自分はしんがりを務めていた。かなりの仲間が「あれ」の質量破壊に巻き込まれてしまった。残った同胞たちは、あらかた逃走にかかってくれているようだ。匂いでそれがわかって、彼女は安心した。<br />
<br />
　意識が一瞬とぎれた。<br />
<br />
　次に気づいたとき、彼女は倒れていた。体の傷の再生が止まっている。さっきまでは順調に元に戻っていたのだ。<br />
　命が吸われる感じを、彼女は味わっている。<br />
<br />
「どんだけだよ、その取り立ては……」<br />
<br />
<br />
　　　　　☆<br />
<br />
<br />
　手下の四魔道師が、呼びかけに答えない。ステラ・ブラヴァツキは大樹にもたれて体を横たえ、荒い息をしていた。彼女は隕石の余波を食らって重傷を負っていた。あえて爆心地近くに身を置いたのは、着弾位置の精度を増すためだ。<br />
　彼女は、藤宮真由美の瞳が無言で訴えているのを知る。<br />
<br />
「いいだろう、おまえには借りがあった。……全部持っていくがいい」<br />
<br />
　目をつぶった。<br />
<br />
<br />
　　　　　☆<br />
<br />
<br />
　そのようにして覚醒した人類のすべての力が藤宮真由美の手元に集まってきていた。彼女の周囲には見えない力の束が無数にプールされていた。まるでプリズムの反射のようにさまざまな色に輝いている。<br />
<br />
　藤宮真由美は降下した。さっきまで地面のあった高さにまで降りた。同じ高さに「それ」は浮いていた。果たして生き物なのかすらさだかではない「それ」の、本物なのかどうかもわからない顔と、向かい合った。<br />
<br />
「それ」の周囲にも、地面の質量から転換した膨大なエネルギーがたゆたっていた。そのエネルギーは、ガス星雲の色みたいに靄めいた紫色だった。<br />
<br />
　藤宮真由美は、言葉が通じるのかどうかもわからない「それ」に向かって、肉声で一言だけ語りかけた。<br />
<br />
「消えるのよ」<br />
<br />
<br />
　　　　　☆<br />
<br />
<br />
　戦いの場から離れようとしているさまざまな勢力のさまざまな超人たちは、そのとき、遠くで、ふたつの光の柱が立ちそびえるのを見た。<br />
<br />
　ひとつは、暗い紅色で、大きく、力強く、星に似た輝きがちりばめられていた。<br />
<br />
　もうひとつは、白にかぎりなく近い金色で、枝のような放電を伴っており、その放電は花火じみたさまざまな色にはじけた。<br />
<br />
　そのふたつの光の柱が、足元に竜巻を伴って、ぶつかりあうのを人々は見た。<br />
<br />
　時にからみあい、時に弾きあい、周囲のものを暴力的に巻き上げながら、いくたびも互いを打ちあうのを、人々は目撃した。<br />
<br />
　意識のある者はその目で見た。意識を失った者も、目ではない場所でそれを見た。<br />
<br />
　まるで時間が止まっている中での出来事だ、と誰もが感じた。<br />
　永劫に思えるあいだ、それが続いた。<br />
<br />
　　　　　＊<br />
<br />
　地球上にいるすべての人間が、その一瞬、意識をなくした。<br />
　その一刹那に、ひきのばされた白昼夢を見た。<br />
<br />
　夢の内容はさまざまだ。それぞれの人間が属する文化に沿ったビジョンを見た。ある者は竜とユニコーンが戦う夢を見たのだし、またある者は、勇気ある若者が異民族の族長と一騎打ちをする姿を見た。天使と悪魔の闘争を見た者もいれば、まったく配役を入れ替えて、悪魔と天使の闘争を見た者もいた。あるいは炎と風に見えた。鬼神と菩薩。単に色彩の混ざり合いに見えた者もいた。抽象的な形状が、互いにからまりながら複雑に姿を変化させるイメージでとらえた者もいた。鉄と蔦。森林と都市。海流ともうひとつの海流。さまざまな対立のイメージが、すべての人類、すべての亜人類、かつて人類だったもの、人類に作られて人類同然になったもの、力のあるもの、ないもの、それらすべてにわけへだてなく知覚された。それは一見対立ではあったが、闘争の中で互いの同質性を露呈し、しかしやはりまったく同じものではないのだった。<br />
<br />
　そして何かが起こった。<br />
<br />
　　　　　＊<br />
<br />
　その何かは、近くにいた者たちには、爆発として認識された。<br />
<br />
<br />
　　　　　☆<br />
<br />
<br />
　災害のあと、小石川愛美は、比較的早く自分の家に戻ってくることができた。<br />
<br />
　幸い、彼女の家は暴風に耐え、あの大火災にも見舞われなかった。ありがたいことだ。街の景色はそうとう変わってしまったが、彼女の部屋には何も変わりはなかった。<br />
<br />
　それが奇妙な居心地悪さとして、彼女の心にわだかまっていた。<br />
<br />
　子供の頃から持っているいくつかのぬいぐるみも、ベッドの上に放り出したままにしてある外出着も、髪留め（彼女は「ぱっちん」と呼んでいる）のコレクションも、額には入れたが掛ける場所がなくて壁際に立てかけてあるジグソーパズルも、そうしたすべてが「これは日常の続き」という意味を伝えてくる。<br />
　でも、そうではないことがわかっているから、胸がさわぐのだ。<br />
<br />
　窓ガラスが音を立てた。<br />
<br />
　愛美は振り返った。<br />
<br />
　でもそれは、小さな昆虫が、部屋に飛びこもうとしてガラスにぶつかっただけだった。愛美は、窓に近づいて、ガラス戸を開けた。<br />
<br />
　風が吹き込んできた。<br />
　けれども、そこから「よいしょ」と言って入り込んでくる人はいなかった。愛美はしばらくの間、見えるわけもない風の流れを見ようとして、外の景色を眺め続けていた。</p>
	      <br />
	          <p class="acenter">　 <img src="https://www.aquarian-age.org/wordpress/wp-content/uploads/world01_name06.jpg" width="474" height="50" alt="藤宮真由美"></p>
	          <p class="acenter"><img src="https://www.aquarian-age.org/wordpress/wp-content/uploads/world01_img06.jpg" alt="藤宮真由美" width="420" height="420" class="img_line" /></p>
	          <p>　行方不明。</p>
            </div>]]></content:encoded>
			<wfw:commentRss>https://www.aquarian-age.org/fragments-world06/feed/</wfw:commentRss>
		<slash:comments>0</slash:comments>
		</item>
		<item>
		<title>アクエリアンエイジ フラグメンツ～約束の世界～ 断片5</title>
		<link>https://www.aquarian-age.org/fragments-world05/</link>
		<comments>https://www.aquarian-age.org/fragments-world05/#comments</comments>
		<pubDate>Tue, 09 Aug 2011 09:00:33 +0000</pubDate>
		<dc:creator>aqweb_admin</dc:creator>
				<category><![CDATA[ストーリー]]></category>
		<category><![CDATA[フラグメンツ]]></category>

		<guid isPermaLink="false">https://www.aquarian-age.org/?p=1110</guid>
		<description><![CDATA[断片5「白い悪夢」 　森の海――樹海と呼ばれていたその領域は、いまや火の海と化していた。 　地上に立っている「それ」は、熱気を浴びながら、まったくそれを苦にしていなかった。 　ほとんど興味なさそうに、ぼろぼろになった弓削遙を地面に転がすと、空を見上げた。実際、こまごまとした個別の生物たちに、「それ」はほとんど興味を持っていなかった。 　ふわり、と足が地面から離れた。 　次の瞬間、見えない大きな手に持ち上げられるように、急速に飛翔した。ここはもう滅んだ。別の場所のかたちあるものに滅びを与えるべきときだ。 　しかし。 　見えない障壁が、「それ」の移動をはばんだ。空中で「それ」は、得体の知れない力に激突したのだった。体は弾き返され、その一瞬に、樹海の上空をドームのように覆う二重の四角形が白銀色に輝いた。 　そのまま地面に叩きつけられた。 　それでも「それ」は無表情だった。 　　　　　☆ 「なんて圧力！　頭が焼けそう！」 　四魔道師のひとりイオ・プロミネンスが絶叫した。彼女は同胞の３名とともに、結界の維持に全魔力を費やしていた。阿羅耶識の四巫女と協力していなかったら結界ごとはじき飛ばされていたかもしれない。 　念話が彼女の意識に飛びこんできた。 《よくやった、弟子たちよ》 「ステラ様！」 《作戦を続ける。結界の焦点を絞って締め上げろ。あれを一カ所に固定するのだ》 　レダ・ブロンウィンからの念話が困惑の感情を伝えてきた。 《しかし、あなた様の脱出を確認してません》 《かまわんよ》 　地水火風の四魔道師は結界のかたちを変化させた。四角形に樹海を囲んでいたその形が十字型になる。 　その交点に、宇宙から来たあれがいるのだ。 　　　　　☆ 　ステラ・ブラヴァツキは結界が変化するのを感じとると、満足して儀式の続きを始めた。 　彼女の周りには炎はなかった。それどころか樹海だというのに樹木ひとつなかった。彼女を避けるように、真円の空き地ができあがっていた。そしてそこには青白い光でできた、まがまがしい魔法陣がびっしりと描きこまれていた。 「さあ、来るがよい――われはサバトに汝を呼びたり。星からきたものよ星にかえれ！」 　ステラは魔法陣の中央に杖を突き立てた。青い光が空間を満たした。 　　　　　＊ 　そのとき、各国の宇宙観測機関が、それまで存在もしていなかった天体を発見してパニックに陥った。それは天体としては小さなものだったが、地球のごく近くに出現し、地表への直撃コースをとって突き進んできていた。大気圏への突入で質量のほとんどが燃えることは間違いなかったが、残った部分が地上に突き刺さることも間違いなかった。 　衝突ポイントは東アジア、日本の本土中部であった。 　　　　　☆ 　空を覆う障壁に弾かれて墜落した「それ」は、見えない力で体を浮かべるようにして立ち上がった。不思議なことに、その表面に土ぼこりはいっさい付着しない。 　魔力の道筋が「それ」を貫くように交差して、そのとたん「それ」の体を強く呪縛した。「それ」の両腕が体に貼り付き、動きを制約されている。 　無表情のまま、体の動きが、かすかに不快を示す。しばし身動きして、呪縛から自由になろうとする動作があった。 　何か気配を感じたのか。 　頭上に視線をやる。 　真昼の空に、白熱色の星が不吉な圧力を伴って輝いていた。視線はその輝きに釘付けになる。 　何者かの攻撃であることを知る。ここに着弾することを認識する。 　空中を移動しようとして、呪縛にはばまれた。 「それ」は一拍、脱力したようにその場に直立し、直後、内圧を急激に高めた。周囲に黒光りに似た力場が構成される。 　力場の内側で高圧化したエネルギーが、突然発散した！ 「それ」を縛り付けていた見えない呪縛がはじけ飛んだ。体が自由に動くことを確認すると、空中移動の準備動作を始める。 「させぬぞ！」 　土と血のよごれにまみれた弓削遙が、よろめきながら立ち上がって七枝刀で打ちかかった！　それを見もせずに片手でなぎ払うと、再び上空を確かめた。 　迫り来る隕石は、断熱圧縮を起こして先端を赤熱させながら、見る間に大きくなってくる。そこにこめられた魔力の波動が「それ」の表面をびりびりと震わせている。重力が上から来るようなすさまじいプレッシャーが天を覆う。 　再び、ふわりと浮き上がって、足を地から離した。回避するためだ。だが高速移動に移行しようとしたそのとき、足首を何者かがつかんだ。 「まぁ待ちなよ」 　這い寄ってきた、満身創痍の各務柊子だった。すさまじい表情で彼女は笑っていた。 　隕石は光の矢となって、「それ」がいた空間を貫いた。 　　　　　☆ 　致死的な爆風。下から掘り起こされ津波と化す大地。激しく舞い上がり大気を靄めかせる砂粒。かなりの時間をかけてそれらが沈静すると、森は消え、砂礫の大地がむきだしになっていた。 「それ」の姿はなかった。 　かわりに、黒曜石のような黒光りする球体が、いくつも宙に浮遊していた。ほとんど質量は感じられず、シャボン玉めいた様子で浮き沈みしていた。 　やがてそれらの球体はひとところに集まり、くっつきあうと、たちまち手足のある形状へと変容した。「それ」は何事もなかったかのように元の姿に戻ったのだった。 「うわああああっ!!　おのれッ!!」 [...]]]></description>
			<content:encoded><![CDATA[<div class="boxtext">
              <h3 class="chapter">断片5「白い悪夢」</h3>
              <p>　森の海――樹海と呼ばれていたその領域は、いまや火の海と化していた。<br />
<br />
　地上に立っている「それ」は、熱気を浴びながら、まったくそれを苦にしていなかった。<br />
　ほとんど興味なさそうに、ぼろぼろになった弓削遙を地面に転がすと、空を見上げた。実際、こまごまとした個別の生物たちに、「それ」はほとんど興味を持っていなかった。<br />
　ふわり、と足が地面から離れた。<br />
　次の瞬間、見えない大きな手に持ち上げられるように、急速に飛翔した。ここはもう滅んだ。別の場所のかたちあるものに滅びを与えるべきときだ。<br />
<br />
　しかし。<br />
　見えない障壁が、「それ」の移動をはばんだ。空中で「それ」は、得体の知れない力に激突したのだった。体は弾き返され、その一瞬に、樹海の上空をドームのように覆う二重の四角形が白銀色に輝いた。<br />
　そのまま地面に叩きつけられた。<br />
　それでも「それ」は無表情だった。<br />
<br />
<br />
　　　　　☆<br />
<br />
<br />
「なんて圧力！　頭が焼けそう！」<br />
　四魔道師のひとりイオ・プロミネンスが絶叫した。彼女は同胞の３名とともに、結界の維持に全魔力を費やしていた。阿羅耶識の四巫女と協力していなかったら結界ごとはじき飛ばされていたかもしれない。<br />
<br />
　念話が彼女の意識に飛びこんできた。<br />
《よくやった、弟子たちよ》<br />
「ステラ様！」<br />
《作戦を続ける。結界の焦点を絞って締め上げろ。あれを一カ所に固定するのだ》<br />
　レダ・ブロンウィンからの念話が困惑の感情を伝えてきた。<br />
《しかし、あなた様の脱出を確認してません》<br />
《かまわんよ》<br />
<br />
　地水火風の四魔道師は結界のかたちを変化させた。四角形に樹海を囲んでいたその形が十字型になる。<br />
　その交点に、宇宙から来たあれがいるのだ。<br />
<br />
<br />
　　　　　☆<br />
<br />
<br />
　ステラ・ブラヴァツキは結界が変化するのを感じとると、満足して儀式の続きを始めた。<br />
　彼女の周りには炎はなかった。それどころか樹海だというのに樹木ひとつなかった。彼女を避けるように、真円の空き地ができあがっていた。そしてそこには青白い光でできた、まがまがしい魔法陣がびっしりと描きこまれていた。<br />
<br />
「さあ、来るがよい――われはサバトに汝を呼びたり。星からきたものよ星にかえれ！」<br />
<br />
　ステラは魔法陣の中央に杖を突き立てた。青い光が空間を満たした。<br />
<br />
　　　　　＊<br />
<br />
　そのとき、各国の宇宙観測機関が、それまで存在もしていなかった天体を発見してパニックに陥った。それは天体としては小さなものだったが、地球のごく近くに出現し、地表への直撃コースをとって突き進んできていた。大気圏への突入で質量のほとんどが燃えることは間違いなかったが、残った部分が地上に突き刺さることも間違いなかった。<br />
<br />
　衝突ポイントは東アジア、日本の本土中部であった。<br />
<br />
<br />
　　　　　☆<br />
<br />
<br />
　空を覆う障壁に弾かれて墜落した「それ」は、見えない力で体を浮かべるようにして立ち上がった。不思議なことに、その表面に土ぼこりはいっさい付着しない。<br />
　魔力の道筋が「それ」を貫くように交差して、そのとたん「それ」の体を強く呪縛した。「それ」の両腕が体に貼り付き、動きを制約されている。<br />
　無表情のまま、体の動きが、かすかに不快を示す。しばし身動きして、呪縛から自由になろうとする動作があった。<br />
　何か気配を感じたのか。<br />
　頭上に視線をやる。<br />
　真昼の空に、白熱色の星が不吉な圧力を伴って輝いていた。視線はその輝きに釘付けになる。<br />
　何者かの攻撃であることを知る。ここに着弾することを認識する。<br />
　空中を移動しようとして、呪縛にはばまれた。<br />
「それ」は一拍、脱力したようにその場に直立し、直後、内圧を急激に高めた。周囲に黒光りに似た力場が構成される。<br />
　力場の内側で高圧化したエネルギーが、突然発散した！<br />
<br />
「それ」を縛り付けていた見えない呪縛がはじけ飛んだ。体が自由に動くことを確認すると、空中移動の準備動作を始める。<br />
<br />
「させぬぞ！」<br />
<br />
　土と血のよごれにまみれた弓削遙が、よろめきながら立ち上がって七枝刀で打ちかかった！　それを見もせずに片手でなぎ払うと、再び上空を確かめた。<br />
<br />
　迫り来る隕石は、断熱圧縮を起こして先端を赤熱させながら、見る間に大きくなってくる。そこにこめられた魔力の波動が「それ」の表面をびりびりと震わせている。重力が上から来るようなすさまじいプレッシャーが天を覆う。<br />
<br />
　再び、ふわりと浮き上がって、足を地から離した。回避するためだ。だが高速移動に移行しようとしたそのとき、足首を何者かがつかんだ。<br />
<br />
「まぁ待ちなよ」<br />
<br />
　這い寄ってきた、満身創痍の各務柊子だった。すさまじい表情で彼女は笑っていた。<br />
<br />
<br />
　隕石は光の矢となって、「それ」がいた空間を貫いた。<br />
<br />
<br />
　　　　　☆<br />
<br />
<br />
　致死的な爆風。下から掘り起こされ津波と化す大地。激しく舞い上がり大気を靄めかせる砂粒。かなりの時間をかけてそれらが沈静すると、森は消え、砂礫の大地がむきだしになっていた。<br />
「それ」の姿はなかった。<br />
<br />
　かわりに、黒曜石のような黒光りする球体が、いくつも宙に浮遊していた。ほとんど質量は感じられず、シャボン玉めいた様子で浮き沈みしていた。<br />
　やがてそれらの球体はひとところに集まり、くっつきあうと、たちまち手足のある形状へと変容した。「それ」は何事もなかったかのように元の姿に戻ったのだった。<br />
<br />
「うわああああっ!!　おのれッ!!」<br />
　絶叫とともに空から飛び降りてきた者がいた。それはレジーナ・アルキオーネだった。乗っていた竜の鞍から身を投げ出し、落下の勢いをのせて愛剣を振り下ろした！<br />
　続いて同様にカーラ・アステリオンが飛び降りざま打ちかかる。そして最後に、アトランティスの君主、レイナ・アークトゥルスが斬撃に加わった。三振りの剣がほぼ同時に打ち下ろされる！<br />
<br />
　３人はそして同時に吹き飛ばされた。<br />
「それ」が蠅を追うようにうるさげに手を振ると、３人の剣士は三方向に分かれて地面に転がされた。「それ」が両手を大きく広げて自分自身を十字架のかたちにすると、体から毒々しい暗紅色のビームがいくつも生じた。紅い光線は蛇のように宙をのたうつと、地面に横たわる三剣士を立て続けにうちのめした。３人は防ぐことすらできずに光線を浴びせかけられるままだ。<br />
<br />
「それ」はふと攻撃をやめ、空を見上げる。<br />
<br />
　体の周囲が、紅色の力場で球状に覆われた。次の瞬間、三剣士を撃ったのとは比べものにならない大出力のビームが、無数にうねりながら空へ向かって飛んだ。上空で、四巫女が張っていた結界が砕ける音がした。再び、空に向けて同様のビームが放たれた。こんどはさえぎるものなく、天頂に向けて光の柱が立つ。紅い光柱ははるか上空で放射状に分かれた。<br />
　暗い紅のビームはスイカの模様のように地球を覆って飛んでいく。<br />
<br />
　　　　　＊<br />
<br />
　そのビームの一条はロスアンジェルスに着弾した。<br />
　別の一条はロンドンに着弾した。<br />
　さらに別の一弾は東京へ。<br />
　香港。<br />
　北京。<br />
　モスクワ。<br />
　ヨハネスブルグ。<br />
　パリ。ローマ。ムンバイ。ブエノスアイレス。シドニー。<br />
<br />
　世界の主要都市が、その一撃で、炎上した。<br />
<br />
<br />
　　　　　☆<br />
<br />
<br />
　天空にて、仁王立ちに似た姿勢で腕組みをしていた大天使ミカエルが、満足そうにうなずいた。<br />
「素晴らしい」<br />
<br />
　もっと近くで見るために、翼をはためかせ、高度を下げていく。<br />
<br />
<br />
　　　　　☆<br />
<br />
<br />
　斎木遊名は、万城目千里の遠視能力を経由して、炎上する都内の光景を見ていた。<br />
　万城目が問うた。<br />
「サイコキネシストを災害対応に派遣しますか？」<br />
「そんなことは佳名の仕事だ」<br />
　斎木遊名は一蹴した。<br />
「引き続き全エスパーを本部へ招集。マインドリンクへの参加を。貴女も加わりなさい。もう情報収集の必要はない」<br />
「はい」<br />
<br />
<br />
　　　　　☆<br />
<br />
<br />
　藤宮真由美は念動で自分自身を動かし、空中を飛行していく。まともなら呼吸ができなくなる速度だが、体の周囲に不可視の防御殻を張り巡らしているので、髪ひとつ乱れはしない。<br />
　海岸線の地形が、後方に飛びすさっていく。西へ。藤宮真由美は景色にまるで興味を示さない。<br />
<br />
　　　　　＊<br />
<br />
　彼女の高速移動を支えているのは、E.G.O.の総本部に集まった数百名のエスパー集団だ。円形のホールに集まった超能力者たちは、同心円状に配置された座席に体をうずめ、祭壇に祈りを捧げるように一様に目を閉じている。<br />
　彼女たちの全員が、藤宮真由美の意識に接続している。そして精神的なエネルギーを供給しつづけている。<br />
　いわばこの場は、巨大なプロペラント・タンク。そして藤宮真由美という戦闘ユニットの外部脳だ。<br />
<br />
　シャッターに似た自動ドアが開いて、万城目千里が入室した。ホール中央に近い席を占めた。隣には結城望がいた。<br />
　結城望は状況を問われる前から答えた。<br />
「精神感応をしているのに、真由美さんからの感情をまったく感じません」<br />
「あっちで閉鎖しているの？」<br />
「いいえ、フルオープンです」<br />
「……そうか」<br />
「気持ち悪いです……怖い」<br />
　結城望が自分の感情を自分からはっきり述べるのはめずらしかった。<br />
<br />
　万城目千里は自分自身を真由美につないだ。テレパシーで彼女に告げた。<br />
《現地の遠視映像を送る》<br />
<br />
<br />
　　　　　☆<br />
<br />
<br />
　万城目千里からビジョンが送られてきた。大きくえぐれた大地に、《ターゲット》が立っている……正確には、立っているような姿勢で宙に浮いているのが見えた。<br />
　白っぽい。羽根がある。手足はあるが、どこかしらぬるりとした質感がある。<br />
<br />
　肉眼では、まだ樹海の端が見えてきた程度だ。<br />
<br />
　真由美は空中で停止する。<br />
<br />
　空に浮かんだまま、胸の前で両手を合わせた。やがて両手の間から、金色の光が生まれる。真由美が手を大きく開くと光は引き延ばされて槍状に変わる。<br />
　いや、最初は槍状だったものは、たちまちそうといえない大きさにふくらんだ。<br />
　全長は100メートルを越えていた。そんな光の杭をふりかぶった藤宮真由美の姿は、まるで巨大飛行船にぶらさがったマスコット人形のようだった。地球のエスパー史上最大のサイコスピア。<br />
<br />
　　　　　＊<br />
<br />
「意識を強く保って！　サイコスピアの維持に集中して！」<br />
　万城目千里がホールのエスパーたちに警告した。脳への過負荷で、何人かの体が痙攣を起こし始めていた。<br />
<br />
　　　　　＊<br />
<br />
　藤宮真由美はサイコスピアを投げた。槍というには巨大すぎるその光の束は大気を引き裂き、分子を電離させ、余波で地面は直線を描いてえぐれた。<br />
　目標に向かってまっすぐに飛んだ。<br />
　着弾を待たずに、藤宮真由美はそれを追跡して飛ぶ。<br />
<br />
<br />
「それ」は振り向いた。金色の光が向かってきた。暗い紅色のビームが全身から発生し、ねじまがりながらサイコスピアの迎撃に向かった。上方から飛来する金色の光と、下方から迎え撃つ暗紅色の光。ふたつの光がぶつかりあい、相殺されるはずだった。<br />
　ビームはサイコスピアのエネルギーを八割がた削り取った。残りの二割は勢いを止めずにそのまま突き進んできた。<br />
「それ」は移動して避けようとした。<br />
　そのときサイコスピアの速度が急激に上がった。まるで空中で新たな力が加わって投げ直されたかのようだ。<br />
<br />
　金色のエネルギーが、「それ」のいた場所を貫通する。<br />
<br />
　爆風がおさまり、土埃が晴れると、「それ」の左腕は肩から消滅していた。胸部も半ばえぐれている。傷口に、生物らしい筋繊維や内臓は見られない。ただ黒いシャボン玉じみた粒がばちばちと爆ぜているだけだ。<br />
　痛みの表情はなかった。「それ」は頭上の一点に視線を固定している。<br />
<br />
<br />
<br />
　こまかい電光を発するプラズマの球体を４つ、体の周囲に回転させている、藤宮真由美が無表情に見おろしていた。</p>
	      <br />
	          <p class="acenter">　 <img src="https://www.aquarian-age.org/wordpress/wp-content/uploads/world01_name05.jpg" width="474" height="50" alt="各務柊子"></p>
	          <p class="acenter"><img src="https://www.aquarian-age.org/wordpress/wp-content/uploads/world01_img05.jpg" alt="各務柊子" width="420" height="420" class="img_line" /></p>
	          <p>　崑崙山を出た後、富士の山中にこもり、独自の修行を続けていた。予言されていた敵がまさにその場に墜落してきたのは、彼女は偶然のなせるわざだと思っている。<br />
　が、何か人知を越えたものの導きが、彼女をそこにいさせたのかもしれない。<br />
<br />
　四聖獣の巫女が機転を利かせ、邪悪払いの霊力で彼女を守ったため、ステラの隕石召喚の爆心地にいながらかろうじて生きながらえた。だが、その後の消息はさだかではない。</p>
            </div>]]></content:encoded>
			<wfw:commentRss>https://www.aquarian-age.org/fragments-world05/feed/</wfw:commentRss>
		<slash:comments>0</slash:comments>
		</item>
		<item>
		<title>アクエリアンエイジ フラグメンツ～約束の世界～ 断片4</title>
		<link>https://www.aquarian-age.org/fragments-world04/</link>
		<comments>https://www.aquarian-age.org/fragments-world04/#comments</comments>
		<pubDate>Tue, 19 Jul 2011 09:00:27 +0000</pubDate>
		<dc:creator>aqweb_admin</dc:creator>
				<category><![CDATA[ストーリー]]></category>
		<category><![CDATA[フラグメンツ]]></category>

		<guid isPermaLink="false">https://www.aquarian-age.org/?p=1107</guid>
		<description><![CDATA[断片4「墜ちたるもの」 　アンペレス要塞砲にびっしりと刻み込まれたルーン文字は、根本から青白い輝きを宿し、いまやその光は砲口まで達していた。要塞の主動力である紅の大真珠から送りこまれた魔力が隅々まで行き渡り、それは呪文詠唱が完全に終了しているあかしだった。 　突然、砲身がシリンダーロックめいた回転を始めた。パズルのようにルーンが組み変わる。そして砲身全体がにわかに金色の光を放ち―― 　天に向かって発射された！ 　爆風が放射状に甲板上をなめる。死闘を演じていたレイナと飯塚秋緒、東海林光は急激に煽られて一瞬身体が浮いた。それぞれが打ち出された主砲を見ている。その他の魔剣士や獣人たちも同様だった。 　打ち出されたのは彗星のように尾を引く光の弾だ。先頭部は楕円に引き延ばした球体で、尾の部分はネジのように螺旋になっている。回転が加わっている証拠だ。 　光の弾丸は、もう肉眼で見えるほどになっている黒い星めがけてまっすぐに飛んだ。そして目標にあやまたず激突し―― 　弾だけが光の粒となって四散した。 　その様子を、見下ろすように見ることができる視点があったら、このようなありさまを知覚しただろう。斜め上からと斜め下から、まっすぐにぶつかりあう２つの物体。上から落ちてきた「それ」が、下からの光弾の中心を正確に貫き通す。一瞬、弾丸はまるでビーズのように穴の開いた球体になり、打ち出された勢いを保ったまま、内側から細かい粒のように破裂する。 「報告せよッ！」 　レイナ・アークトゥルスは宙に向かって怒鳴る。宙から魔術師の声がする。 《目標健在、砲弾消失しました》 「何だと……」 《あれが地上に着弾します……いえ、ここに墜落します！》 　　　　　＊ 　イレイザーの大天使ミカエルは、ほとんど空気のない上空にいて、腕組みをしながら地上の様子を見下ろしていた。極星帝国の要塞砲弾が砕け散るさまも彼女は見ていた。 「よき破壊だ」 　ミカエルは、「それ」が地上に落ちていくのを、天体ショーを見物するような気分で見ていた。 「それ」は大気圏にまっすぐつっこんだ。断熱圧縮が起こって先頭部が熱を帯びていたようだったが、赤熱するのではなく青白く発光していた。 「それ」は意志があるようには少しも見えなかった。むしろこれこそが砲弾じみていた。ただまっすぐ飛来して、まっすぐ地球に落ちていく。 　流れ星のようだ。 　　　　　＊ 　地上から見れば、一瞬のことだった。 「それ」は一瞬で大きくなり、眼前に肉薄し―― 　アンペレス要塞に直撃した！ 　そして貫通した。 　甲板から底部へ、針を通すように要塞を貫き、そのまま「それ」は地上に激突した。 　アンペレス要塞は一瞬の間をおいて、悲鳴に似た金属音を放った。石組みが外側からバラバラと分解しはじめた。 　要塞は、その浮遊する力を失い、炎上しながら沈んだ。威容を誇った逆三角形は、富士の斜面に落ちた。斜面を滑るように横倒しになる。 　砕けた組石と地表の砂がもうもうと舞い上がり、要塞の姿を隠した。 　要塞を貫いて地上に着弾した「それ」は、富士の裾野にクレーターを作ったのだが、上から覆い被さった要塞と土埃で、それは見えない。 　土埃の中で、「それ」はゆっくりと立ちあがった。 　得体の知れない球体にすぎなかったそれは、いま、人のかたちに近い、手と足を持っていた。身体の曲線は美しく、全身はうっすらと赤く発光していた。体格は子供のように小さかった。 　粉塵の中から、「それ」は歩み出てきた。「それ」は何の感情もなく、周囲を見回したりもしなかった。まるでオブジェのようにそこにあるだけだった。 　おもむろに「それ」は、両手を左右に広げて自分の身体で十字を作った。全身が赤く発光した。 　その直後、光る全身から無数のビームが生じた。光の条は天空に飛んだと思いきや、屈曲して樹海全面にくまなくふりそそいだ！　子供が地面に棒で線を引くように、赤っぽい光線が森を薙ぎ、大地は内側から沸騰して次から次へ爆発した！ 　一瞬のうちに―― 　富士樹海の大部分は火の海と化した。 　深く広い森林には獣人たちがゲリラ戦をしており、極星の魔剣士たちが戦隊を組んで立ちむかっていた。そうしたものたちは、この一瞬でほとんどが消えた。 　そのすさまじい光景、しかし生みだした本人は何の感銘も受けていないようだった。「それ」が再び両手を広げてその身で十字を作り、もういちど光で視界の全てを焼き払おうとしたとき。 「待っていたぞ！　イレイザーっ！」 　爆煙の中から各務柊子が躍り出た！全力で間合いを詰めて一気に跳躍した。拳を振り上げ、躍りかかる。青白いオーラを宿した右の拳が「それ」の喉元に正確に激突した。 　――しかし。 　鉄の柱でも殴ったような感触を覚えて、直後、各務柊子は見えない力にはじき飛ばされた。 　急所を突き下ろされたはずの「それ」は、よろめきもせず、風が吹いたほどですらない。 　何の意志も宿らないふたつの目が、ゆっくりと各務柊子を捉えた。「それ」の右手が緩慢な速度で上がっていき、人差し指が各務柊子を指ししめした。 　指先に赤い光が宿るのを、各務柊子は見た。 「ア……」 　避けることも受けとめることも不可能だと、各務柊子は本能で悟った。 　 　　　　　☆ 「今だ――」 　自らを四方に配置した四人の巫女は、今がその時だと察して、示し合わせるでもないのにまったく同時に、祭文を上げ始めた。 《踏足して地の戸に申す　拍手して天の門に申す　天宿地宿諸神諸霊に申す　謹請　青帝在東方　謹請　赤帝在南方　謹請　白帝在西方　謹請　黒帝在北方……》 　巫女たち自身が儀式の人柱だ。人柱をアンテナとして、四方を統べる聖獣の霊が降りてくる。青い竜、赤い鳳凰、白い虎、黒い亀がしかるべき方角に据えられる。四点を結んだ四角形の空間は固定された。 [...]]]></description>
			<content:encoded><![CDATA[<div class="boxtext">
              <h3 class="chapter">断片4「墜ちたるもの」</h3>
              <p>　アンペレス要塞砲にびっしりと刻み込まれたルーン文字は、根本から青白い輝きを宿し、いまやその光は砲口まで達していた。要塞の主動力である紅の大真珠から送りこまれた魔力が隅々まで行き渡り、それは呪文詠唱が完全に終了しているあかしだった。<br />
<br />
　突然、砲身がシリンダーロックめいた回転を始めた。パズルのようにルーンが組み変わる。そして砲身全体がにわかに金色の光を放ち――<br />
<br />
　天に向かって発射された！<br />
<br />
　爆風が放射状に甲板上をなめる。死闘を演じていたレイナと飯塚秋緒、東海林光は急激に煽られて一瞬身体が浮いた。それぞれが打ち出された主砲を見ている。その他の魔剣士や獣人たちも同様だった。<br />
<br />
　打ち出されたのは彗星のように尾を引く光の弾だ。先頭部は楕円に引き延ばした球体で、尾の部分はネジのように螺旋になっている。回転が加わっている証拠だ。<br />
　光の弾丸は、もう肉眼で見えるほどになっている黒い星めがけてまっすぐに飛んだ。そして目標にあやまたず激突し――<br />
<br />
　弾だけが光の粒となって四散した。<br />
<br />
　その様子を、見下ろすように見ることができる視点があったら、このようなありさまを知覚しただろう。斜め上からと斜め下から、まっすぐにぶつかりあう２つの物体。上から落ちてきた「それ」が、下からの光弾の中心を正確に貫き通す。一瞬、弾丸はまるでビーズのように穴の開いた球体になり、打ち出された勢いを保ったまま、内側から細かい粒のように破裂する。<br />
<br />
「報告せよッ！」<br />
<br />
　レイナ・アークトゥルスは宙に向かって怒鳴る。宙から魔術師の声がする。<br />
《目標健在、砲弾消失しました》<br />
「何だと……」<br />
《あれが地上に着弾します……いえ、ここに墜落します！》<br />
<br />
　　　　　＊<br />
<br />
　イレイザーの大天使ミカエルは、ほとんど空気のない上空にいて、腕組みをしながら地上の様子を見下ろしていた。極星帝国の要塞砲弾が砕け散るさまも彼女は見ていた。<br />
<br />
「よき破壊だ」<br />
<br />
　ミカエルは、「それ」が地上に落ちていくのを、天体ショーを見物するような気分で見ていた。<br />
<br />
「それ」は大気圏にまっすぐつっこんだ。断熱圧縮が起こって先頭部が熱を帯びていたようだったが、赤熱するのではなく青白く発光していた。<br />
<br />
「それ」は意志があるようには少しも見えなかった。むしろこれこそが砲弾じみていた。ただまっすぐ飛来して、まっすぐ地球に落ちていく。<br />
　流れ星のようだ。<br />
<br />
　　　　　＊<br />
<br />
　地上から見れば、一瞬のことだった。<br />
「それ」は一瞬で大きくなり、眼前に肉薄し――<br />
<br />
　アンペレス要塞に直撃した！<br />
　そして貫通した。<br />
<br />
　甲板から底部へ、針を通すように要塞を貫き、そのまま「それ」は地上に激突した。<br />
　アンペレス要塞は一瞬の間をおいて、悲鳴に似た金属音を放った。石組みが外側からバラバラと分解しはじめた。<br />
　要塞は、その浮遊する力を失い、炎上しながら沈んだ。威容を誇った逆三角形は、富士の斜面に落ちた。斜面を滑るように横倒しになる。<br />
　砕けた組石と地表の砂がもうもうと舞い上がり、要塞の姿を隠した。<br />
<br />
　要塞を貫いて地上に着弾した「それ」は、富士の裾野にクレーターを作ったのだが、上から覆い被さった要塞と土埃で、それは見えない。<br />
<br />
<br />
　土埃の中で、「それ」はゆっくりと立ちあがった。<br />
<br />
<br />
　得体の知れない球体にすぎなかったそれは、いま、人のかたちに近い、手と足を持っていた。身体の曲線は美しく、全身はうっすらと赤く発光していた。体格は子供のように小さかった。<br />
<br />
　粉塵の中から、「それ」は歩み出てきた。「それ」は何の感情もなく、周囲を見回したりもしなかった。まるでオブジェのようにそこにあるだけだった。<br />
<br />
　おもむろに「それ」は、両手を左右に広げて自分の身体で十字を作った。全身が赤く発光した。<br />
　その直後、光る全身から無数のビームが生じた。光の条は天空に飛んだと思いきや、屈曲して樹海全面にくまなくふりそそいだ！　子供が地面に棒で線を引くように、赤っぽい光線が森を薙ぎ、大地は内側から沸騰して次から次へ爆発した！<br />
<br />
　一瞬のうちに――<br />
　富士樹海の大部分は火の海と化した。<br />
<br />
　深く広い森林には獣人たちがゲリラ戦をしており、極星の魔剣士たちが戦隊を組んで立ちむかっていた。そうしたものたちは、この一瞬でほとんどが消えた。<br />
　そのすさまじい光景、しかし生みだした本人は何の感銘も受けていないようだった。「それ」が再び両手を広げてその身で十字を作り、もういちど光で視界の全てを焼き払おうとしたとき。<br />
<br />
「待っていたぞ！　イレイザーっ！」<br />
<br />
　爆煙の中から各務柊子が躍り出た！全力で間合いを詰めて一気に跳躍した。拳を振り上げ、躍りかかる。青白いオーラを宿した右の拳が「それ」の喉元に正確に激突した。<br />
　――しかし。<br />
　鉄の柱でも殴ったような感触を覚えて、直後、各務柊子は見えない力にはじき飛ばされた。<br />
　急所を突き下ろされたはずの「それ」は、よろめきもせず、風が吹いたほどですらない。<br />
<br />
　何の意志も宿らないふたつの目が、ゆっくりと各務柊子を捉えた。「それ」の右手が緩慢な速度で上がっていき、人差し指が各務柊子を指ししめした。<br />
　指先に赤い光が宿るのを、各務柊子は見た。<br />
<br />
「ア……」<br />
<br />
　避けることも受けとめることも不可能だと、各務柊子は本能で悟った。<br />
　<br />
<br />
　　　　　☆<br />
<br />
<br />
「今だ――」<br />
　自らを四方に配置した四人の巫女は、今がその時だと察して、示し合わせるでもないのにまったく同時に、祭文を上げ始めた。<br />
<br />
《踏足して地の戸に申す　拍手して天の門に申す　天宿地宿諸神諸霊に申す　謹請　青帝在東方　謹請　赤帝在南方　謹請　白帝在西方　謹請　黒帝在北方……》<br />
<br />
　巫女たち自身が儀式の人柱だ。人柱をアンテナとして、四方を統べる聖獣の霊が降りてくる。青い竜、赤い鳳凰、白い虎、黒い亀がしかるべき方角に据えられる。四点を結んだ四角形の空間は固定された。
<br />
<br />
<br />
　そのころ。同時に地水火風の四魔女も儀式魔術を始めていた。<br />
<br />
《四元素よ四別せよ、水火は左右に、地風は前後に。左回りにめぐれめぐれ。四霊は回転し城壁を作る。人知も神智もせきとめよ、ここは四霊の城塞なり、ここは諸神の牢獄なり》<br />
<br />
　自然の力が四種類に分けられ、これも四方に配置される。四点を結んだ四角形が見えない壁となり、内と外を峻別する。<br />
<br />
　四角形と四角形が重なり、八角形となった二重結界が現出した。これで結界内にいるものは外には出てこられないはずだった。<br />
<br />
　　　　　＊<br />
<br />
「やってしまって下さい」<br />
　広島にいる厳島美晴が指示を下した。おつきの狭野うららが一礼して引き下がる。いま、阿羅耶識につらなる全国の寺社が霊力を結集している。その力を解放せよ、と美晴は命令した。うららはそれを各地に伝達した。<br />
<br />
　　　　　＊<br />
<br />
　富士の上空がにわかにかき曇った。雲に遮られた太陽の光は、空に巨大な人影らしきものを映し出した。<br />
　その姿は――背中に炎を背負った半裸の巨人。<br />
　顔は４つ、腕は８本。その手に金剛杵、金剛戟、弓矢、刀、索を持っている。<br />
　厳島美晴と日本の霊能者たちが総力を結集して勧請した神格、それは憤怒の鬼神、降三世明王の姿である。<br />
　阿羅耶識の能力者たちは、自分たちの霊力を一カ所に集め、半ば実体化させ、調伏の憤怒尊の姿を与えたのである。これほど大がかりな降伏法が行なわれたのは、歴史をひもといても数度しかない。<br />
<br />
　天空のスクリーンに浮かんだ降三世明王は、炎上する樹海を見下ろし、正面の顔についた三眼をむいた。<br />
　金剛戟を掲げ、それを振り下ろした。<br />
<br />
　振り下ろした先には、全身血まみれになって地に伏した各務柊子と――その作業を何の感慨もなく淡々と行なった「それ」がいた。<br />
<br />
　半ば透明な、巨大な金剛戟が地面を叩いた瞬間、大地は爆発したようになり、砕けた岩盤が放射状に舞った。<br />
「それ」は無傷で立っていた。<br />
　塔ほどもありそうな三つ叉の戟を、顔色ひとつかえず、紙一重で避けたのだった。<br />
<br />
「それ」は初めて上空に目を遣った。そこに大きな力がわだかまっていることを悟ると、全身から激しい衝撃波を放った。<br />
　放たれた力は空で爆発する。<br />
　降三世明王の形に結束していた霊能者たちの霊力は、見えない衝撃を食らって瓦解しはじめた。<br />
　再結集しようとしているが、うまくいかない。やがて雲は晴れ、日光が直接当るようになると、集まっていた力は朝霧のように消えてしまった。<br />
<br />
<br />
「ええい、やっと追いついた！」<br />
<br />
　弓削遙は抜き身の二剣をぶら下げ、早足で火の中から進み出てきた。そこにいる小さな人の形をしたものが、目当ての「それ」であることは一目でわかった。彼女は右手の草薙剣を上段に掲げた。<br />
<br />
「神域、侵すべからず。成敗する。話はそれからだ！」<br />
　弓削遙は一気に踏み込み、頭上から草薙剣をふりかぶった。それを必殺の勢いで振り下ろそうとしたとき！<br />
<br />
　相手の姿が、ゆらり揺らめくのが見えた。<br />
<br />
「え？」<br />
<br />
　すさまじい衝撃波が弓削遙を吹き飛ばした。即死しなかったのは反射的に剣を下ろして受けとめたおかげだ。背中から木の幹に叩きつけられ、弓削遙は呼吸不能に陥る。致死性の衝撃弾が立て続けに彼女に降り注ぐ。二振りの剣をかざして体を守るのが精一杯だ。<br />
<br />
　ガラスが割れるような硬質な音がして、弓削遙はゾッとした。<br />
<br />
　草薙の神剣が真っ二つに折れ、剣先が地面に落ちた。<br />
<br />
　二千数百年という歴史の厚みを刃の形に結集したこの剣。それですら傷をつけられない相手と――どう戦えというのだ？<br />
<br />
<br />
　　　　　☆<br />
<br />
<br />
　制服姿のまま、人けの少ない住宅街をあてもなく歩いていた藤宮真由美は、名前を呼ばれて振り返った。<br />
<br />
　真由美の母、斎木遊名が立っていた。<br />
　血のつながりとして、この人が母だということは知っているが、母らしいことをしてもらったことはない。たまに会うとき、遊名はいつもE.G.O.総帥としての顔だ。<br />
<br />
「出撃しなさい」<br />
　斎木遊名は用件だけを何の飾りもなく言った。<br />
「戦いに行って、どうなるのですか？」<br />
「おまえの意志や生命など問題ではない」<br />
<br />
　あまりにも冷酷な言葉だというべきであった。だが――<br />
<br />
「わかりました」<br />
<br />
　真由美は承諾した。遊名の言葉が冷たかったがゆえに、行く気になったのかもしれなかった。真由美の顔には何かを諦めたような表情が浮かんでいた。<br />
<br />
<br />
　　　　　☆<br />
<br />
<br />
　高速エレベーターを使い、藤宮真由美は、斎木インダストリービル屋上のヘリポートに立った。<br />
　吹きさらしの広い空間に進み出ると、強い風がなぶいた。そこには、結城望、万城目千里、斎木美奈が並んで待っていた。<br />
「私たちが後方からマインドリンクして、力を送信しつづけます。それと、500名のエスパーが同様にバックアップします」<br />
　結城望の言葉に、真由美は小さくうなずく。斎木美奈が訊ねた。<br />
「戦闘服着たほうがよくない？」<br />
　真由美はいつも通りのセーラー服姿だった。彼女は答えた。<br />
「これ着てないと自分が誰だかわからなくなる」<br />
　万城目千里は沈黙を保っている。<br />
<br />
　真由美は特に感慨もなく、屋上を歩いて、ビルの縁にある柵の上に軽々と飛び乗った。振り返りもしないし、手を振りもしない。<br />
<br />
　そのまま自分からバランスを崩して、地上に向けて何のためらいもなく飛び降りた。<br />
<br />
　もちろん、墜落するつもりなどなかった。しばらく自由落下を楽しんだあと、真由美は念動を発揮して、自分自身を一気に飛ばした。</p>
	      <br />
	          <p class="acenter">　 <img src="https://www.aquarian-age.org/wordpress/wp-content/uploads/world01_name04.jpg" width="474" height="50" alt="弓削遙"></p>
	          <p class="acenter"><img src="https://www.aquarian-age.org/wordpress/wp-content/uploads/world01_img04.jpg" alt="弓削遙" width="420" height="420" class="img_line" /></p>
	          <p>　剣の巫女。日本国内に現存する霊剣、神剣のほとんどを実際に振るったことがある。また持ち主を選ぶこれらの名剣も、彼女の手の中には進んで収まると言われる。<br />
                  <br />
　現在、彼女が預かっている剣は「草薙剣」と「七枝刀」の２振り。草薙剣は、壇ノ浦の戦いで海中に没したとされている個体。七枝刀は四世紀に百済から伝わったと日本書紀に記述されているもので、石上神宮に現存するものとは別物。</p>
            </div>]]></content:encoded>
			<wfw:commentRss>https://www.aquarian-age.org/fragments-world04/feed/</wfw:commentRss>
		<slash:comments>0</slash:comments>
		</item>
		<item>
		<title>アクエリアンエイジ フラグメンツ～約束の世界～ 断片3</title>
		<link>https://www.aquarian-age.org/fragments-world03/</link>
		<comments>https://www.aquarian-age.org/fragments-world03/#comments</comments>
		<pubDate>Tue, 05 Jul 2011 09:00:32 +0000</pubDate>
		<dc:creator>aqweb_admin</dc:creator>
				<category><![CDATA[ストーリー]]></category>
		<category><![CDATA[フラグメンツ]]></category>

		<guid isPermaLink="false">https://www.aquarian-age.org/?p=1104</guid>
		<description><![CDATA[断片3「混戦」 　東海林光が高速で空中を移動している。 　丈の短いサマーコートの裾が風圧で暴れている。彼女は生身で、一直線に空を飛んでいた。 　大気中の分子を電離させ、イオンの気流を作って空を飛ぶ。電気を操るこの超人の表情は、ひどく思い詰めていた。 　目指す地は、富士山麓。 　左手の袖で口元を覆って、吹きつける大気を避けながら、東海林光は殺意にふるえていた。高速で流れ去る眼下の風景が、彼女の精神を鋭くとがらせていく。 　空を馳せる東海林光が、青木ヶ原の樹海にさしかかる。黒々として広がる大森林は上空からだと苔がびっしりこびりついているかのように見える。森の中で大規模な戦闘が発生している気配を、光は完全に無視した。 　彼女が目指す先。 　ピラミッドを逆さまにしたような異常な建築物が、富士の斜面に寄り添うかのように、空中に静止しているのを見た。 　速度を落とさないまま東海林光は急上昇した。超高度からアンペレス要塞の甲板に急降下した。彼女は叫んだ。 「ク・ホリンは何処だッ！」 　絶叫しながら大きく体を反らし、振り上げた両手を振り下ろした。十本の指から十条の電光が生じ、細かく枝分かれして編み目のような無数の稲光となった。いかづちのシャワーは雨のように要塞甲板にくまなくふりそそいで、平面上にいるすべての戦士たちをなぎはらった。 　飯塚秋緒は電撃をもろに食らった。激しい電流は彼女の筋肉を強制的に暴れさせ、飯塚秋緒は痙攣しながら後方に吹き飛んだ。 　秋緒と一騎打ちをしていたレイナ・アークトクルスが無事だったのは極星剣ポラリスのおかげだ。この魔剣は主の意志に反して勝手に動き、電撃のシャワーを受けとめ、吸い取った。 　レイナはポラリスを勢いよく振り上げた。剣先から電撃が発し、上空の東海林光に殺到する。吸い取った雷を投げ返したのだ。東海林光はそれを片手で受けとめる。 「東海林光、電撃使いめ！　おまえの首を取る機会をまちかねていたぞ！」 「あの槍男はどこよッ！」 「間違えるな、おまえをしとめるのはこの私だ！」 　レイナ・アークトゥルスの全身が輝き、無数の光の矢が生まれて飛んだ。蛇のように宙をのたうちながらその全てが東海林光へと向かった。東海林光は右手をかぎ爪のようにして振り下ろし、そこから電撃の編み目が生じる。光の矢と電光は２人の中央でぶつかり、まばゆい光芒を発してはじけ飛ぶ。 　東海林光は両手の内に、電光でできた輝く槍を生みだした。それを大きくかざして、上空からレイナ・アークトゥルス向けて急降下する。 　頭上から交差するように差し込まれた二本の雷の槍は、片手持ちの魔剣ポラリス一本で受けとめられた。 　輝く魔力と眩しい雷が、一瞬拮抗する。ぶつかりあった力は大きくはじけた。圧力に耐えかねたのはレイナのほうだ。爆風にあおられ、ブーツの底を滑らせるようにして５メートルほど後退する。 　再び間合いを詰めようと東海林光が突進する。その彼女を、丸太を投げ込むような強烈な蹴りが襲った。東海林光の体は横向きに吹き飛び、地面に横転する。 　その激しい一撃を放ったのは人狼、飯塚秋緒だ。 「あんたも侵入者だ。――狩る」 「邪魔をするな、人狼！」 　レイナ・アークトゥルスは上段からの斬撃を飯塚秋緒に浴びせかけた。飯塚は両手のかぎ爪でそれを受けとめる。 　腹を押さえて咳き込みながら身を起こした東海林光が、２つの敵を同時に始末しようと、電撃をチャージしはじめていた……。 　　　　　☆ 「おお、始まっている」 　魔女ステラ・ブラヴァツキは、湿った地面に後輪をスライドさせてバイクを止めた。薄暗い樹海の中である。浮遊要塞まで、まだ距離がある。 　攻撃魔法や電光が要塞の上で飛び交っている様子が、ここからでも見える。 「これでは遅刻だ。少し遅れを取りもどしておこう」 　ステラ・ブラヴァツキは愛用の短杖を胸の前で捧げ持ち、呪文をとなえた。魔法使いにしか意味を知ることのできない特別な文字列である。あえて意味を訳せば、このようになる。 《――見えざる元素よ、火へと組み変われ。汝は猛々しきもの。汝は高揚せしむるもの。さあ集まれ、そして飛ぶがよい》 　ステラの周囲に十数個の光の点が浮かび上がり、それはたちまちふくらんで、どろどろと対流する球状のマグマに変わった。それらは一斉に空に向かって斜めに飛んだ。放物線を描き、逆さピラミッドの浮遊要塞に殺到する。 　着弾した。立て続けの激しい爆発が要塞の壁面を砕いていく。いくつかの火砲と隔壁がまとめて使用不能になった。 「いかんな、最近使っていなかったからコントロールが悪い」 　たった１人、しかも一瞬でそれだけの成果を挙げながら、ステラ・ブラヴァツキは不満らしかった。 　遠くの空に、ペガサスにまたがった十騎あまりの極星騎士がいた。彼らは空中を旋回し、ステラのいるあたりに向けて下降してきた。要塞を急に攻撃してきた新手の魔法使いをしとめにきたらしかった。 　足止めされるのをきらって、ステラはバイクを再び走らせようとした。そこで新たな気配を察知した。木々や茂みをかき分けて、かなりの速度で迫ってくる徒歩の集団だ。 　ステラは遠見の力でその正体を確かめる。獣人の戦隊だった。百名は超すだろう。ほとんどが人狼で人虎が少し。あと正体不明の動物の獣人が幾人か。かなりの速度だ。逃げても追いつかれるだろう。 　ステラはバイクにまたがったまま、獣人の集団が殺到してくるのを涼しい顔で待った。やがて一番槍とばかりに先頭の人狼が数名森から飛び出してきた。 《眠れる木々よ、目覚めろ、従え》 　ステラが唱えたとたん、周囲の陰気な樹木たちがどす黒い赤色に染まり、まるでゴムでできているかのように幹をくねらせはじめた。振り下ろされたいくつもの枝が、突進してきた獣人たちをなぎ払った。 　動き始めた大木は枝を腕のように振るい、根っこを土の下から引き抜き、巨大な怪物として活動を始めた。 　続いてステラは、バイクの後席にくくった皮バッグから液体の入った瓶を取りだし、地面に叩きつけて割る。クラリスに提供させた薬品だ。 《湿った土よ、おまえたちに人の形をやろう。さあ、頭をもたげろ。腕をのばせ。その腕を地について身を起こせ。足を引き抜いて立ちあがれ。そして満足するまで獣たちを襲うがいい》 　地面が立て続けにぼこぼことふくらみ、土塊は人間の形をとって次々に立ちあがった。ステラが土から生みだしたゴーレムは、転倒した獣人を生まれたそばから襲い始める。 　獣人の部隊と土のゴーレムの集団は、いまや真っ向からぶつかりあっていた。ゴーレムは獣人に比べて弱いが、土を原料にほとんど無限に生まれてきており、あっというまに数倍になっていた。 　ペガサス騎士たちが降下してきたが、彼らが発見したものは獣人とゴーレムの激戦地だった。動く大樹の怪物が無数の枝でペガサス騎士を襲った。墜落させられた騎士は地上の激戦に巻き込まれていく。 　ステラ・ブラヴァツキはバイクをまわして去った。 　 　　　　　☆ 　阿羅耶識には「四聖獣の巫女」と呼ばれる４名がおり、外敵に対する霊的防御のかなめとして尊重されている。東西南北の四方に彼女たちが配置され、組織中枢を守っているわけである。 [...]]]></description>
			<content:encoded><![CDATA[<div class="boxtext">
              <h3 class="chapter">断片3「混戦」</h3>
              <p>　東海林光が高速で空中を移動している。<br />
　丈の短いサマーコートの裾が風圧で暴れている。彼女は生身で、一直線に空を飛んでいた。<br />
　大気中の分子を電離させ、イオンの気流を作って空を飛ぶ。電気を操るこの超人の表情は、ひどく思い詰めていた。<br />
<br />
　目指す地は、富士山麓。<br />
<br />
　左手の袖で口元を覆って、吹きつける大気を避けながら、東海林光は殺意にふるえていた。高速で流れ去る眼下の風景が、彼女の精神を鋭くとがらせていく。<br />
<br />
　空を馳せる東海林光が、青木ヶ原の樹海にさしかかる。黒々として広がる大森林は上空からだと苔がびっしりこびりついているかのように見える。森の中で大規模な戦闘が発生している気配を、光は完全に無視した。<br />
　彼女が目指す先。<br />
　ピラミッドを逆さまにしたような異常な建築物が、富士の斜面に寄り添うかのように、空中に静止しているのを見た。<br />
　速度を落とさないまま東海林光は急上昇した。超高度からアンペレス要塞の甲板に急降下した。彼女は叫んだ。<br />
<br />
「ク・ホリンは何処だッ！」<br />
<br />
　絶叫しながら大きく体を反らし、振り上げた両手を振り下ろした。十本の指から十条の電光が生じ、細かく枝分かれして編み目のような無数の稲光となった。いかづちのシャワーは雨のように要塞甲板にくまなくふりそそいで、平面上にいるすべての戦士たちをなぎはらった。<br />
<br />
　飯塚秋緒は電撃をもろに食らった。激しい電流は彼女の筋肉を強制的に暴れさせ、飯塚秋緒は痙攣しながら後方に吹き飛んだ。<br />
<br />
　秋緒と一騎打ちをしていたレイナ・アークトクルスが無事だったのは極星剣ポラリスのおかげだ。この魔剣は主の意志に反して勝手に動き、電撃のシャワーを受けとめ、吸い取った。<br />
　レイナはポラリスを勢いよく振り上げた。剣先から電撃が発し、上空の東海林光に殺到する。吸い取った雷を投げ返したのだ。東海林光はそれを片手で受けとめる。<br />
<br />
「東海林光、電撃使いめ！　おまえの首を取る機会をまちかねていたぞ！」<br />
「あの槍男はどこよッ！」<br />
「間違えるな、おまえをしとめるのはこの私だ！」<br />
　レイナ・アークトゥルスの全身が輝き、無数の光の矢が生まれて飛んだ。蛇のように宙をのたうちながらその全てが東海林光へと向かった。東海林光は右手をかぎ爪のようにして振り下ろし、そこから電撃の編み目が生じる。光の矢と電光は２人の中央でぶつかり、まばゆい光芒を発してはじけ飛ぶ。<br />
<br />
　東海林光は両手の内に、電光でできた輝く槍を生みだした。それを大きくかざして、上空からレイナ・アークトゥルス向けて急降下する。<br />
　頭上から交差するように差し込まれた二本の雷の槍は、片手持ちの魔剣ポラリス一本で受けとめられた。<br />
　輝く魔力と眩しい雷が、一瞬拮抗する。ぶつかりあった力は大きくはじけた。圧力に耐えかねたのはレイナのほうだ。爆風にあおられ、ブーツの底を滑らせるようにして５メートルほど後退する。<br />
<br />
　再び間合いを詰めようと東海林光が突進する。その彼女を、丸太を投げ込むような強烈な蹴りが襲った。東海林光の体は横向きに吹き飛び、地面に横転する。<br />
　その激しい一撃を放ったのは人狼、飯塚秋緒だ。<br />
<br />
「あんたも侵入者だ。――狩る」<br />
「邪魔をするな、人狼！」<br />
<br />
　レイナ・アークトゥルスは上段からの斬撃を飯塚秋緒に浴びせかけた。飯塚は両手のかぎ爪でそれを受けとめる。<br />
<br />
　腹を押さえて咳き込みながら身を起こした東海林光が、２つの敵を同時に始末しようと、電撃をチャージしはじめていた……。<br />
<br />
<br />
　　　　　☆<br />
<br />
<br />
「おお、始まっている」<br />
<br />
　魔女ステラ・ブラヴァツキは、湿った地面に後輪をスライドさせてバイクを止めた。薄暗い樹海の中である。浮遊要塞まで、まだ距離がある。<br />
　攻撃魔法や電光が要塞の上で飛び交っている様子が、ここからでも見える。<br />
<br />
「これでは遅刻だ。少し遅れを取りもどしておこう」<br />
<br />
　ステラ・ブラヴァツキは愛用の短杖を胸の前で捧げ持ち、呪文をとなえた。魔法使いにしか意味を知ることのできない特別な文字列である。あえて意味を訳せば、このようになる。<br />
<br />
《――見えざる元素よ、火へと組み変われ。汝は猛々しきもの。汝は高揚せしむるもの。さあ集まれ、そして飛ぶがよい》<br />
<br />
　ステラの周囲に十数個の光の点が浮かび上がり、それはたちまちふくらんで、どろどろと対流する球状のマグマに変わった。それらは一斉に空に向かって斜めに飛んだ。放物線を描き、逆さピラミッドの浮遊要塞に殺到する。<br />
　着弾した。立て続けの激しい爆発が要塞の壁面を砕いていく。いくつかの火砲と隔壁がまとめて使用不能になった。<br />
<br />
「いかんな、最近使っていなかったからコントロールが悪い」<br />
<br />
　たった１人、しかも一瞬でそれだけの成果を挙げながら、ステラ・ブラヴァツキは不満らしかった。<br />
<br />
　遠くの空に、ペガサスにまたがった十騎あまりの極星騎士がいた。彼らは空中を旋回し、ステラのいるあたりに向けて下降してきた。要塞を急に攻撃してきた新手の魔法使いをしとめにきたらしかった。<br />
<br />
　足止めされるのをきらって、ステラはバイクを再び走らせようとした。そこで新たな気配を察知した。木々や茂みをかき分けて、かなりの速度で迫ってくる徒歩の集団だ。<br />
　ステラは遠見の力でその正体を確かめる。獣人の戦隊だった。百名は超すだろう。ほとんどが人狼で人虎が少し。あと正体不明の動物の獣人が幾人か。かなりの速度だ。逃げても追いつかれるだろう。<br />
<br />
　ステラはバイクにまたがったまま、獣人の集団が殺到してくるのを涼しい顔で待った。やがて一番槍とばかりに先頭の人狼が数名森から飛び出してきた。<br />
<br />
《眠れる木々よ、目覚めろ、従え》<br />
<br />
　ステラが唱えたとたん、周囲の陰気な樹木たちがどす黒い赤色に染まり、まるでゴムでできているかのように幹をくねらせはじめた。振り下ろされたいくつもの枝が、突進してきた獣人たちをなぎ払った。<br />
　動き始めた大木は枝を腕のように振るい、根っこを土の下から引き抜き、巨大な怪物として活動を始めた。<br />
<br />
　続いてステラは、バイクの後席にくくった皮バッグから液体の入った瓶を取りだし、地面に叩きつけて割る。クラリスに提供させた薬品だ。<br />
<br />
《湿った土よ、おまえたちに人の形をやろう。さあ、頭をもたげろ。腕をのばせ。その腕を地について身を起こせ。足を引き抜いて立ちあがれ。そして満足するまで獣たちを襲うがいい》<br />
<br />
　地面が立て続けにぼこぼことふくらみ、土塊は人間の形をとって次々に立ちあがった。ステラが土から生みだしたゴーレムは、転倒した獣人を生まれたそばから襲い始める。<br />
　獣人の部隊と土のゴーレムの集団は、いまや真っ向からぶつかりあっていた。ゴーレムは獣人に比べて弱いが、土を原料にほとんど無限に生まれてきており、あっというまに数倍になっていた。<br />
<br />
　ペガサス騎士たちが降下してきたが、彼らが発見したものは獣人とゴーレムの激戦地だった。動く大樹の怪物が無数の枝でペガサス騎士を襲った。墜落させられた騎士は地上の激戦に巻き込まれていく。<br />
<br />
　ステラ・ブラヴァツキはバイクをまわして去った。<br />
<br />
　<br />
　　　　　☆<br />
<br />
<br />
　阿羅耶識には「四聖獣の巫女」と呼ばれる４名がおり、外敵に対する霊的防御のかなめとして尊重されている。東西南北の四方に彼女たちが配置され、組織中枢を守っているわけである。<br />
<br />
　青龍の巫女・竜ヶ崎藍　守るは東。 <br />
　白虎の巫女・風祭小雪 　守るは西。<br />
　朱雀の巫女・大鳥桜子　守るは南。<br />
　玄武の巫女・阿武巳弥　守るは北。<br />
<br />
　この４名が、厳島美晴の特命を受けて、揃って富士山麓に来ていた。結界を張り、この日本への侵入者たちを、まとめてこの一帯に封じ込めるためである。<br />
　これほどの広大な結界を一度に張り巡らすことができるのは、四聖獣の巫女たちくらいのものだ。<br />
<br />
　いま、大鳥桜子と風祭小雪は、旅草履をふみしめ、樹海の外縁部をひた走っていた。四聖獣の大結界を張るためには、大きく四方を囲わなければならない。<br />
　しかるべき位置に自分自身を配置するために、彼女たちは移動していた。別方向には、竜ヶ崎藍と阿武巳弥が向かっているはずだ。<br />
<br />
　いやな気配を感じて、２人の足は同時に止まった。周囲を見回す。小雪はつぶやいた。<br />
「魔法のにおいがする……」<br />
<br />
　気配の正体はすぐに現われた。森の中から魔女が２人。身を隠すようなそぶりもなく、堂々と靴音をさせて巫女たちの前に立った。<br />
　魔女たちも巫女の気配を察知していたようだが、待ち伏せしていたわけでもなさそうだった。<br />
<br />
「ステラ・ブラヴァツキの高弟たち、この神域に何用？」<br />
　大鳥桜子は半身に構えて言った。巫女たちの前に現われた魔女２人は、水の魔導師エレクトラ・ウィル、そして大地の魔導師カサンドラ・ソーンだった。<br />
<br />
「ここで会ったが百年目……と、イオなら言うところでしょうけれど」<br />
　亜麻色の長い髪が揺れて、エレクトラ・ウィルのウィスパーボイスが風に流れた。<br />
「あいにく、それどころではなくて。このまま見逃して差し上げるけれど、いかが？」<br />
<br />
　カサンドラ・ソーンは、喋るのはエレクトラに任せたというように、無表情におし黙っている。大鳥桜子は、エレクトラの慇懃無礼が気に入らなかったので、強圧的に再質問した。<br />
「何用かと聞いているのよ、地水火風の４魔女よ。残りの２人はどうしたの？」<br />
「もちろん、それぞれの方角に」<br />
　風祭小雪が桜子の顔を見上げる。<br />
「邪魔されたくないみたいだから、邪魔しちゃおっか」<br />
<br />
　小雪はじりじりと地面を鳴らして間合いをとりはじめた。<br />
　するとそれまで黙っていたカサンドラ・ソーンが急に口を開いた。抑揚のない口調で一気に喋りはじめる。<br />
「……私たち四元素の魔導師はブラヴァツキ師の命により、四方を囲んでこの森を外界から切り離す。中のものを外に出さない。貴女がたの目的もまったく同じと推測。邪魔し合わないのが相互のメリット。封印力が倍になる。時間が惜しい」<br />
「あなた、そんなにいっぱい喋れる人だったの？」<br />
　エレクトラが軽く驚いて、それから苦笑して巫女たちに向き直った。<br />
「……だそうよ。カケヒキがだいなし。カードがフルオープンだもの」<br />
「……いいわ、それで手を打ちましょう」<br />
「え、協力するの？　こいつらと？」<br />
　小雪が桜子を見上げる。<br />
「協力なんかしない。いい、小雪。私たちは誰にも会わなかった。だから何事もなくこのまま所定の位置まで向かうの。そして私たちはなぜかたまたま気が向いて、別の結界と干渉しない術式に変更する」<br />
「オトナの腹芸だなぁ」<br />
<br />
「では、そのようなことでね。――背中から襲わないで下さいましね」<br />
「こっちのセリフだよ」<br />
　エレクトラが上品な口調で毒のあることを言い、小雪が捨てゼリフで返した。<br />
「あわてて蓋を閉めないこと。閉じこめるべき中身が全部きちんと入ってから」<br />
　カサンドラが意味深な言葉に、桜子はうなずいた。<br />
「万事わきまえています」<br />
<br />
　２人の巫女と２人の魔女は、背中合わせのように別々の方向に去った。<br />
<br />
<br />
　　　　　☆<br />
<br />
<br />
　宇宙の果てから一直線に進んでくる「それ」は、何ひとつ思考していなかった。太陽系に近づくにつれ、「形」は生まれてきていたが、意識といえるものはまだなかった。<br />
「それ」は最短経路をとって地球に迫ってくる。<br />
　あたかも敵を貫こうとする砲弾のよう――しかし人類が使う砲弾などとは比べものにならない速度と精密さなのだ。<br />
<br />
　アンペレス要塞の魔法動力を管理する極星の魔術師たちが、異次元すらも見通す水晶球を用いて、「それ」の動向を観察しつづけていた。<br />
　もはや「それ」は、要塞主砲のスコープさえあれば確認できる距離にまで近づいていた。<br />
　砲手たちは、まっすぐに飛来してくる「それ」を正面から打ち砕くべく、たえまなく照準をさだめていた。彼らと彼女らは、射程に入ったら即座に撃つよう命令を受けていた。<br />
<br />
　スコープを覗いている砲手の目には、「それ」はこう見えていた。<br />
　光を放つ、黒い球体。<br />
　皆既日食の太陽に似て、中心は闇色で、その周辺に輝くオーラが放出されている。<br />
　その輝きは、最初は青白く、拡散した周辺部はうっすらとピンクの気配がある。<br />
　もやめくガス星雲の色に似ていた。<br />
<br />
　じっと見ていると、魂が吸いこまれそうに思えた。<br />
<br />
　天と地が、さかさまになったような錯覚を覚えた。まるで、深い井戸の底を、上体をつっこんで覗きこんでいるようなのだった。<br />
　自分自身が覗きこまれているようだ……。<br />
<br />
　まるで自分自身が天地に細長く引き延ばされて、吸い上げられているように思える。距離感がわからなくなってくる。ひどく遠く感じられるし、ひどく近く肉薄しているように思える。<br />
<br />
　そのとき砲手は我に返った。スコープ越しの視界いっぱいに虚無が迫っていた。自分の目の前に「それ」がいて、今にも飲み込まれようとしている錯覚が襲い、意識がいっぱいになった。<br />
<br />
　　　　　＊<br />
<br />
　東京都下の住宅街。<br />
　藤宮真由美は何かの気配を感じたかのように、振り返って空を見上げた。<br />
<br />
　　　　　＊<br />
<br />
　砲手は恐怖に絶叫しながら、固い引き金を力一杯に引いた。</p>
	      <br />
	          <p class="acenter">　 <img src="https://www.aquarian-age.org/wordpress/wp-content/uploads/world01_name03.jpg" width="474" height="50" alt="東海林光"></p>
	          <p class="acenter"><img src="https://www.aquarian-age.org/wordpress/wp-content/uploads/world01_img03.jpg" alt="東海林光" width="420" height="420" class="img_line" /></p>
	          <p>　電撃を操る超能力者。<br />
　ク・ホリンとの戦闘で負傷し、入院していたところ、極星帝国のアトランティス勢が大規模な日本侵攻作戦を進めていることを知る。ク・ホリンに復讐する機会ではないかと考え、病院から失踪、独自に出撃した。<br />
　彼女に情報を伝えたのは、小石川愛美のつてで知人となった桜崎翔子であるらしい。<br />
<br />
　ちなみにク・ホリンはアンペレス要塞にはいない。獲物を奪われたくないと思ったレイナが留守居を命じたためだ。レイナ・アークトゥルスは東海林光に一敗を喫した過去があり、自分の手で東海林を討ち取りたいと考えている。</p>
            </div>]]></content:encoded>
			<wfw:commentRss>https://www.aquarian-age.org/fragments-world03/feed/</wfw:commentRss>
		<slash:comments>0</slash:comments>
		</item>
		<item>
		<title>アクエリアンエイジ フラグメンツ～約束の世界～ 断片2</title>
		<link>https://www.aquarian-age.org/fragments-world02/</link>
		<comments>https://www.aquarian-age.org/fragments-world02/#comments</comments>
		<pubDate>Tue, 21 Jun 2011 09:00:35 +0000</pubDate>
		<dc:creator>aqweb_admin</dc:creator>
				<category><![CDATA[ストーリー]]></category>
		<category><![CDATA[フラグメンツ]]></category>

		<guid isPermaLink="false">https://www.aquarian-age.org/?p=1101</guid>
		<description><![CDATA[断片2「狙撃準備」 「それ」はすさまじい速度で星の海を馳せてきた。 　目指すは太陽系。 　地球圏。 　それはすぐ近くだ。もう手を伸ばせば届く距離に近づいている。 　地球と火星との間に展開しているイレイザー分艦隊は、「それ」の接近を認めて、精神スキャニングによる交信を要請した。 　だが、「それ」はコンタクトを完全に無視した。 　通りすぎる瞬間、異常な電波で、艦隊の全コンピュータが一時的に制御不能に陥った。 　　　　　☆ 　ブレイブカイザーを海底に葬り去ったアトランティスの浮遊要塞アンペレスは、ついに本土上空にさしかかった。 　眼下にある都市などには、要塞は目もくれていなかった。そんなものに用はないといった風情で、上空を浮遊して進んだ。 　地上には、要塞の大きな影が落ちるのみであった。90式戦車とVTM-C型装甲車による砲撃があったが、蚊に刺されたほどにも感じていなかった。 　要塞が目指した場所は、富士の樹海であった。 　眼下にまるで海のような森林地帯が広がると、浮遊要塞は高度を下げ、地を這うように進んだ。 　影が、濃緑色の森をなめていく。 　要塞が進む先に、鳥がざわめき、飛び立つ。 　最終的に浮遊要塞は、富士山の裾野、山肌にぴったりと寄り沿うような場所まできて、静止した。 「落下予測地点に到着しました、お姉さま」 　カーラがおごそかに報告した。 「よし。要塞主砲を展開せよ。照準、合わせよ」 　要塞の上部、広い平面甲板が、まるでモーゼの伝説のようにまっぷたつに分かれた。 　その断裂の下から、ルーン文字をびっしりと刻み込んだ巨大な砲身が、ゆっくりと持ち上がっていき、やがて天空に向けて立ち上がった。 「詠唱を開始します」 　カーラがそう宣言すると同時に、要塞内の中央動力室に控えていた魔術師たちが活動を始める。要塞中枢部に据え付けられた、人の背丈の二倍ほどもある真紅の大真珠から魔力が汲み上げられ、要塞砲へと誘導されていく。 　砲身に刻まれたルーンが、根本からゆっくりと青白く輝きはじめる。複雑、かつ大量に刻み込まれた魔法文字。これに魔力を通してゆくことが「呪文詠唱」なのだ。 「速度からいって、機会は一度。よく狙え。決して外すな」 　レイナ・アークトゥルスが念を押した。 　そのとき。 　グレネード弾の着弾とおぼしき爆発音が要塞下部にとどろく。 　続いて森の中から鬨の声がひびきわたった。 　要塞内にいる防御指揮官が、声だけでレイナに報告してきた。 「樹海内より獣人の軍勢が出現、殺到してきます。すでに一部は侵入を許しました」 「対応して。剣闘士戦隊を出撃させていいわ」レジーナが命令を出した。「竜兵も飛ばして。いい？　５分で蹴散らしなさい」 　要塞下部のハッチが開き、ギリシャ風の円楯と幅広の長剣で武装した剣闘士たちの軍団が吐き出され、かぎ爪を持った獣人の集団と刃をまじえはじめた。続いて数匹の竜が、翼をはためかせて飛び立ち、上空で旋回したのち、急降下して獲物をくわえこみにかかる。 「道理のわからぬ蛮族どもめ」 　レイナがかすかにいらだちを見せる。 　突然、手榴弾とおぼしきものが、下から投げ込まれて、甲板上で立て続けに爆発した。魔法の楯で武装した近衛魔剣士たちに、被害はない。が、激しい熱と音でかすかな混乱をきたす。そして濃い煙で、視界は閉ざされる。 　その一瞬をついて、かぎ爪つきのロープが三条、投射され、甲板上の飾り物にひっかかる。それを伝って何者かが躍り出てくる気配。 　爆煙の中で、武器がぶつかりあう戦闘音。 　やがて、風にながれて煙が晴れた。 　そこには、血だまりに倒れ伏した十数名の魔剣士と、その中に悠然として立つ、たった三名の獣人の女がいた。 「何者か」 　レイナが問うた。 　中央にいる、破れたショートジーンズの女が告げた。 「飯塚秋緒――この地のを預かるもの」 　その左にいた迷彩服の獣人が擲弾筒を放り捨てながら言った。 「その盟友、マヤ・波照間」 　右の獣人が爪についた血をなめた。 「私、真央・バースト」 「噂に聞く人狼の女王とやらか。何用か」 　レイナが重ねて問うた。 「縄張り荒らしには痛い目を見てもらうのが私たちのならわしなんでね。あんたたちが泣きわめき血を流して敗走する未来をプレゼントしに来た」 　人狼の女王、飯塚秋緒が答えた。 「汝らに用はない」レイナ・アークトゥルスは言い捨てた。「おとなしくねぐらに帰れば、命までは取らぬ慈悲をたれてやろう」 「私たちがねぐらに帰るのは」 [...]]]></description>
			<content:encoded><![CDATA[<div class="boxtext">
              <h3 class="chapter">断片2「狙撃準備」</h3>
              <p>「それ」はすさまじい速度で星の海を馳せてきた。<br />
　目指すは太陽系。<br />
　地球圏。<br />
　それはすぐ近くだ。もう手を伸ばせば届く距離に近づいている。<br />
<br />
　地球と火星との間に展開しているイレイザー分艦隊は、「それ」の接近を認めて、精神スキャニングによる交信を要請した。<br />
<br />
　だが、「それ」はコンタクトを完全に無視した。<br />
<br />
　通りすぎる瞬間、異常な電波で、艦隊の全コンピュータが一時的に制御不能に陥った。<br />
<br />
<br />
　　　　　☆<br />
<br />
<br />
　ブレイブカイザーを海底に葬り去ったアトランティスの浮遊要塞アンペレスは、ついに本土上空にさしかかった。<br />
　眼下にある都市などには、要塞は目もくれていなかった。そんなものに用はないといった風情で、上空を浮遊して進んだ。<br />
　地上には、要塞の大きな影が落ちるのみであった。90式戦車とVTM-C型装甲車による砲撃があったが、蚊に刺されたほどにも感じていなかった。<br />
<br />
　要塞が目指した場所は、富士の樹海であった。<br />
　眼下にまるで海のような森林地帯が広がると、浮遊要塞は高度を下げ、地を這うように進んだ。<br />
　影が、濃緑色の森をなめていく。<br />
　要塞が進む先に、鳥がざわめき、飛び立つ。<br />
<br />
　最終的に浮遊要塞は、富士山の裾野、山肌にぴったりと寄り沿うような場所まできて、静止した。<br />
<br />
「落下予測地点に到着しました、お姉さま」<br />
　カーラがおごそかに報告した。<br />
「よし。要塞主砲を展開せよ。照準、合わせよ」<br />
<br />
　要塞の上部、広い平面甲板が、まるでモーゼの伝説のようにまっぷたつに分かれた。<br />
　その断裂の下から、ルーン文字をびっしりと刻み込んだ巨大な砲身が、ゆっくりと持ち上がっていき、やがて天空に向けて立ち上がった。<br />
<br />
「詠唱を開始します」<br />
　カーラがそう宣言すると同時に、要塞内の中央動力室に控えていた魔術師たちが活動を始める。要塞中枢部に据え付けられた、人の背丈の二倍ほどもある真紅の大真珠から魔力が汲み上げられ、要塞砲へと誘導されていく。<br />
　砲身に刻まれたルーンが、根本からゆっくりと青白く輝きはじめる。複雑、かつ大量に刻み込まれた魔法文字。これに魔力を通してゆくことが「呪文詠唱」なのだ。<br />
<br />
「速度からいって、機会は一度。よく狙え。決して外すな」<br />
　レイナ・アークトゥルスが念を押した。<br />
<br />
　そのとき。<br />
　グレネード弾の着弾とおぼしき爆発音が要塞下部にとどろく。<br />
　続いて森の中から鬨の声がひびきわたった。<br />
<br />
　要塞内にいる防御指揮官が、声だけでレイナに報告してきた。<br />
「樹海内より獣人の軍勢が出現、殺到してきます。すでに一部は侵入を許しました」<br />
「対応して。剣闘士戦隊を出撃させていいわ」レジーナが命令を出した。「竜兵も飛ばして。いい？　５分で蹴散らしなさい」<br />
　要塞下部のハッチが開き、ギリシャ風の円楯と幅広の長剣で武装した剣闘士たちの軍団が吐き出され、かぎ爪を持った獣人の集団と刃をまじえはじめた。続いて数匹の竜が、翼をはためかせて飛び立ち、上空で旋回したのち、急降下して獲物をくわえこみにかかる。<br />
「道理のわからぬ蛮族どもめ」<br />
　レイナがかすかにいらだちを見せる。<br />
<br />
　突然、手榴弾とおぼしきものが、下から投げ込まれて、甲板上で立て続けに爆発した。魔法の楯で武装した近衛魔剣士たちに、被害はない。が、激しい熱と音でかすかな混乱をきたす。そして濃い煙で、視界は閉ざされる。<br />
<br />
　その一瞬をついて、かぎ爪つきのロープが三条、投射され、甲板上の飾り物にひっかかる。それを伝って何者かが躍り出てくる気配。<br />
<br />
　爆煙の中で、武器がぶつかりあう戦闘音。<br />
<br />
　やがて、風にながれて煙が晴れた。<br />
<br />
　そこには、血だまりに倒れ伏した十数名の魔剣士と、その中に悠然として立つ、たった三名の獣人の女がいた。<br />
<br />
「何者か」<br />
　レイナが問うた。<br />
<br />
　中央にいる、破れたショートジーンズの女が告げた。<br />
<br />
「飯塚秋緒――この地のを預かるもの」<br />
<br />
　その左にいた迷彩服の獣人が擲弾筒を放り捨てながら言った。<br />
「その盟友、マヤ・波照間」<br />
　右の獣人が爪についた血をなめた。<br />
「私、真央・バースト」<br />
<br />
「噂に聞く人狼の女王とやらか。何用か」<br />
　レイナが重ねて問うた。<br />
<br />
「縄張り荒らしには痛い目を見てもらうのが私たちのならわしなんでね。あんたたちが泣きわめき血を流して敗走する未来をプレゼントしに来た」<br />
　人狼の女王、飯塚秋緒が答えた。<br />
<br />
「汝らに用はない」レイナ・アークトゥルスは言い捨てた。「おとなしくねぐらに帰れば、命までは取らぬ慈悲をたれてやろう」<br />
「私たちがねぐらに帰るのは」<br />
　飯塚秋緒はぞっとするような笑みを浮かべた。<br />
「おまえたちが血と肉をむきだしにして恐怖に震え、命乞いをしたときだよ」<br />
<br />
「やんぬるかな、蛮にして愚」<br />
　レイナ・アークトゥルスは気圧されるでもなく、うるさげにマントを払い、腰の剣を抜いた。<br />
「汝らの首を飾り、その血で気勢を上げるとしよう」<br />
<br />
　カーラ・アステリオンとレジーナ・アルキオーネも同様にマントをひるがえし、抜刀して進み出る。<br />
「者ども、下がるのよ！　おまえたちの敵う相手ではない！」<br />
　カーラが叫び、近衛の魔剣士たちが左右に割れて、王と二将軍に道をあける。<br />
<br />
「あんたたちの肉、柔らかそう」<br />
　真央・バーストが幼い顔でにこにこしながら、マヤ・波照間とともに左右に分かれ、手招きをして極星の二将軍をひきつける。<br />
<br />
　飯塚秋緒の五本爪が、剣と同じくらいの長さに伸びた。それが合図だった。<br />
<br />
　レイナ・アークトゥルスの魔剣と飯塚秋緒の爪が、レジーナの愛刀と真央・バーストのかぎ爪が、カーラ・アステリオンの剣とマヤ・波照間のコンバットナイフが、同時に激しく激突した。<br />
<br />
<br />
　　　　　☆<br />
<br />
<br />
　時間を少しさかのぼる。<br />
<br />
「……と、このように、夏王朝に仕込んだ私の間者が申しております。イレイザーに援軍が送られ、それを迎撃すべく、レイナ・アークトゥルスが大規模な日本侵攻作戦を計画していると」<br />
<br />
　畳敷きの日本間に、正座した厳島美晴と、同じく正座の軍師・聞仲が、相対していた。<br />
<br />
「極星とイレイザーが互いに噛みあうのは、結構なこと」<br />
　厳島美晴の声は、涼やかだ。<br />
「そう思いません？　聞大師」<br />
<br />
「思いますが、アークトゥルスの軍勢を、国土に引き入れることになりますね」<br />
「そうですね」<br />
「どちらかが勝ったあと、そのまま国内で暴れられては困りますね」<br />
「もちろん」<br />
「極星とイレイザーの戦闘それ自体が、コントロール不能なほど激化するのも、うまくない」<br />
「ええ」<br />
<br />
　聞仲はほほえんだ。<br />
<br />
「どうやら、美晴さまにおかれては、腹案がおありのご様子」<br />
「暴れて困る猛獣は、檻に閉じ込めるにかぎる。――この考えはあなたの軍略にも沿うでしょう？　聞大師」<br />
「正しい発想です」<br />
「四聖獣の巫女を派遣します。富士一帯を結界で封じ込めます」<br />
「封じ込めて、その後、何とされます？」<br />
「鬼神を勧請し、中にいるものをまとめてなぎ払いましょう。各地の寺社にその準備をさせています」<br />
「戦闘ユニットを派遣しないのですか？」<br />
「あそこは獣たちの領地。彼らが勝手に暴れるでしょう。私たちは戦力温存の一手でよいと思います」<br />
<br />
<br />
　軍師・聞仲は退出した。<br />
<br />
「正直、それだけでは甘いと思うが……外様の私にはこれ以上は僭越か」<br />
　聞仲はひとりごちた。<br />
<br />
「かん・ぽん・ちー。まったくもってさようで」<br />
<br />
　庭の植木の陰から、つくりもののウサギの耳がゆれて、そんな声がした。<br />
<br />
「何用かな？」<br />
　聞仲は立ち止まり、桜崎翔子に言った。<br />
「あちき、あっちこっちの大物にコネ持ってるでござぴょん」<br />
「ござぴょん？」<br />
「白いビリビリな人と、赤い二刀流巫女と、どっちにします？」<br />
<br />
<br />
　　　　　☆<br />
<br />
<br />
（天雲も……い行きはばかり……）<br />
　巫女装束の美女が、薄暗く湿った富士の樹海を、悠々と進んでいた。<br />
<br />
（飛ぶ鳥も……飛びも上らず……）<br />
　胴には胸当て。腕には手甲。戦足袋を履いて、じめついた土をふみわけていく。<br />
<br />
（燃ゆる火を……雪もち消ち、降る雪を……火もち消ちつつ……）<br />
　心地よさげに、古い長歌を口ずさんでいる。<br />
<br />
　彼女の手には、二ふりの剣がある。<br />
　いずれも、鞘はなく、抜き身のまま持っている。ひとつは、６方向に枝分かれした、七枝刀。もうひとつは飾り房のついた、古代風のまっすぐな剣。<br />
　そのふたつを、肩に置いたり、ぶらぶらと揺らしたりしながら、優雅に歩いていた。<br />
<br />
　進んでいたけもの道が、別のけもの道と合流する場所に来た。<br />
　口をつぐみ、立ち止まった。<br />
<br />
　機械同士をこすりあわせるような、甲高い回転系のエンジン音が聞こえてきたからだ。<br />
<br />
　彼女はねじくれた木の陰に、そっと身を隠した。エンジン音が近づいてくる。<br />
　近づいてくる。<br />
　そして間合いに来たと思った瞬間、<br />
<br />
　飛びだして直刃の剣を振り下ろした！<br />
<br />
　巫女も驚いたし、相手も驚いた。<br />
<br />
　必殺の斬撃は、あやしげな杖でまっこうから受け止められたのだ。<br />
　杖の持ち主は、黒光りする大型のバイクにまたがった女だった。長い髪が身体にからみついている。その身体はほとんど半裸といってもいいような妖艶な衣装につつまれている。<br />
<br />
　半裸の女は後輪を横滑りさせてバイクを止めながら、かざした杖からガンテの魔弾を撃ちだした！<br />
　巫女装束の胸の中央を撃ち抜くと思われた魔弾は七枝刀の腹によって受けとめられた。刃が振動し、ガラスのような音を立てる。剣を持った腕に激しい衝撃が伝わる。<br />
<br />
「おまえの顔を知っている」バイクの女が言った。「弓削遙だな？　こんなところで何をしている」<br />
「おまえの顔も有名だ」二刀流の巫女、弓削遙が言った。「黒魔女ステラ・ブラヴァツキ。こんなところに何をしにきた？」<br />
<br />
「東洋魔術の流儀なら、遠巻きから魔神でも召喚するのがいつものやり方ではないのか？」<br />
　ステラ・ブラヴァツキが問うた。<br />
「それはこっちのセリフだよ。いつもの儀式魔術じゃないのか？　おまえのような大物の魔女が、単騎で突入するとは意外な話だ」<br />
　弓削遙が問い返した。<br />
<br />
　しばらく互いに沈黙した。<br />
　バイクのアイドリング音だけが森の中に響いている。<br />
<br />
「自分の目で見たい。これから何が起こるのかを。自分の目で見なければ気が済まない」ステラ・ブラヴァツキは言った。「さしずめおまえも、そんなところだろう、巫女将軍」<br />
「そんなところだ」と弓削遙。「ここで雌雄を決しても良いが」<br />
「確かに、ここで勝敗を決するのも良い」<br />
「決するか」<br />
「そうしても良い」<br />
<br />
　にらみ合う時間が流れた。<br />
<br />
　やがて、どちらからともなく、二人の剣と杖が、ゆっくりと下げられた。<br />
<br />
「互いの目が、満足してから、それからでも遅くはない」と弓削遙は言った。<br />
「同意しよう」<br />
<br />
　ステラ・ブラヴァツキはうなずいた。そして後輪をパワースライドさせ、一気にバイクを加速させて走り去った。<br />
<br />
「……馬くらい用意しても良かったな」<br />
<br />
　弓削遥はひとりごちたあと、二振りの剣をたばねてかつぎ、戦足袋をふみしめてその後を追い始めた。</p>
	      <br />
	          <p class="acenter">　 <img src="https://www.aquarian-age.org/wordpress/wp-content/uploads/world01_name02.jpg" width="474" height="50" alt="飯塚秋緒"></p>
	          <p class="acenter"><img src="https://www.aquarian-age.org/wordpress/wp-content/uploads/world01_img02.jpg" alt="飯塚秋緒" width="420" height="420" class="img_line" /></p>
	          <p>　富士樹海一帯に生息する人獣、人怪、化身たちの統率者。人狼の女王。<br />
<br />
　境界を侵してテリトリーに入ってくる者は排除する、という、シンプルな行動式に基づいて活動している。</p>
            </div>]]></content:encoded>
			<wfw:commentRss>https://www.aquarian-age.org/fragments-world02/feed/</wfw:commentRss>
		<slash:comments>0</slash:comments>
		</item>
		<item>
		<title>アクエリアンエイジ フラグメンツ～約束の世界～ 断片1</title>
		<link>https://www.aquarian-age.org/fragments-world01/</link>
		<comments>https://www.aquarian-age.org/fragments-world01/#comments</comments>
		<pubDate>Tue, 07 Jun 2011 09:00:00 +0000</pubDate>
		<dc:creator>aqweb_admin</dc:creator>
				<category><![CDATA[ストーリー]]></category>
		<category><![CDATA[フラグメンツ]]></category>

		<guid isPermaLink="false">https://www.aquarian-age.org/?p=1097</guid>
		<description><![CDATA[断片1「女王の親征」 　はるか遠い深宇宙で、「それ」は生じた。 　生まれた瞬間、それは光のかたまりのような姿だったが、すぐにそうではなくなった。なぜなら、光よりもずっと早い速度で、虚無の宇宙を移動しはじめたからだ。 　質量のあるような、ないような、不確かな存在である「それ」は、ある方向へ向けて、さまざまな天体が生み出す重力場や空間のゆがみなどはまったく無視して、ただまっすぐに宇宙を進んでゆく。 　目的地は、銀河の辺境。 　太陽系と呼ばれる星系である。 　　　　　☆ 　南米。永世中立国コスタリカ。 　首都サン・ホセからバスで５時間。パルマノルテの街はずれのコテージで、フリーランスの魔女２人――スイレン・オクリーヴとィリールァが、共同生活をしていた。 　パルマノルテは高級観光地コルコバードへの中継地点なので、異邦人がいても、さほど目を引かない。WIZ-DOMやイレイザーの目を逃れて潜伏生活をするには、まずまず好都合の場所である。 　スイレンはキッチンでランチのトルティーヤを作り、ィリールァは窓際で人なつこいハミングバードを餌付けしながら本を読んでいた。 　そんな２人の頭の中に、突如として声が響きわたり、２人は同時に凍りついた。 《久しぶりだね、君たち、元気だったかな？》 　スイレンは戦慄とともにつぶやいた。 「サン・ジェルマン……さま」 《おや、以前のように“大師さま”とは呼んでひれ伏してはくれないのかい？　寂しいな。ィリールァ、私の教えた竜語はまだちゃんと覚えているかな？》 　ィリールァは答えた。 「おかげさまをもちまして。閣下、いずこに？　私どもに今さら何の御用向きを？　こちらの世界へのご帰還は当分先とお見受けしましたが」 《うん、そうなんだ。まだ帰れないし、当分別次元にいるつもりだ。君たちが心配になったのでね。少し親心を発揮してみようと思ったのだ》 「心配？」 《君たち、今、どこにいるのだね？》 　スイレンとィリールァは黙って顔を見合わせた。ィリールァがうなずき、スイレンがあいまいに答えた。 「南米でございます。先達」 《そうか。それはいい場所だ。好ましい。よいかね我が娘たちよ。当分のあいだ、そこにいたまえ。しばらくそこを動くのじゃないよ》 　ィリールァが問う。 「なぜです？　いつまでです？」 《じきにわかるよ。とにかく、日本の裏側にいるにこしたことはないのだ。塩津清良にも伝えてやりたまえ》 　スイレンが言った。「塩津清良は音信不通でございます」 《そうか、残念だ》 　意識に強制的に接続されていたサン・ジェルマンの気配が、その言葉を最後に、消滅した。 「何が起こるというのかしら」ィリールァがつぶやいた。 「わからない。ただ日本で何かが起こるらしい。地球の裏側にいたほうが良いと思う規模のものが」 　スイレン・オクリーヴはテーブルの上のノートＰＣを開き、 「ともかく、急いで伊勢あかりさまに警告を」 「いいの？」 「サン・ジェルマンさまは、私がそうすることを織り込み済みのはず……」 　　　　　☆ 　壁一面がクリスタルガラスでできた、光にみちたムー王国の王宮のサロン。 　やわらかなソファーに身体をうずめたラユュー・アルビレオは、肘掛けに上体をあずけて、くつろいでいた。 「で？　めずらしくあなたが気に入ったという、その人物に、私はいつ会えるの？」 　そばに控えていたロュス・アルタイルは答えた。 「そうせかすな。死んだ諸葛孔明の再召喚は、レムリアの死霊術師たちに頼んで進めさせているよ」 「そんなに時間がかかるものだったかな？」 「……白状すれば、すでに５回試して、５回失敗してる」 「おかしいね、ロュス。一度は召喚に成功しているわけでしょう。なら、道筋はできているわけで、再召喚はたやすいはず」 「そうなんだ」 「なぜ？」 「ひとつの可能性としては、孔明の霊を別の何者かが召喚し、現世にすでに存在している場合。これはいくら霊界に呼びかけても留守だからつながらない」 「そんな可能性ってあるかな？」 「ないとはいえんよ。どっかの野良マインドブレイカーに捕まっている場合、連絡もしてこないだろうね」 「ふぅん、つまらないね」 「あるいは別の可能性として」 「なに？」 「孔明自身が、自分の意志で召喚に応じていない場合」 「現世に甦りたくないということ？」 [...]]]></description>
			<content:encoded><![CDATA[<div class="boxtext">
              <h3 class="chapter">断片1「女王の親征」</h3>
              <p>　はるか遠い深宇宙で、「それ」は生じた。<br />
<br />
　生まれた瞬間、それは光のかたまりのような姿だったが、すぐにそうではなくなった。なぜなら、光よりもずっと早い速度で、虚無の宇宙を移動しはじめたからだ。<br />
<br />
　質量のあるような、ないような、不確かな存在である「それ」は、ある方向へ向けて、さまざまな天体が生み出す重力場や空間のゆがみなどはまったく無視して、ただまっすぐに宇宙を進んでゆく。<br />
<br />
　目的地は、銀河の辺境。<br />
　太陽系と呼ばれる星系である。<br />
<br />
<br />
　　　　　☆<br />
<br />
<br />
　南米。永世中立国コスタリカ。<br />
<br />
　首都サン・ホセからバスで５時間。パルマノルテの街はずれのコテージで、フリーランスの魔女２人――スイレン・オクリーヴとィリールァが、共同生活をしていた。<br />
<br />
　パルマノルテは高級観光地コルコバードへの中継地点なので、異邦人がいても、さほど目を引かない。WIZ-DOMやイレイザーの目を逃れて潜伏生活をするには、まずまず好都合の場所である。<br />
　スイレンはキッチンでランチのトルティーヤを作り、ィリールァは窓際で人なつこいハミングバードを餌付けしながら本を読んでいた。<br />
<br />
　そんな２人の頭の中に、突如として声が響きわたり、２人は同時に凍りついた。<br />
<br />
《久しぶりだね、君たち、元気だったかな？》<br />
<br />
　スイレンは戦慄とともにつぶやいた。<br />
<br />
「サン・ジェルマン……さま」<br />
<br />
《おや、以前のように“大師さま”とは呼んでひれ伏してはくれないのかい？　寂しいな。ィリールァ、私の教えた竜語はまだちゃんと覚えているかな？》<br />
　ィリールァは答えた。<br />
「おかげさまをもちまして。閣下、いずこに？　私どもに今さら何の御用向きを？　こちらの世界へのご帰還は当分先とお見受けしましたが」<br />
《うん、そうなんだ。まだ帰れないし、当分別次元にいるつもりだ。君たちが心配になったのでね。少し親心を発揮してみようと思ったのだ》<br />
「心配？」<br />
《君たち、今、どこにいるのだね？》<br />
<br />
　スイレンとィリールァは黙って顔を見合わせた。ィリールァがうなずき、スイレンがあいまいに答えた。<br />
<br />
「南米でございます。先達」<br />
《そうか。それはいい場所だ。好ましい。よいかね我が娘たちよ。当分のあいだ、そこにいたまえ。しばらくそこを動くのじゃないよ》<br />
　ィリールァが問う。<br />
「なぜです？　いつまでです？」<br />
《じきにわかるよ。とにかく、日本の裏側にいるにこしたことはないのだ。塩津清良にも伝えてやりたまえ》<br />
　スイレンが言った。「塩津清良は音信不通でございます」<br />
《そうか、残念だ》<br />
<br />
　意識に強制的に接続されていたサン・ジェルマンの気配が、その言葉を最後に、消滅した。<br />
<br />
「何が起こるというのかしら」ィリールァがつぶやいた。<br />
「わからない。ただ日本で何かが起こるらしい。地球の裏側にいたほうが良いと思う規模のものが」<br />
　スイレン・オクリーヴはテーブルの上のノートＰＣを開き、<br />
「ともかく、急いで伊勢あかりさまに警告を」<br />
「いいの？」<br />
「サン・ジェルマンさまは、私がそうすることを織り込み済みのはず……」<br />
<br />
<br />
　　　　　☆<br />
<br />
<br />
　壁一面がクリスタルガラスでできた、光にみちたムー王国の王宮のサロン。<br />
<br />
　やわらかなソファーに身体をうずめたラユュー・アルビレオは、肘掛けに上体をあずけて、くつろいでいた。<br />
<br />
「で？　めずらしくあなたが気に入ったという、その人物に、私はいつ会えるの？」<br />
<br />
　そばに控えていたロュス・アルタイルは答えた。<br />
<br />
「そうせかすな。死んだ諸葛孔明の再召喚は、レムリアの死霊術師たちに頼んで進めさせているよ」<br />
「そんなに時間がかかるものだったかな？」<br />
「……白状すれば、すでに５回試して、５回失敗してる」<br />
「おかしいね、ロュス。一度は召喚に成功しているわけでしょう。なら、道筋はできているわけで、再召喚はたやすいはず」<br />
「そうなんだ」<br />
「なぜ？」<br />
「ひとつの可能性としては、孔明の霊を別の何者かが召喚し、現世にすでに存在している場合。これはいくら霊界に呼びかけても留守だからつながらない」<br />
「そんな可能性ってあるかな？」<br />
「ないとはいえんよ。どっかの野良マインドブレイカーに捕まっている場合、連絡もしてこないだろうね」<br />
「ふぅん、つまらないね」<br />
「あるいは別の可能性として」<br />
「なに？」<br />
「孔明自身が、自分の意志で召喚に応じていない場合」<br />
「現世に甦りたくないということ？」<br />
「そう」<br />
「そんなことってある？」<br />
<br />
　ロュス・アルタイルは皮肉っぽく笑った。そして言った。<br />
<br />
「よほどの不都合が、現世にあるのかもね」<br />
「だとしたら、それは、今回のアトランティスのお祭り騒ぎと関係があると思う？」ラユュー・アルビレオは訊ねた。<br />
　ロュスはしばらく沈黙して、答えた。<br />
「あるいはね」<br />
<br />
<br />
　　　　　☆<br />
<br />
<br />
「浮遊要塞、北東方向に向けて依然進攻中！　警告に対する回答なし！　自衛隊機が攻撃を開始しました！」<br />
　オペレーターがふり返りながら叫んだ。茨城県つくば市某所地下にあるE.G.O.の防衛作戦本部第３指揮所である。<br />
「自衛隊統合幕僚監部より出撃要請がきています！」<br />
「よし、航空部隊を上げなさい。即時攻撃を許可。推定上陸地点は？」<br />
「中部地方東部です」<br />
「ＶＴＭ戦闘車を配置し、迎撃準備。陸自と連携を取るように」<br />
　指揮をとっているのはイツキインダストリーCEOの斎木麗名だ。<br />
「――まるで怪獣映画ね」<br />
　斎木麗名は足を組んで座り、モニターに映ったものを見た。<br />
<br />
　ピラミッド。<br />
　というより、ジッグラトと呼ぶほうがふさわしいのだろうか。<br />
　石造りの建築が映っている。階段が刻まれた四角錐の巨大な構造物だ。<br />
<br />
　それが、上下逆さになっている。<br />
　そして、空に浮かんで、ゆっくりと海上を移動している。<br />
<br />
　しばし一同は、画面に映し出された、空飛ぶ石造りの城に見入っていた。<br />
<br />
「どこの勢力でしょうか」と副官が問う。<br />
「あんなものを持っているのは極星帝国くらいでしょうよ。――遊名は何と言ってる？」<br />
「総帥閣下のご指示では、上陸を阻止せよ、と」<br />
「でしょうね。海賊を追いはらうために、山賊を村に引き入れる馬鹿はいない」<br />
「総帥本部では、本日中にレベルＣクラスの覚醒能力者を500名招集するそうです。明日までにもう500名」<br />
「直接送りこむ気かしら？」<br />
「飛行能力を持ったエージェント若干名を派遣し、大規模シンクロで遠隔バックアップするプランとのことです」<br />
「また決死隊作戦か……」<br />
　斎木麗名は首の後ろを椅子のヘッドレストに預けた。「いいかげん、その方法に頼るのはやめたいものだ」<br />
「しかし、有効な手段です」副官は言った。<br />
「だれが派遣されるのか、聞いている？　東海林姉弟？」<br />
「東海林翼はロシアに派遣中です。東海林光は病院から脱走し、現在行方不明です」<br />
「では、またあの子が？」<br />
「さようです」<br />
<br />
　斎木麗名の表情は暗くなる。<br />
<br />
「彼女はもう限界にきている。……遊名は自分の娘を何だと思っているのかな？」<br />
「その彼女ですが、招集に応じていません。万城目が迎えに行っています。総帥本部より、時間を稼いでほしいとの要請がきています」<br />
「わかった。熊谷の準備はどうなっている？　例の人形を出撃させなさい」<br />
<br />
<br />
　　　　　☆<br />
<br />
<br />
　ピラミッドを上下反転させたような浮遊要塞――。<br />
　極星帝国、アトランティス王国が誇る移動城のひとつ「アンペレス要塞」の広大な上部甲板には、神殿のような石の柱が立ち並び、その中央には玉座がしつらえられている。<br />
<br />
　アトランティスの女君主、レイナ・アークトゥルスは、いくさ鎧に身をつつみ、肩鎧の下から戦場用の厚い白マントを着こみ、悠然と玉座に座って、吹きつける海風を楽しんでいた。<br />
　玉座の一段下の左右には、同様のマントをなびかせた魔戦将軍カーラ・アステリオン、同じく魔戦将軍レジーナ・アルキオーネが控え、不敵な笑みを浮かべている。<br />
<br />
　そして広い甲板では、無数のアトランティスの魔剣士たちが、まるでスポーツでも楽しむかのように、魔法の剣を振るっていた。<br />
<br />
　上空から、E.G.O.航空戦隊のSF-01アルバトロスが急降下してきて、対地ミサイルを投下して離脱していく。<br />
<br />
　名もない魔剣士がひとり、まるでテニスプレイヤーのように着弾地点にまで馳せて、あやしい色に光る魔法の剣を縦横無尽にひらめかせる。<br />
　するとミサイルは布のように引き裂かれ、もちろん爆発することもなく、まるで内側から解体したかのようにばらばらの部品になって甲板上に散らばるのだ。<br />
<br />
　そんなことは、鍛え抜かれた魔法戦士たちにはごくたやすいことであった。彼らはまるで球技のようにそれを行なった。<br />
　甲板上の魔剣士の誰かが、空に向かって、手のひらから光の筋をはなった。<br />
　それは反転する戦闘機の中央をまっすぐにつらぬき、一瞬の間をおいて、それは爆発した。<br />
<br />
　浮遊要塞下部の銃眼から、鈍い振動音とともに光の弾がばらまかれる。<br />
　光の弾は空中でカーブを描いて戦闘機に無数の穴をうがち、また一機が落ちた。<br />
<br />
「くだらぬ抵抗などせぬがよいのだ」<br />
　そんな様子を、レイナ・アークトゥルスは満足げに見ていた。<br />
「道をあけて進ませるが良い。ふたつの地球の命運がかかっておるのだぞ」<br />
「でもその道理は、彼らには通じないでしょうね、お姉さま」<br />
　カーラ・アステリオンが言った。<br />
　レイナはアトランティス王国の王であり、カーラやレジーナは王国軍の将軍である。だがそれ以前に、レイナはアトランティス剣士の頂点に立つソードマスターだ。彼女たち女剣士は、剣の道の大先達として、レイナを「姉」と呼ぶならわしである。<br />
「さもあろうな。愚かさとはそういうことだ。……あれの観測結果を報告せよ」<br />
「前回計測時の2.5倍です。地球衝突まであと３時間ほど」<br />
「射程までは？」<br />
「あと２時間半ほどですわ」<br />
「カトンボどもが邪魔をせねば、間に合うかな」<br />
「お姉さま！」<br />
<br />
　魔法の望遠鏡を手にしたレジーナがそのとき言った。<br />
<br />
「でっかいのが来ます。進行方向から。あれは――飛行する人型機械！」<br />
「E.G.O.どもの巨大ゴーレムかと」カーラが述べる。「融合型です。レムリア軍との戦闘事例があります」<br />
「ああ、あれか……」<br />
<br />
　レイナ・アークトゥルスは玉座から立ち上がった。<br />
<br />
　剣の柄に左手を置き、甲板のへさきまで悠然と歩いていった。<br />
<br />
　高速で迫り来る巨大人型機械は肉眼で把握できる距離になり、みるみる大きくなり、原色で塗り分けられたボディを露わにした。<br />
　極星帝国に空飛ぶ要塞があるのなら、これはさしずめ、人型の要塞と呼ぶのが相応しい。<br />
　もはや建築物と呼ぶべきレベルの、手足を備えた機動兵器。<br />
　巨大な質量。<br />
“ブレイブカイザー”と呼ばれているそれが、一直線に迫ってくるのを、レイナ・アークトゥルスは見た。<br />
　太く長いマニピュレーターが、白光りする塔じみた巨大な必殺剣を振り上げ、浮遊城に突入してくるのを彼女は見た。<br />
<br />
「面白い」<br />
<br />
　レイナ・アークトゥルスはゆっくりと、腰の魔剣を引き抜いた。いつも腰に帯びている愛用の大剣ではなかった。<br />
　半透明の刃が青白く輝いている。<br />
　帝国最強の魔剣“ポラリス”である。それこそは、極星帝国皇帝より軍事の全権を委任されている証であった。<br />
　鞘から引き抜いた瞬間、刀身が震え、高周波とともに二度三度、白い輝きを放つ。<br />
<br />
　レイナ・アークトゥルスは甲板の先端でただ１人、敵の人型要塞にあいまみえる。<br />
<br />
　そして地面を切裂くように剣先をすべらせ、一気に振り上げた！<br />
<br />
　彼女の魔力が、魔剣ポラリスを中心に爆発した。<br />
<br />
　アトランティスの剣士たちは見た。<br />
　剣から放たれた白い魔力の奔流が、巨大なブレイブカイザーの必殺剣を受け止めるさまを。<br />
　振り下ろされる巨大兵器の巨大剣と、それに比べたら爪楊枝ていどにしか見えない人間の剣が、まっこうからぶつかりあい、力が拮抗し、せめぎあうそのさまを。<br />
　そして、やがて――<br />
　レイナ・アークトゥルスと魔剣の力が、鋼鉄の巨大兵を、下から押し返しはじめる。<br />
　魔力は剣を中心として、内側から絶え間なく弾けつづけ、その衝撃波に耐えきれずについにブレイブカイザーは後方に吹き飛ぶ。マニピュレーターの関節がありえない方向に曲がる。ブレイブカイザー・ブレードは中央からヒビを生じ、轟音とともにまっぷたつに折れて剣先は海に沈んだ。<br />
<br />
「王の道をさえぎる者に死を。――道をあけよ！」<br />
<br />
<br />
　　　　　☆<br />
<br />
<br />
　映画館から出てきて、カフェに向かおうとしていた小石川愛美と藤宮真由美を遮るように、大型のＢＭＷが止まった。<br />
　後部座席のドアが開き、出てきたのは万城目千里だった。<br />
<br />
「真由美、あなたの力が必要よ。――来て」<br />
<br />
　真由美が小さく後ずさり、かすかに愛美の背後に隠れたいような気配を見せて、そっぽを向いた。<br />
　愛美は視界の端で、彼女のそれだけの様子を把握した。<br />
<br />
「どうしたの、真由美」<br />
　万城目千里がきいた。<br />
<br />
「千里さん、ごめんなさい」<br />
　真由美は息のまじった小さな声で、答えた。<br />
「……もう疲れました」<br />
<br />
　それだけ言うと真由美は。愛美の肩に軽く手を触れた。そしてそれ以上何も言わず、後ろをむいて駈け去っていった。<br />
<br />
　小石川愛美は真由美を目で追わなかった。<br />
　彼女は万城目千里から目を離さなかった。<br />
<br />
　真由美を追おうとする万城目を、愛美は手で遮った。<br />
<br />
「どきなさい」<br />
　万城目が鋭く言った。<br />
「私をパスして、彼女を追えると思いますか」<br />
　愛美が言った。<br />
<br />
「危機が迫っている。真由美の力が必要なのよ」<br />
「それがどうかしましたか」<br />
「――」<br />
「何の危機だろうと、彼女に関係が？」<br />
<br />
　かなり長い時間、万城目千里と小石川愛美が、路上でにらみあっていた。<br />
<br />
　やがて万城目千里がため息をつき、目を伏せた。<br />
「……問題は、おそらく君の言うことのほうが正しいということだ、小石川愛美」</p>
	      <br />
	          <p class="acenter">　 <img src="https://www.aquarian-age.org/wordpress/wp-content/uploads/world01_name01.jpg" width="474" height="50" alt="ブレイブカイザー"></p>
	          <p class="acenter"><img src="https://www.aquarian-age.org/wordpress/wp-content/uploads/world01_img01.jpg" alt="ブレイブカイザー" width="420" height="420" class="img_line" /></p>
	          <p>　天才工学博士・熊谷眞実が開発した、巨大な人型攻撃機。かつて数度にわたって、イレイザー、極星帝国の侵攻を阻止した、日本列島防衛の要。<br />
<br />
　レイナ・アークトゥルスとその配下たちによる集中魔法攻撃によって機能停止に陥り、海中に没した。しかし、戦闘能力は大きくは失われていない。<br />
<br />
　この事件の直後、イレイザーのブラック・ブレイブカイザーによる地球降下作戦が観測される。これを迎撃するため、ブレイブカイザーは熊谷によってサルベージされ、応急処置を施され、大気圏外に派遣されて死闘を演じることになる。
                </p>
            </div>]]></content:encoded>
			<wfw:commentRss>https://www.aquarian-age.org/fragments-world01/feed/</wfw:commentRss>
		<slash:comments>0</slash:comments>
		</item>
		<item>
		<title>アクエリアンエイジ フラグメンツ～女帝の聖楔～ 断片6</title>
		<link>https://www.aquarian-age.org/fragments-wedge06/</link>
		<comments>https://www.aquarian-age.org/fragments-wedge06/#comments</comments>
		<pubDate>Tue, 26 Apr 2011 09:00:42 +0000</pubDate>
		<dc:creator>aqweb_admin</dc:creator>
				<category><![CDATA[ストーリー]]></category>
		<category><![CDATA[フラグメンツ]]></category>

		<guid isPermaLink="false">https://www.aquarian-age.org/?p=1093</guid>
		<description><![CDATA[断片6「彗星」 「みなさん、こんばんは。“今宵あなたのハートをゲット”でおなじみ、怪盗シャ・ノアールです」 　ずりずりずり。 　と音を立てて移動しながら、怪盗シャ・ノアールは、ひそひそ声でひとりごとを言った。 「私は今、たいへんなことになっております」 　ずりずりずり。 　ひとりごとである。 「えー、私ですね、なんとただいま、イレイザーの巡洋艦クラウディアの中で、孤立しております。ここは宇宙です。日本にいる万城目千里さーん。聞こえますかー。返事してくださーい」 　返事はない。 　どうしてこうなったのかといえば、以下のようなことである。 　ある日、万城目千里は、「イレイザーの司令官ラユューが秘密裏に地球に上陸する」という未来のビジョンを見た。 　ようは予知夢のようなものである。万城目千里の超感覚は、超能力者集団E.G.O.の中でも随一といわれている。 「そこに行って、ラユューが何をするのか見てきてほしい。できたら揚陸艦に潜入して、データを吸い出してきてほしい」 　シャ・ノアールに依頼されたのは、そんなことだった。 「ようするに情報を盗んできてほしいってことね。そんなことなら、おまかせ」 　鼻歌まじりに出かけていった。それがいけなかった。 　楽勝でラユューの揚陸艦に忍びこみ、メインシステムに侵入して、専用のＰＣでデータを吸い出し始めた、そこまではよかったのだが、なぜかラユューは重傷を負ってかつぎこまれてきて、艦は彼女を乗せたまま、ふわりと地球を離れた。 　そうして揚陸艦は巡洋艦クラウディアに吸い込まれ……シャ・ノアールは今、たったひとりでここにいるわけである。 「シャ・ノアール？　生きてる？　聞こえる？」 「あ、ボス!?　っていうか万城目さん！」 　万城目千里からのテレパシーが、シャ・ノアールの意識に接続した。万城目くらいの送受信能力がないと、この距離の通信はとても不可能だ。つまり、万城目からシャ・ノアールに電話をかけることはできるが、逆は不可能なのである。 「状況はだいたい把握している。今、あなたについて上層部と相談してきた」 「救出部隊はいつくるんですか？」 「上の人は、生死は問わないから、最大限の情報を送信しつづけろっていってるわ」 「生死？　生死は問わないって、どういうことですか？」 「あなたの生死はどうでもいいっていう意味だと思うけれど」 「冗談じゃないです！　わたしは水島上等兵じゃないんですよ！　帰りたいです！　何とか迎えに来てくださいよ！」 　ずりずりずり。 「仕事はスリルがあるほどいいって、あなたいつも豪語してたじゃない」 「限度がありますよ！　だってシャッター開けるとときどき空気ないんですよ！」 　ずりずりずりずりずり。 「さっきからズルズル音がしてるの、何？」 「段ボールを着ています」 「は？」 　シャ・ノアールは、今、こういう状態である。 　おしりと背中を、段ボール箱の内側にかぽっとはめこんでいる。 　手の先と、足の先と、頭だけを外に出して、うつぶせになっている。 　その状態で、正体不明の合金でできた、いかにもＳＦチックなグレーの連絡通路を、ずるずるずると這っているのである。 　だいたい、段ボール箱の甲羅を背負ったカメ、というのを想像すると、間違いがない。 「へぇ、イレイザーも段ボール使ってるんだ。それって意外に有益な情報かもね。報告しておくわ。その調子でいろいろ情報集めて……」 「あっ、誰か来ました！」 　シャ・ノアールは頭と手足をひっこめて、通路の壁にぴったりくっついた。 　トカゲの頭とシッポのついた戦闘員が２人、威圧的な軍靴の足音をさせて背後からやって来て、段ボールの脇をそのまま通り過ぎ、自動ドアの向こうに消えていった。シャ・ノアールが入った段ボールのことは、単なる荷物の置き忘れくらいに思ったらしかった。 「ふぅ……助かりました。さっきからずっとこの調子で」 「どうなってるの、イレイザーの人たちの認識力は」 　万城目千里が全力で不審のニュアンスをただよわせた。 「ま、いいけど。１時間おきにこちらから連絡するから、そのつど情報をまとめてテレパスで送信して。疲れたから今回の通信は終了する。以上」 「あっ、ちょっと待っ……」 　切れた。 　はぁ。 　シャ・ノアールは、背中に段ボールを背負ったまま、壁にもたれて、足を投げ出してへたりこんだ。 　これだもんなぁ……。 　と、そのときけたたましい警報音がひびきわたった。シャ・ノアールは自分が見つかったかと思ってあたふたしたあげく、段ボールの甲羅の中に自分をぴったりとしまってうずくまった。 　放送が響いた。 “告げる。私は当艦。クラウディアシステムの仮想人格。今から定例の体内フルチェックを行なう。電磁センサー。熱レーザー、中性子シャワーの網羅的使用を行なう。乗組員は２分以内に所定の位置で待機して。じゃないと死んでも知らない” [...]]]></description>
			<content:encoded><![CDATA[<div class="boxtext">
              <h3 class="chapter">断片6「彗星」</h3>
              <p>「みなさん、こんばんは。“今宵あなたのハートをゲット”でおなじみ、怪盗シャ・ノアールです」<br />
　ずりずりずり。<br />
　と音を立てて移動しながら、怪盗シャ・ノアールは、ひそひそ声でひとりごとを言った。<br />
<br />
「私は今、たいへんなことになっております」<br />
　ずりずりずり。<br />
　ひとりごとである。<br />
<br />
「えー、私ですね、なんとただいま、イレイザーの巡洋艦クラウディアの中で、孤立しております。ここは宇宙です。日本にいる万城目千里さーん。聞こえますかー。返事してくださーい」<br />
<br />
　返事はない。<br />
<br />
　どうしてこうなったのかといえば、以下のようなことである。<br />
　ある日、万城目千里は、「イレイザーの司令官ラユューが秘密裏に地球に上陸する」という未来のビジョンを見た。<br />
　ようは予知夢のようなものである。万城目千里の超感覚は、超能力者集団E.G.O.の中でも随一といわれている。<br />
「そこに行って、ラユューが何をするのか見てきてほしい。できたら揚陸艦に潜入して、データを吸い出してきてほしい」<br />
　シャ・ノアールに依頼されたのは、そんなことだった。<br />
「ようするに情報を盗んできてほしいってことね。そんなことなら、おまかせ」<br />
　鼻歌まじりに出かけていった。それがいけなかった。<br />
　楽勝でラユューの揚陸艦に忍びこみ、メインシステムに侵入して、専用のＰＣでデータを吸い出し始めた、そこまではよかったのだが、なぜかラユューは重傷を負ってかつぎこまれてきて、艦は彼女を乗せたまま、ふわりと地球を離れた。<br />
<br />
　そうして揚陸艦は巡洋艦クラウディアに吸い込まれ……シャ・ノアールは今、たったひとりでここにいるわけである。<br />
<br />
「シャ・ノアール？　生きてる？　聞こえる？」<br />
「あ、ボス!?　っていうか万城目さん！」<br />
　万城目千里からのテレパシーが、シャ・ノアールの意識に接続した。万城目くらいの送受信能力がないと、この距離の通信はとても不可能だ。つまり、万城目からシャ・ノアールに電話をかけることはできるが、逆は不可能なのである。<br />
<br />
「状況はだいたい把握している。今、あなたについて上層部と相談してきた」<br />
「救出部隊はいつくるんですか？」<br />
「上の人は、生死は問わないから、最大限の情報を送信しつづけろっていってるわ」<br />
「生死？　生死は問わないって、どういうことですか？」<br />
「あなたの生死はどうでもいいっていう意味だと思うけれど」<br />
「冗談じゃないです！　わたしは水島上等兵じゃないんですよ！　帰りたいです！　何とか迎えに来てくださいよ！」<br />
　ずりずりずり。<br />
「仕事はスリルがあるほどいいって、あなたいつも豪語してたじゃない」<br />
「限度がありますよ！　だってシャッター開けるとときどき空気ないんですよ！」<br />
　ずりずりずりずりずり。<br />
「さっきからズルズル音がしてるの、何？」<br />
「段ボールを着ています」<br />
「は？」<br />
<br />
　シャ・ノアールは、今、こういう状態である。<br />
　おしりと背中を、段ボール箱の内側にかぽっとはめこんでいる。<br />
　手の先と、足の先と、頭だけを外に出して、うつぶせになっている。<br />
　その状態で、正体不明の合金でできた、いかにもＳＦチックなグレーの連絡通路を、ずるずるずると這っているのである。<br />
　だいたい、段ボール箱の甲羅を背負ったカメ、というのを想像すると、間違いがない。<br />
<br />
「へぇ、イレイザーも段ボール使ってるんだ。それって意外に有益な情報かもね。報告しておくわ。その調子でいろいろ情報集めて……」<br />
「あっ、誰か来ました！」<br />
<br />
　シャ・ノアールは頭と手足をひっこめて、通路の壁にぴったりくっついた。<br />
　トカゲの頭とシッポのついた戦闘員が２人、威圧的な軍靴の足音をさせて背後からやって来て、段ボールの脇をそのまま通り過ぎ、自動ドアの向こうに消えていった。シャ・ノアールが入った段ボールのことは、単なる荷物の置き忘れくらいに思ったらしかった。<br />
<br />
「ふぅ……助かりました。さっきからずっとこの調子で」<br />
「どうなってるの、イレイザーの人たちの認識力は」<br />
　万城目千里が全力で不審のニュアンスをただよわせた。<br />
「ま、いいけど。１時間おきにこちらから連絡するから、そのつど情報をまとめてテレパスで送信して。疲れたから今回の通信は終了する。以上」<br />
「あっ、ちょっと待っ……」<br />
　切れた。<br />
<br />
　はぁ。<br />
　シャ・ノアールは、背中に段ボールを背負ったまま、壁にもたれて、足を投げ出してへたりこんだ。<br />
　これだもんなぁ……。<br />
<br />
　と、そのときけたたましい警報音がひびきわたった。シャ・ノアールは自分が見つかったかと思ってあたふたしたあげく、段ボールの甲羅の中に自分をぴったりとしまってうずくまった。<br />
<br />
　放送が響いた。<br />
<br />
“告げる。私は当艦。クラウディアシステムの仮想人格。今から定例の体内フルチェックを行なう。電磁センサー。熱レーザー、中性子シャワーの網羅的使用を行なう。乗組員は２分以内に所定の位置で待機して。じゃないと死んでも知らない”<br />
<br />
「ええーっ!?」<br />
<br />
　シャ・ノアールがいる通路の、行く手と背後の両方で、分厚いシャッターが閉まった。通路だった場所は、細長い四角い部屋のようになってしまった。<br />
　彼女は密室になった通路をあっちからこっちへ段ボールを背負ったままカサコソを動き回り壁にぶつかったりしてみたが、もちろん何ともならない。<br />
<br />
　透明な、赤い光の壁が、ブゥンという鈍い音を立てて、通路の一方の端にあらわれた。<br />
　赤い光は、通路のあっちからこっちへと、空間全体を撫でるようにこっちに進んでくる。<br />
<br />
　これ、ひょっとして、触ったらヤバイ感じのものじゃ……。<br />
<br />
　そう思うが何ともならない。シャ・ノアールは小さい悲鳴を上げて反射的に段ボールの中に縮こまった。<br />
　シャ・ノアールは段ボールの上から赤い光をまともに浴びた！<br />
<br />
　が、特に何ともなかった。<br />
　光はそのまま通路全体を撫でて、シャッターの向こうに通り過ぎて行った。<br />
<br />
　シャ・ノアールは、箱の下の縁から、そっと頭を出そうとして、ぱっと再びカメになった。何かの気配を感じたからだ。<br />
　小さなスキマから、外の様子を覗いてみる。<br />
<br />
　シャ・ノアールは、立体投影の人物が、そこにフッと現われるところを見た。<br />
　それは髪の長い、白い服を着た、耳の尖った女の子のホログラフだった。瞳と髪が、うすい緑色に発光している。シャ・ノアールは、何となく、これがさっきの艦内放送の主ではないかという気がした。<br />
<br />
　クラウディアの仮想人格（推定）は、体重の感じられないうっすらとした姿でそこに立って、あたりを見回し、何かシャクゼンとしない、という風情で首をかしげた。<br />
　次の瞬間、濃い緑色のレーザーが、通路全体に、まさしくクモの巣みたいな密度で充満した。レーザーはもちろん段ボールにもふりそそいだが、内側にまでは入ってこなかった。<br />
<br />
　緑の探査レーザーは消え、クラウディアもふっと姿を消した。<br />
“艦内サーチ終了。全員、通常任務に戻ればいい”<br />
　そんな艦内放送がひびいた。<br />
<br />
「ふわーっ、あっぶね、あっぶね！」<br />
　緊張をほどいたとたん、どっと汗が出てきた。<br />
「すごいな、段ボール。見直したよ。段ボール」<br />
<br />
<br />
　シャ・ノアールはそれから、ともかくにも艦内構造を調べられる場所を探しまわることにした。<br />
　情報を集めるというより、自分がなんとか脱出する方法を探すためだ。<br />
<br />
　段ボールのかくれみのに隠れて、いくつかの部屋を出たり入ったりした。<br />
<br />
　そうしているうちに、やけに内装が豪華な部屋に行き当たった。<br />
<br />
　こそこそと入り込んで、コンソールをいじっていたが、やがて誰かが入ってくる気配がしたので、あわてて段ボールに身体を押し込んで部屋の隅にうずくまった。<br />
<br />
　真っ赤に燃えるようなオーラを身にまとった、まともに目を向けつづけていたら脳みそが焼けそうな、おそろしい長い髪の美女が入ってきて、王様が座るようなひとり用のソファーに身体を落ち着けた。<br />
<br />
　つづいて、それよりはいくぶん地味な、理知的そうな女性が入ってきて、立ったままひかえた。両方とも、背中に翼が生えていて、イレイザーの天使族だということはすぐにわかった。<br />
<br />
　あれは、映像で見せられたことがあるような。ひょっとして大天使ミカエルと、参謀長メタトロンじゃなかったかな……。<br />
<br />
　２人の天使は、話し始めた。<br />
<br />
（そう……）<br />
<br />
　シャ・ノアールは、それを、聞いてしまった。<br />
<br />
（そして、わたしは、大変なことを……）<br />
<br />
（とんでもないことが、起こりつつあることを……）<br />
（知ってしまったのです……）<br />
<br />
<br />
　　　　　☆<br />
<br />
<br />
　鍛冶師月山は、レライエから受け取った仙果をうれしそうになでまわすと、戸棚の中にしまいこんだ。<br />
　そして半月ほどかかって、あやしく黒光りする、錬鉄のみごとな大剣を鍛え上げたのだった。<br />
「素晴らしい……」<br />
　レライエは、抜き身の剣を握ってみて、そのできばえに感嘆した。<br />
「でも気をつけなよ」<br />
　月山はにこにこ笑っていた。<br />
「私の作った剣は、持ち主の血を吸うのが好きだからねぇ」<br />
「そのくらいの方が、この悪魔レライエにはふさわしい」<br />
　レライエは黒い刀身に自分の顔を映しながら言った。彼女は何もわかっていなかったのだ。<br />
<br />
<br />
　ティアマトの洞窟を再び訪れたレライエは、アシュタルテーの繭の前に立った。<br />
「出来るの、本当に」ティアマトは今日も眠そうだった。<br />
「むろんだ」<br />
<br />
　レライエは、黒い剣を腰から引き抜くと、目の前の巨大な繭を、アシュタルテーごと何のためらいもなく串刺しにした！<br />
<br />
　その瞬間、最初から繭に刺さっていた古い刀身が砕け飛び、黒曜石のかけらとなって散らばった。<br />
　続いて、二度、三度と、繭を中心に激しい衝撃波が生じた。レライエは思わず剣を手放して後ずさりした。<br />
<br />
　白い繭にふいに火がつき、瞬時に全体が燃え上がって、繭は消失した。<br />
　うすい胸に黒い剣が突き立ったアシュタルテーが、目をつぶったまま宙に浮いている。　先ほど散った黒曜石のつぶが、まるで太陽をめぐる惑星のように、輪を描いて彼女の周囲をめぐっていた。<br />
<br />
　黒光りする剣が、アシュタルテーから毒を吸い出すかのように、先端から順に、その黒さを増していく。<br />
　そして刀身全体が漆黒にそまったとき。アシュタルテーの右手が動いて、剣の柄をぐっと握りしめて、おのれの身体からぬるりと剣を引き抜き、<br />
<br />
　大きな目を、かっと見開いた。<br />
<br />
　黒い大剣をかつぐようにして、ふわりと地面に降り立ったアシュタルテーは、<br />
「おなかすいた……」<br />
　と小さくつぶやいた。<br />
<br />
「久しいな、アシュタルテーよ」<br />
　レライエは顔をゆがめて笑った。<br />
「おまえが盗み出して壊してしまった地獄の剣モーンブレイドが、今まさに復活したのだ。さあ、それは私のものだ」<br />
<br />
「おなかすいた」<br />
<br />
　アシュタルテーはレライエを一瞥すらせず、むぞうさに手を動かして、黒い剣でレライエの胸をつらぬき通した。<br />
<br />
「ば、ア……吸わ……れる……」<br />
<br />
　剣はレライエの血をどくどくと飲み干し、レライエの魔力はアシュタルテーに流れこんでゆく。<br />
　アシュタルテーは満足のため息をついて剣を引き抜いた。<br />
<br />
　レライエはその場にくずおれた。<br />
<br />
<br />
　　　　　☆<br />
<br />
<br />
「わが永き、WIZ-DOMの歴史において初めて。すべての大なるアルカナの席が埋まろうとしている」<br />
<br />
　底冷えする空間に、無数のロウソクの、光と熱。<br />
　黒いビロードの幕で壁いちめんを覆った、薄暗い謁見室。<br />
<br />
　その玉座に、ひとりの女がいる。<br />
<br />
「ゼロより生じて20に至る空虚」<br />
<br />
　赤みがかった金の髪。<br />
　力にみちた紫の瞳。<br />
<br />
「このわれは、そのすべてに贄をみたした」<br />
<br />
　WIZ-DOMの女帝、ジャンヌ＝ヨハネスは、無人の空間に向けて、おのれの声を響かせる。<br />
<br />
「予言はこれを“世界（ワールド）の相”と呼ぶ。“世界”は今こそ成った」<br />
<br />
「さあ……世界よ」<br />
<br />
　女帝は、息をもらして、笑った。<br />
<br />
「このわれに、どんな顔を見せる？」<br />
<br />
<br />
　　　　　☆<br />
<br />
<br />
　彼女の体格には大きすぎる抜き身の黒い剣を、ずるずるとひきずって、アシュタルテーは洞窟の外に出た。<br />
<br />
　夜明け前の空は、地平線のまわりから、紫色にかわりはじめている。<br />
<br />
　アシュタルテーは、何かを感じ取ろうとするようにじっとしていたが、ふいに、まだ星の残る頭上の黒い空を、勢いよく見上げて睨みつけた。<br />
<br />
「……何か来る！」</p>
	      <br />
	          <p class="acenter">　 <img src="https://www.aquarian-age.org/wordpress/wp-content/uploads/wedge01_name06.jpg" width="474" height="50" alt="シャ・ノアール"></p>
	          <p class="acenter"><img src="https://www.aquarian-age.org/wordpress/wp-content/uploads/wedge01_img0601.jpg" alt="シャ・ノアール" width="420" height="420" class="img_line" /></p>
	          <p class="acenter"><img src="https://www.aquarian-age.org/wordpress/wp-content/uploads/wedge01_img0602.jpg" alt="シャ・ノアール" width="420" height="420" class="img_line" /></p>
	          <p>　世界中をまたにかけ、美しいものばかりを盗み出す怪盗。<br />
　その実体はE.G.O.の超能力者。<br />
<br />
　もう少しで尻尾をつかまれそうになるが、ぎりぎりですり抜け、なんとか脱出する……というパターンを、盗みのたびに繰り返している。<br />
　そのため、「今度こそ捕まってしまうのではないか」「次はどうやって逃げるのか」と、常に世間をハラハラさせており、そのせいでかえって人気が高い。わざとそうしているのか、天然なのかはさだかでない。<br />
<br />
　その能力を買われて、E.G.O.上層部から、たびたび諜報活動を依頼される。本人は「そういうスパイ大作戦みたいなのは、いまいちロマンチックじゃない」と公言しているが、それでも人の良さから引き受けてしまうことが多いようだ。<br />
<br />
「奴は大変なものを盗んでいきましたあなたの心です」的なことを、一度でいいから言われてみたいと思っているが、残念ながらそういうしゃれた評判は立ったためしがない。<br />
<br />
<br />
　ちなみに、本編中で彼女がかぶった段ボール箱は、イレイザーの試作型隠密作戦用装備「エスケープルーム」。<br />
　イレイザーは地球のメディア情報を研究して、そこから新たな装備品開発の着想を得ることがある。科学技術班は複数のエンターテインメント作品から、「箱に入ることで、敵の視線から逃れうる」という類型を抽出し、それを実験的に再現した。<br />
　技術的には、段ボール箱でなければならない理由は皆無だが、科学者たちは、「段ボールでなければならないという、地球側の“文化”があるのだろう」と間違った理解をしており、完璧主義ゆえに、その“文化”ごとコピーしてしまった。
              </p>
            </div>]]></content:encoded>
			<wfw:commentRss>https://www.aquarian-age.org/fragments-wedge06/feed/</wfw:commentRss>
		<slash:comments>0</slash:comments>
		</item>
		<item>
		<title>アクエリアンエイジ フラグメンツ～女帝の聖楔～ 断片5</title>
		<link>https://www.aquarian-age.org/fragments-wedge05/</link>
		<comments>https://www.aquarian-age.org/fragments-wedge05/#comments</comments>
		<pubDate>Tue, 12 Apr 2011 09:00:18 +0000</pubDate>
		<dc:creator>aqweb_admin</dc:creator>
				<category><![CDATA[ストーリー]]></category>
		<category><![CDATA[フラグメンツ]]></category>

		<guid isPermaLink="false">https://www.aquarian-age.org/?p=1089</guid>
		<description><![CDATA[断片5「聖児消失」 　極星帝国、アトランティス王国。その宮城。 　アークトゥルス王の城の円形ホールは、アトランティス国民の自慢の種だ。 　中央にはクリスタルの噴水。周辺には季節ごとの花園。天井は高いドーム状で、そのドームはステンドグラスでできている。 　床は白大理石で、ドームを通した色とりどりの日光が、クリスタルの噴水に散らされて、純白の床を染める。計算されつくしたその光景には、どんなに審美眼に劣る者でも、ため息をつかずにはいられない。 　別次元の地球の７分の１を占める大王国の中枢部。その玄関口である。 　せわしなく人が行き来している。まるで大都市の中央公園といった広さがある。 　この日は宮城の貴賓の間にて、帝国十将軍会議が行なわれている。ふだんの人出に加えて、各王国の大将軍たちが連れてきたおつきの者、警護の者たちが増えている。 　十将軍は、いまはひとつ空席があって、９名しかいないが、それでも９人の大将軍がそれなりの格式を伴って来訪するのだから、大変な騒ぎだ。 　各国のさまざまな民族衣装、風変わりなよろいかぶとなどがそこここに見え、宮城は活気にあふれていた。 　ふいに、女官の悲鳴が響き渡った。 　ざわめきが上がり、ばらばらに動いていた人の足が、物見高く、ある方向に集まりだす。 　人だかりの中央に、騎士が２人いた。 　２人とも、女騎士である。 　双方とも、抜刀していた。 　決着はほとんどつきかけていた。 　ラスタバン竜騎兵の鎧をまとった女騎士が息を荒くして片膝をついていた。左手に剣を持ち、右手の槍を相手に向けてかざしているのだが、その槍は半ばで折れて、すでに下半分しかなかった。 　キャメロット王国の紋章をつけた女騎士が、子供のようなにやけた顔で、それを見下ろしていた。抜いた剣を、あざわらうようにプラプラ揺らしている。彼女の髪からは、猫科の動物特有の三角形の耳がつきでていた。 　彼女の近くには金色のライオンが寄り添っていて、決闘相手の折れた槍の上半分をくわえこんでいた。 　キャメロットの獣人の騎士は、円卓の騎士に名を連ねる獅子将軍ユーウェイン。 　ラスタバンの竜騎士はサイサ・シュトルフェだ。 　決闘のきっかけは他愛もないものだ。 　通り道に、互いに鉢合わせてしまい、 「そちらがどけ」 「おまえがどけ」 　の応酬になってしまった、そのあげくのことである。 　これを馬鹿馬鹿しいというのは簡単だが、本人たちにしてみれば、背負っているものにかけて、そうはいかないのだ。 　極星七王国。帝国十将軍。これらは常に、水面下で勢力争いを繰り広げている。 　いわば、サイサはアトランティス王国と竜騎士団を。ユーウェインはキャメロットの円卓騎士団を。それぞれ背後に背負っているのだ。 　くだらぬことでも、簡単にゆずれば、それは相手の下風に立ったことになる。 　そこはあえてでもつっばらねばならないのが騎士というものであった。 「ええい――」 　サイサ・シュトルフェは左手の剣で、下方から捨て身で突きかかった。 「ふん、つまらん」 　騎士ユーウェインが子供のような声でそう言って、だるそうにその突きをはじき返した。 「弱いよ、ラスタバンの竜騎士。ちっともわくわくしないね」 「……っ」 　ユーウェインは剣のひらで自分の肩をぽんぽん叩いた。 「さてと。戦利品に片手くらいもらっとこうかなあ。王もそのくらいはおとがめになるまいよ」 　ユーウェインはむぞうさにサイサに近づいてゆき、剣を振り上げたが―― 「やかましいね。十将軍会議の真下で雑音をがなりたてるのは誰だ」 　声が響き渡った。 　つかつかと―― 　遠くからホールに入ってくる三眼の女の威圧感に、人の波が割れた。 「ロュス・アルタイルか……」 　ユーウェインはいったん剣をおろし、ロュスを一瞥して、 「騒ぎは終わったよ、いまからこいつを……」 「そんなこた聞いちゃいないんだよ」 　ロュス・アルタイルの額の目が強烈に光った。 「う、ぐ……」 「う……っ」 　見えない“手”が、ユーウェインとサイサ・シュトルフェの顎を万力のようにつかみ、上に持ち上げた。 　２人の身体が上方に引きのばされ、かかとが浮き……つま先立ちになり……。 　喉を締め上げられているので、「やめろ」という、声も出せない。 　２人とも、自分の喉をはさみこんでいる「何か」を外そうとして、首をかきむしるのだが、それは実体ではないので、何の影響も及ぼすことができない。 [...]]]></description>
			<content:encoded><![CDATA[<div class="boxtext">
              <h3 class="chapter">断片5「聖児消失」</h3>
              <p>　極星帝国、アトランティス王国。その宮城。<br />
<br />
　アークトゥルス王の城の円形ホールは、アトランティス国民の自慢の種だ。<br />
　中央にはクリスタルの噴水。周辺には季節ごとの花園。天井は高いドーム状で、そのドームはステンドグラスでできている。<br />
　床は白大理石で、ドームを通した色とりどりの日光が、クリスタルの噴水に散らされて、純白の床を染める。計算されつくしたその光景には、どんなに審美眼に劣る者でも、ため息をつかずにはいられない。<br />
<br />
　別次元の地球の７分の１を占める大王国の中枢部。その玄関口である。<br />
　せわしなく人が行き来している。まるで大都市の中央公園といった広さがある。<br />
　この日は宮城の貴賓の間にて、帝国十将軍会議が行なわれている。ふだんの人出に加えて、各王国の大将軍たちが連れてきたおつきの者、警護の者たちが増えている。<br />
　十将軍は、いまはひとつ空席があって、９名しかいないが、それでも９人の大将軍がそれなりの格式を伴って来訪するのだから、大変な騒ぎだ。<br />
　各国のさまざまな民族衣装、風変わりなよろいかぶとなどがそこここに見え、宮城は活気にあふれていた。<br />
<br />
　ふいに、女官の悲鳴が響き渡った。<br />
<br />
　ざわめきが上がり、ばらばらに動いていた人の足が、物見高く、ある方向に集まりだす。<br />
　人だかりの中央に、騎士が２人いた。<br />
　２人とも、女騎士である。<br />
<br />
　双方とも、抜刀していた。<br />
<br />
　決着はほとんどつきかけていた。<br />
　ラスタバン竜騎兵の鎧をまとった女騎士が息を荒くして片膝をついていた。左手に剣を持ち、右手の槍を相手に向けてかざしているのだが、その槍は半ばで折れて、すでに下半分しかなかった。<br />
<br />
　キャメロット王国の紋章をつけた女騎士が、子供のようなにやけた顔で、それを見下ろしていた。抜いた剣を、あざわらうようにプラプラ揺らしている。彼女の髪からは、猫科の動物特有の三角形の耳がつきでていた。<br />
<br />
　彼女の近くには金色のライオンが寄り添っていて、決闘相手の折れた槍の上半分をくわえこんでいた。<br />
<br />
　キャメロットの獣人の騎士は、円卓の騎士に名を連ねる獅子将軍ユーウェイン。<br />
　ラスタバンの竜騎士はサイサ・シュトルフェだ。<br />
<br />
　決闘のきっかけは他愛もないものだ。<br />
　通り道に、互いに鉢合わせてしまい、<br />
「そちらがどけ」<br />
「おまえがどけ」<br />
　の応酬になってしまった、そのあげくのことである。<br />
<br />
　これを馬鹿馬鹿しいというのは簡単だが、本人たちにしてみれば、背負っているものにかけて、そうはいかないのだ。<br />
　極星七王国。帝国十将軍。これらは常に、水面下で勢力争いを繰り広げている。<br />
　いわば、サイサはアトランティス王国と竜騎士団を。ユーウェインはキャメロットの円卓騎士団を。それぞれ背後に背負っているのだ。<br />
　くだらぬことでも、簡単にゆずれば、それは相手の下風に立ったことになる。<br />
　そこはあえてでもつっばらねばならないのが騎士というものであった。<br />
<br />
「ええい――」<br />
　サイサ・シュトルフェは左手の剣で、下方から捨て身で突きかかった。<br />
「ふん、つまらん」<br />
　騎士ユーウェインが子供のような声でそう言って、だるそうにその突きをはじき返した。<br />
「弱いよ、ラスタバンの竜騎士。ちっともわくわくしないね」<br />
「……っ」<br />
　ユーウェインは剣のひらで自分の肩をぽんぽん叩いた。<br />
「さてと。戦利品に片手くらいもらっとこうかなあ。王もそのくらいはおとがめになるまいよ」<br />
　ユーウェインはむぞうさにサイサに近づいてゆき、剣を振り上げたが――<br />
<br />
「やかましいね。十将軍会議の真下で雑音をがなりたてるのは誰だ」<br />
<br />
　声が響き渡った。<br />
<br />
　つかつかと――<br />
　遠くからホールに入ってくる三眼の女の威圧感に、人の波が割れた。<br />
<br />
「ロュス・アルタイルか……」<br />
　ユーウェインはいったん剣をおろし、ロュスを一瞥して、<br />
「騒ぎは終わったよ、いまからこいつを……」<br />
「そんなこた聞いちゃいないんだよ」<br />
<br />
　ロュス・アルタイルの額の目が強烈に光った。<br />
<br />
「う、ぐ……」<br />
「う……っ」<br />
　見えない“手”が、ユーウェインとサイサ・シュトルフェの顎を万力のようにつかみ、上に持ち上げた。<br />
　２人の身体が上方に引きのばされ、かかとが浮き……つま先立ちになり……。<br />
　喉を締め上げられているので、「やめろ」という、声も出せない。<br />
　２人とも、自分の喉をはさみこんでいる「何か」を外そうとして、首をかきむしるのだが、それは実体ではないので、何の影響も及ぼすことができない。<br />
　そうして意識が暗くなりはじめたころ……。<br />
<br />
　ロュスは見えない“手”を急にほどいた。<br />
<br />
　持ち上げられていた身体が自由になって、ユーウェインとサイサ・シュトルフェは、同時にドサリと床にくずおれた。激しく咳きこんだ。<br />
<br />
　ロュス・アルタイルはそれを一瞥して、きびすを返して立ち去っていった。<br />
<br />
「バケモノめ。死んで生き返ったら、まるで別人じゃないか」<br />
　ユーウェインはやっと調子を取り戻すと、そんな捨て台詞を残し、ライオンを連れて足早にその場を立ち去った。彼女は床に引き倒されたことを恥じたのだった。<br />
<br />
　野次馬が解散しはじめた。サイサ・シュトルフェは折れた槍を拾って立ち上がった。<br />
　奥歯をかみしめると、ホールの出口に向かって、決然と歩き出す。本来ならソフィー・ラスタバン公女将軍の近衛騎士として、その場で待機していなければならない身だ。<br />
<br />
「ちょっとぉ、サイサ、どこ行く気なの？」<br />
「スリジェどのか」<br />
　蝶の羽根を背中にそなえた手のひらくらいの妖精がひらひらと舞って、歩み続けるサイサの肩に止まった。<br />
「私はラスタバンの紋章をけがし、あまつさえ、公女将軍よりご拝領の竜槍まで失ってしまった。おめおめと麾下には戻れない。私は出奔する」<br />
「しゅっぽん？」<br />
「国を去る。地をさまよう」<br />
「え、出てくってこと？」<br />
「私にはもっと力が必要だわ。戦う力をつける。そして――」<br />
　サイサは血の味のする唾をのみこんだ。<br />
「円卓騎士ユーウェイン。あいつを殺す。それまでは決してソフィー様にお目もじはしないわ」<br />
「やだよ、久しぶりに会ったところなのにー。考え直してよー」<br />
「駄目よ。私は、私自身が許せない」<br />
「だったら……サイサ、どうしてもって言うなら、いいこと教えてあげる。だからすぐに帰って来てよ」<br />
「いいこととは？」<br />
「私ね、シルマリルに聞いたトキあるの。あっちの世界のダークロアには、すごい鍛冶屋さんがまだ生き残ってるんだって。神話の時代のマホーの剣や槍を、今でも作れるんだって」<br />
　サイサは立ち止まった。<br />
「どこにいるの？　その鍛冶師は」<br />
「ニホンの山奥よ」<br />
<br />
<br />
　　　　　☆<br />
<br />
<br />
　そうして……。<br />
　竜騎士サイサ・シュトルフェは鍛冶師月山に会い、大錬金術師クラリス・パラケルススの研究所を単騎で襲うという冒険をなしとげ、WIZ-DOMにあらわれた聖なる赤子――ホーリーチャイルドを手中におさめたのだった。<br />
<br />
　サイサ・シュトルフェは赤ん坊をマントに包んで抱きかかえ、竜に乗って海上を飛び進んでいた。<br />
　前方から受ける強い風が、赤子に当らないように気をつけている。赤ん坊は泣きわめきもしないで、じっとサイサを見詰めていた。<br />
　この子を月山に渡せば、魔法の槍が手に入る。<br />
　それはユーウェインの首を取るための、大きな助けとなるだろう。<br />
<br />
　だが――<br />
<br />
　月山は、気が向けばこの赤ん坊を食う、とか言っていなかっただろうか。<br />
<br />
　この、いたいけな幼子を？<br />
　心優しいサイサ・シュトルフェは逡巡した。<br />
<br />
　何らかの別の方策をとるべきではないのか？　例えば――この赤子を得たことを功績として、母国に帰参するというような。そのようなことは可能だろうか。<br />
<br />
「アー」<br />
　赤ん坊がふいに声を上げた。<br />
　サイサ・シュトルフェはそれで我に返った。<br />
「あれは……」<br />
<br />
　前方に。たくさんの黒い粒のようなものが、小さく見え始めた。<br />
　かなりの速度でこちらに向かって飛んでくる。<br />
　編隊といった、統制の取れた動きではない。てんでばらばらに飛んでくるだけなのだが、ひとつひとつの個体はかなり大きい。<br />
<br />
　サイサは双眼鏡を使って目をこらした。<br />
　そして、戦慄する。<br />
<br />
　30頭を下回ることはないだろう、ライオンの下半身を持つ巨大な鷲たちの群れ。<br />
　その先頭にいるのは、背中に白い鳥の翼を生やし、巨大な蛇を身体に巻きつけた、ゾッとするような青白い全裸の少女。<br />
<br />
「WIZ-DOMのキメラたちだ……」<br />
<br />
　それはキマイラ“ミオ・アルムクヴィスト”が率いる、有翼獅子グリフォンの集団。<br />
　パラケルススが山中で秘密裏に飼い慣らしているキメラたちの軍団だということを、サイサは知らない。<br />
　しかし、自分を追ってきた刺客だということは、誤解しようもなかった。<br />
<br />
　向こうもこっちを、とっくに捕捉しているはずだ。速度を落とす気配はない。<br />
　ということは、問答や交渉をするつもりはないということ。<br />
<br />
　あちらは身軽。<br />
　こちらは人間と鞍を乗せた竜だ。<br />
<br />
「ここまでか……。ソフィー様……」<br />
<br />
　サイサ・シュトルフェは剣を引き抜いた。左手に赤子と手綱。右手に無銘の愛剣。<br />
　うしろを見せて背中に切り傷を受けるなど、竜騎士のふるまいではないのだ。<br />
<br />
　サイサは鋭く叫んだ。<br />
<br />
「行くぞ！　キメラども！　ラスタバンの竜騎士サイサの、最期の斬り込みをその目に焼きつけるがいい！」<br />
　竜が、あるじのときの声に応じて、武者震いに震え、吼える。<br />
<br />
　サイサは絶叫し、たった一騎で怪物の群れの中へと突入していった。<br />
<br />
<br />
　その後、彼女の姿は、公式に確認されてはいない。<br />
　ホーリーチャイルドの行方も、さだかではない。</p>
	      <br />
	          <p class="acenter">　 <img src="https://www.aquarian-age.org/wordpress/wp-content/uploads/wedge01_name05.jpg" width="474" height="50" alt="サイサ・シュトルフェ"></p>
	          <p class="acenter"><img src="https://www.aquarian-age.org/wordpress/wp-content/uploads/wedge01_img05.jpg" alt="サイサ・シュトルフェ" width="420" height="420" class="img_line" /></p>
	          <p>　ラスタバンの竜騎兵を率いる騎士隊長のひとり。<br />
　一本気で、融通がきかないが、そこが愛されているのか、ソフィー・ラスタバンの覚えはめでたい。<br />
　ソフィーの使者として各国に派遣されることが多く、各地に親しい友人がいる。<br />
<br />
　アイシャ・ツバーンとはいとこ同士で、また親友同士の間柄。彼女たちの一族は、特殊な耐性をそなえた竜を育成するすべに長けている。<br />
<br />
　１戦闘でイレイザーの魔竜の首を５つ持ち帰ってきたという伝説的なスコアを持っていることでも知られる。
                </p>
            </div>]]></content:encoded>
			<wfw:commentRss>https://www.aquarian-age.org/fragments-wedge05/feed/</wfw:commentRss>
		<slash:comments>0</slash:comments>
		</item>
		<item>
		<title>アクエリアンエイジ フラグメンツ～女帝の聖楔～ 断片4</title>
		<link>https://www.aquarian-age.org/fragments-wedge04/</link>
		<comments>https://www.aquarian-age.org/fragments-wedge04/#comments</comments>
		<pubDate>Tue, 22 Mar 2011 09:00:19 +0000</pubDate>
		<dc:creator>aqweb_admin</dc:creator>
				<category><![CDATA[ストーリー]]></category>
		<category><![CDATA[フラグメンツ]]></category>

		<guid isPermaLink="false">https://www.aquarian-age.org/?p=1086</guid>
		<description><![CDATA[断片4「人造の聖母」 　大聖堂で、めずらしいことに、ディーナ・ウィザースプーンとクラリス・パラケルススがばったり顔を合わせた。 「あいかわらずの若作りですこと、クラリス。そろそろ威厳を演出したほうがよろしいわ」 「ディーナちゃんはあいかわらずの少女趣味ね。そろそろエステ興味ない？」 　ひとしきり、そんなあてこすりの応酬があった。 　ディーナはレースを編み込んだフードつきの真っ白い法衣姿で、体型が外にはいっさい出ない服装である。一方クラリスはぎりぎりまで丈の短いニットのワンピース姿、肩ストラップもなく、胸の上半分がほとんど外に出ている。指と手首と胸元にたっぷりと宝石を飾っている。 　白魔術の大導師ウィザースプーンと、大錬金術師パラケルスス。 　外見は２人とも20歳前後だが、実際にいくつなのかは、誰も知らない。 「ところで冗談に見せかけた本音はこれくらいにして、ディーナちゃん、内密で意見を聞きたいことがあるんだけど、いい？」 「相談を？　私に？　貴女が？」 　ディーナはあからさまに驚いていた。「それは、貴女、高くつくわよ。もちろん、わかっていらっしゃると思うけれど」 「やぁねぇ、安くしといてよ」 「おかしなワナじゃないのでしょうね？」 「封印しておいた274番が、勝手に目覚めた」 「え？」 　274番とは、ホムンクルス・アゾートシリーズの第274号個体、錬金術師クラリスの戦闘用ホムンクルスだ。優秀な個体で、戦果もはかばかしい。勲章をいくつか持っているはずだ。 　だが、精神が成長しすぎた。あまりにも人間に近くなりすぎた。 　こういう特殊な成長をするホムンクルスはクラリス工房には今までにいなかった（具体的にどんな成長なのかは、ディーナは知らない）。どんなに調べても、別のホムンクルスで現象を再現できなかった。 　そこでクラリスは274番……works274の機能を止め、ベークライトに固定して凍結指定にしたのだ。 　……とディーナは聞いている。 　ようするに２度と作れない奇跡のホムンクルスができてしまったので、スイッチを切って、サンプルとして永久保存することにしたのだ、というのがディーナの理解である。 　そのworks274が自力で再起動した、とクラリスは言うのだ。 「クラリス、貴女の封印が雑だっただけの話ではなくって？」 「馬鹿おっしゃい。私はいつだって完璧よ。だけど、そう、封印を手伝わせた私の弟子がスカだった可能性はもちろんあるわ。それは否定しないし、その可能性はリジェクトできない。けどね……」 「何か？」 「あのね……」 「言う気がないなら失礼するわ」 「274は処女懐胎している」 「――え？」 「訊かれる前に条件を言っておくけど、works274はまる１年凍結状態にあった。それと、彼女に生殖能力は搭載されていない。当然、そういう行為の痕跡もないわ」 「ありえないことが起こった？」 「そう」 　２人の魔女が、しばらく黙りこくった。 「あなたはそれを、何かの重大な予兆だと思うのですね？」 　とディーナが沈黙を破った。 「予兆、そう、何かのきざしだわ……」クラリスが頷く。「何か大変なことが起ころうとしているような気がする。世界の免疫反応を私は見たのかも」 「クラリス、あなたはおそらく初めて正しい判断をしました。私のところにいる星見、占師の全員に動員をかけます。私自身も占いを立てて……」 「ウィザースプーン師、それより、もっと詳しい意見が聞きたいわ。……見に来ない？」 「……まいりましょう」 　何かの罠かもしれない、という可能性を、ディーナはこのとき一蹴した。 　よもや、クラリス・パラケルススが、私のことを敬意をもってウィザースプーンと呼ぶ日が来るとは。 　　　　　☆ 　礼拝堂じみた広さと内装をもつクラリスのアトリエに到着したクラリス・パラケルススとディーナ・ウィザースプーンが、最初に目にしたのは、回転する真っ赤な警告灯で、耳にしたのは警報サイレンだった。つまり、異常事態が発生していた。 「何が起こっているの？」とディーナ。 「フラメルちゃん！ ルミ・フラメル！　改造されたくなかったらどうなってるのか報告なさい！」 　弟子がコンソールに取りつきながら絶叫する。 「先生！　先生！　エヴェストルムジェネレーターが異常停止しました！　再起動できません！　アゾースエネルギーの流出が止められません！」 「何をしたの!?　怒るから正直に白状しなさい！」 「何もしてません！　あいつに全部吸い取られてるんです！　研究所ごと全部！」 　ここが礼拝堂だとしたら、ちょうど祭壇にあたる位置。そこに巨大なガラスケースがある。 　クラリスは急いで目を向けた。 　裸の少女が、自分の腹部を守るように両手をかざして、ガラスケースの中に浮いていた。 　ケースの中は透明な樹脂で満たされ、固定されている。クラリスとディーナは、その少女に膨大なエネルギーが集まっているのを“視る”ことができた。 「つまり、どういうこと？」 [...]]]></description>
			<content:encoded><![CDATA[<div class="boxtext">
              <h3 class="chapter">断片4「人造の聖母」</h3>
              <p>　大聖堂で、めずらしいことに、ディーナ・ウィザースプーンとクラリス・パラケルススがばったり顔を合わせた。<br />
<br />
「あいかわらずの若作りですこと、クラリス。そろそろ威厳を演出したほうがよろしいわ」<br />
「ディーナちゃんはあいかわらずの少女趣味ね。そろそろエステ興味ない？」<br />
<br />
　ひとしきり、そんなあてこすりの応酬があった。<br />
　ディーナはレースを編み込んだフードつきの真っ白い法衣姿で、体型が外にはいっさい出ない服装である。一方クラリスはぎりぎりまで丈の短いニットのワンピース姿、肩ストラップもなく、胸の上半分がほとんど外に出ている。指と手首と胸元にたっぷりと宝石を飾っている。<br />
　白魔術の大導師ウィザースプーンと、大錬金術師パラケルスス。<br />
　外見は２人とも20歳前後だが、実際にいくつなのかは、誰も知らない。<br />
<br />
「ところで冗談に見せかけた本音はこれくらいにして、ディーナちゃん、内密で意見を聞きたいことがあるんだけど、いい？」<br />
「相談を？　私に？　貴女が？」<br />
　ディーナはあからさまに驚いていた。「それは、貴女、高くつくわよ。もちろん、わかっていらっしゃると思うけれど」<br />
「やぁねぇ、安くしといてよ」<br />
「おかしなワナじゃないのでしょうね？」<br />
「封印しておいた274番が、勝手に目覚めた」<br />
「え？」<br />
<br />
　274番とは、ホムンクルス・アゾートシリーズの第274号個体、錬金術師クラリスの戦闘用ホムンクルスだ。優秀な個体で、戦果もはかばかしい。勲章をいくつか持っているはずだ。<br />
　だが、精神が成長しすぎた。あまりにも人間に近くなりすぎた。<br />
　こういう特殊な成長をするホムンクルスはクラリス工房には今までにいなかった（具体的にどんな成長なのかは、ディーナは知らない）。どんなに調べても、別のホムンクルスで現象を再現できなかった。<br />
　そこでクラリスは274番……works274の機能を止め、ベークライトに固定して凍結指定にしたのだ。<br />
　……とディーナは聞いている。<br />
　ようするに２度と作れない奇跡のホムンクルスができてしまったので、スイッチを切って、サンプルとして永久保存することにしたのだ、というのがディーナの理解である。<br />
<br />
　そのworks274が自力で再起動した、とクラリスは言うのだ。<br />
<br />
「クラリス、貴女の封印が雑だっただけの話ではなくって？」<br />
「馬鹿おっしゃい。私はいつだって完璧よ。だけど、そう、封印を手伝わせた私の弟子がスカだった可能性はもちろんあるわ。それは否定しないし、その可能性はリジェクトできない。けどね……」<br />
「何か？」<br />
「あのね……」<br />
「言う気がないなら失礼するわ」<br />
<br />
「274は処女懐胎している」<br />
<br />
「――え？」<br />
「訊かれる前に条件を言っておくけど、works274はまる１年凍結状態にあった。それと、彼女に生殖能力は搭載されていない。当然、そういう行為の痕跡もないわ」<br />
「ありえないことが起こった？」<br />
「そう」<br />
<br />
　２人の魔女が、しばらく黙りこくった。<br />
<br />
「あなたはそれを、何かの重大な予兆だと思うのですね？」<br />
　とディーナが沈黙を破った。<br />
「予兆、そう、何かのきざしだわ……」クラリスが頷く。「何か大変なことが起ころうとしているような気がする。世界の免疫反応を私は見たのかも」<br />
「クラリス、あなたはおそらく初めて正しい判断をしました。私のところにいる星見、占師の全員に動員をかけます。私自身も占いを立てて……」<br />
「ウィザースプーン師、それより、もっと詳しい意見が聞きたいわ。……見に来ない？」<br />
「……まいりましょう」<br />
<br />
　何かの罠かもしれない、という可能性を、ディーナはこのとき一蹴した。<br />
　よもや、クラリス・パラケルススが、私のことを敬意をもってウィザースプーンと呼ぶ日が来るとは。<br />
<br />
<br />
　　　　　☆<br />
<br />
<br />
　礼拝堂じみた広さと内装をもつクラリスのアトリエに到着したクラリス・パラケルススとディーナ・ウィザースプーンが、最初に目にしたのは、回転する真っ赤な警告灯で、耳にしたのは警報サイレンだった。つまり、異常事態が発生していた。<br />
<br />
「何が起こっているの？」とディーナ。<br />
「フラメルちゃん！ ルミ・フラメル！　改造されたくなかったらどうなってるのか報告なさい！」<br />
<br />
　弟子がコンソールに取りつきながら絶叫する。<br />
「先生！　先生！　エヴェストルムジェネレーターが異常停止しました！　再起動できません！　アゾースエネルギーの流出が止められません！」<br />
「何をしたの!?　怒るから正直に白状しなさい！」<br />
「何もしてません！　あいつに全部吸い取られてるんです！　研究所ごと全部！」<br />
<br />
　ここが礼拝堂だとしたら、ちょうど祭壇にあたる位置。そこに巨大なガラスケースがある。<br />
　クラリスは急いで目を向けた。<br />
<br />
　裸の少女が、自分の腹部を守るように両手をかざして、ガラスケースの中に浮いていた。<br />
　ケースの中は透明な樹脂で満たされ、固定されている。クラリスとディーナは、その少女に膨大なエネルギーが集まっているのを“視る”ことができた。<br />
<br />
「つまり、どういうこと？」<br />
「簡単なことよ、ディーナちゃん。この研究所の動力炉がハックされた。魔力が流出してる。そして全部あの子がエネルギーを吸い取ってる。……あれが274番よ。やってくれるわね。今、この研究所は何の力もないただの建物。基本的な防御機能すら消滅している」<br />
「works274……これが……」<br />
<br />
　人造人間たちの聖母マリアか。<br />
<br />
　ディーナは固定されたそのホムンクルスに近づこうとした。<br />
<br />
　そのとき。<br />
　ガラスケースが爆発した。内側から固定樹脂ごと四方にはじけ飛んだ。ディーナは法衣の袖で顔を守る。半ば溶けた樹脂の破片がタイルの床に散らばる。<br />
　<br />
　目を閉じたホムンクルスworks274が、宙に浮いている。<br />
　その腹部に、青白い光が宿った。<br />
　光はビームのように数条にわかれてほとばしり、広いアトリエ内にみちあふれ、居並ぶ魔女たちの目を灼く。<br />
<br />
　274の少女のような身体に後光がさしはじめる。<br />
　腹部の青い光はもはや正視できないほどだ。まるで光のかたまりの上に彼女の上体が乗り、光の下から、彼女の足が生えているかのようだ。<br />
<br />
「産む気なの……274……」<br />
<br />
　クラリスの問いに、眠ったような274は答えない。<br />
<br />
　やがて……<br />
　ひときわ強い光の筋が幾条も踊り狂って周囲を白く灼いた。<br />
　そして……<br />
　青白い光の中に、ちいさな、とてもちいさな。<br />
　真っ白な赤ん坊が――発生したのだった。<br />
<br />
　パラケルススとウィザースプーンは、かざされたworks274の両手の間に、支えもなく浮いている嬰児を、言葉もなく見つめている……。<br />
<br />
<br />
　その沈黙を。<br />
　獣の咆吼がやぶった！<br />
<br />
「転送反応です！　大質量がここに来ます！」ルミ・フラメルが叫ぶ。<br />
「妨害システムは？」<br />
「ダウンしています！」<br />
<br />
　石造りの礼拝堂風アトリエ。その壁の一方が激しく砕け散った。解体用の巨大鉄球が外からぶつかってきたような勢いだ。ぶつかってきた物体が、ウロコをこすりあわせ、生臭い息を吐いて、咆吼した。テレポートを使ってクラリスのアトリエを強襲してきた大質量は生きた巨大な竜だった。<br />
<br />
　竜は発火性の竜の毒液を撒き散らし、周囲を火の海に変えた。<br />
<br />
　竜の背の鞍から女騎士が飛び降りてきた。女騎士は自分の身が焼けるのもかまわずに炎の中に飛び込み、輝く光に包まれて浮かぶ赤ん坊を左腕でさらった。騎士は鞍に駆け上った。<br />
　魔女たちが阻止するいとまもない、あっという間のできごとだった。<br />
<br />
　竜は酸の毒液で天井方向を溶かした。アトリエの屋根が燃えながら熔解する。翼をはためかせ、竜が飛び立った。屋根にできた穴を砕き広げるようにして、竜と竜騎士はあっという間に天に駆け上がった……。<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
　消火作業が終わった。<br />
<br />
「失態ね、クラリス・パラケルスス」<br />
　とディーナが錬金術師を一瞥した。<br />
「ねえ、ディーナちゃん？」クラリスはくねくねと気味悪くしなを作った。「そのクラリス・パラケルススに貸しを作る気はなぁい？」<br />
「貸し？」<br />
「あの女に、このこと黙っててほしいのぉー」<br />
「ステラに？」<br />
「ちがうわよ。やっと女教皇の座を後進にゆずったと思ったら、別の地位をちゃっかり手に入れて、背後にまわって院政なんか敷いちゃってる、引退するする詐欺のあの女によ」<br />
「クラリス……」ディーナは本気でぎょっとしていた。「かりにも尊い座にあられた方を、あの女呼ばわりとは……」<br />
「何？　……ああ、そうよね。貴女は魔法使いだから、そういう幻想は大事よね」<br />
「貴女だってそうでしょうに、クラリス」<br />
「違うわ、私は科学者だもの」<br />
　クラリス・パラケルススはとても珍しく、真面目な顔でディーナを見た。<br />
「私の額には“真理”の５文字が刻まれている。それより尊いものなんてこの世にないのだわ、あなたも本当はそうなのではなくて？　ディーナ・ウィザースプーン」</p>
	      <br />
	          <p class="acenter">　 <img src="https://www.aquarian-age.org/wordpress/wp-content/uploads/wedge01_name04.jpg" width="474" height="50" alt="works274"></p>
	          <p class="acenter"><img src="https://www.aquarian-age.org/wordpress/wp-content/uploads/wedge01_img0401.jpg" alt="works274" width="420" height="420" class="img_line" /></p>
	          <p class="acenter"><img src="https://www.aquarian-age.org/wordpress/wp-content/uploads/wedge01_img0402.jpg" alt="works274" width="420" height="420" class="img_line" /></p>
	          <p>　錬金術師クラリス・パラケルススが作り上げた傑作ホムンクルスのひとつ。<br />
　戦闘兵器として幾度となく世界各地へ派遣されており、その功績ははかりしれない。<br />
<br />
　戦闘行動を通じて、複雑な経験をあまりにも蓄積しすぎているため、創造者クラリスにも、「彼女が何を見て、何を感じてきたか」を把握することができなくなっている。脳内のメモリーに、クラリスにも閲覧できないブラックボックス領域があり、そこに由来するらしい「思いもよらなかった行動」をとりがちになっている。<br />
<br />
　基本的には、命令に対して従順。戦闘兵器としての性能はアゾートシリーズの中でもトップランク。クラリスは、「反抗期の予兆が見え始めた娘」を見るような視線で彼女を見ているようだ。</p>
            </div>]]></content:encoded>
			<wfw:commentRss>https://www.aquarian-age.org/fragments-wedge04/feed/</wfw:commentRss>
		<slash:comments>0</slash:comments>
		</item>
		<item>
		<title>アクエリアンエイジ フラグメンツ～女帝の聖楔～ 断片3</title>
		<link>https://www.aquarian-age.org/fragments-wedge03/</link>
		<comments>https://www.aquarian-age.org/fragments-wedge03/#comments</comments>
		<pubDate>Tue, 08 Mar 2011 09:00:18 +0000</pubDate>
		<dc:creator>aqweb_admin</dc:creator>
				<category><![CDATA[ストーリー]]></category>
		<category><![CDATA[フラグメンツ]]></category>

		<guid isPermaLink="false">https://www.aquarian-age.org/?p=1083</guid>
		<description><![CDATA[断片3「魔剣を生む者」 　場所は日本。 　万年雪に閉ざされた、ふたつの山脈のはざまに位置する大きな屋敷を、魔剣士レライエは訪れた。 　いや、レライエにとっては、それを屋敷と呼ぶのは違和感があった。それは表面を焼いた黒い木材と、藁に似た植物の茎を干し枯らしたものを組み合わせた民芸調の構造体だった。植物で葺かれた屋根は勾配がひどく急で、積雪対策だと思われた。 　ここで製鉄を？ 　レライエは他人事ながら、少しだけ火事を心配したのだった。 　案内を乞うような習慣は持ち合わせなかった。レライエは勝手にその建築物に入っていった。そして告げた。 「鍛冶師・月山とやらはいるのか？」 　レライエは中を見渡した。 　窓はほとんどなく、夜のように薄暗かった。間仕切りがされておらず、屋敷全体がホールのようになっていた。その中央が半地下に掘り下げられ、あれがタタラ炉というものだろうか、小舟のような構造体が据え付けられ、両脇に木製の機械式ふいごがつながっている。部屋のわきには大量の薪と大量の砂鉄が無造作に積み上げられていた。 　人物が２人いた。 　ひとりは女で、ツノがあり、虎柄の下着のうえに丈の短いジーンズ地の上着とショートパンツを身につけた小柄な娘だった。しめつけられるのが嫌なのか、パンツのフックもファスナーも、だらしなく開けたままにしてある。 　もうひとりも女だった。その女は粗末な椅子から驚いて立ち上がった。鎧を着込み、腰には剣を吊し、その剣の柄に手を掛けていた。レライエは鎧のかたちに見覚えがあった。極星帝国の女騎士だ。 　女騎士が剣に手を掛けるのを見て、レライエも大鎌をふりかぶった。 　すると、 「いいけどー、勝ったほうは死体をちゃんと埋めていってよね。あたし手伝わないからねー。片手が取れちゃって難儀だから穴掘り手伝ってとか言われても、聞かないからね」 　ツノのある娘が「あーあ」とあくびをしながらそう言った。 　レライエも女騎士も、毒気を抜かれてツノ娘のほうをまじまじと見た。 「しないの？　殺し合い。つまんない。まぁ、いいよ。この月山の仕事場に、お客が２人も来るなんてゼンダイミモンよ。茶くらい出すよ、セルフサービスだけど。よく来たね、まぁ上がれ」 　月山は作業場の横にしつらえられた畳敷きの小上がりに上がって、あぐらをかいて、急須から自分用の茶を注いだ。 　レライエも女騎士も、それに続いて上がったりはしなかった。女騎士は製鉄場の奧側で立ったまま、さすがに柄から手を離しているが、いつでも剣を抜けるよう左手を添えている。 　一方レライエも、いつでも鎌を跳ね上げられるよう手を添えて立っている。 「じゃ、ま、殺し合いをしないんなら、来た順にハナシを聞こうじゃない。えー、あんた、何だっけ。長くて覚えらんない名前。もう一回言ってよ」 「私は極星アトランティス王国の臣ラスタバン女公爵麾下、近衛竜騎兵、騎士サイサ・シュトルフェという者よ、鍛冶師月山」 　と女騎士が言った。 「前略中略シュトルフェ君は、鍛冶師月山に何の用？」 「槍を一本、打ってもらいたい。私のドラゴンスピアーが失われてしまったのよ」 「予備とかもらえるんじゃないの？」 「スペアはない。それに……」 「それに？」 「ただの槍では間に合わない。特別な槍でなければ……。神話のグングニールかゲイボルグに匹敵する槍を作ってもらいたい。どうしても倒したい相手がひとりいる。作れるかしら？」 「出来ないでもないよ、ないけどね」と鍛冶師は言った。「その前に、もうひとりの話も聞いとこうか。あんた誰」 「レライエだ」 　と黒衣の女悪魔は答えた。 「鍛冶師月山。貴公はあの“妖刀村正”を打ったソードスミスだと聞いた」 「懐かしいねぇ」と月山。「確かにあたしが打ったよ。何百年か前に。弟子名義にしてあるんだけどさ」 「剣が欲しい。直刃の大剣だ」 「そこらで売ってるよ」 「ただの剣ではだめだ。地上で最も邪悪な剣が欲しい。邪悪なものが喜んで取り憑きそうな剣が」 「おもしろい話が２つもいっぺんに来ちゃったねぇー。どっしようかねぇー」 　鍛冶師月山は、帯にくくった鈴つきの小さな「金棒ストラップ」をちりちり鳴らした。 「モンダイが２つあるんだけどね。ひとつは、最近刃物を打ってないのよ。鬼は金棒ばっかりで、カタナはめっきり使わなくなったから。最後に打ったのは鬼ババ用の出刃包丁だったよ。もうひとつは」 　月山はうーんと唸った。 「あたしは鬼相手にしか商売しないと決めてるわけ」 　とたんに女騎士シュトルフェが剣を抜きはなち、レライエが鎌を持ち上げた。断るなら脅してでも仕事をさせる、と２人が同時に思った証拠だった。 　だが月山はひるみもせず、「まあ待ってよ」と手のひらをひらひらさせた。 「まあ、そう決めてるんだけどさー、場合によっちゃ、やらないでもないわけ」 「その場合とは何なの？」と、シュトルフェが訊いた。 「鬼にしか武器は打たないって決めてはいるんだけどさー、でもー、何か素敵な贈り物でもあったらー、情がほどけて、決めごとなんかもヨソへいっちゃうってなもんでしょ」 「贈与品をあからさまに要求するの？」 　シュトルフェが憤然とした。彼女の価値観では、それは脅しよりも悪いことらしかった。 「おそらく、具体的に要求したいものがあるのだろう」とレライエが言った。「鍛冶師月山、まわりくどい話は我ら悪魔の専売だが、それも場合によりけりだ。求めるところを言うがいい」 「２つある」 　鍛冶師月山は、斜め上の宙を見据えて言った。 「この世のどこかに、崑崙山という場所があり、季節を問わず、仙人たちの桃が成るというハナシ。ひと目見てみたい、食べられるものなら食べてみたいなぁ」 [...]]]></description>
			<content:encoded><![CDATA[<div class="boxtext">
              <h3 class="chapter">断片3「魔剣を生む者」</h3>
              <p>　場所は日本。<br />
　万年雪に閉ざされた、ふたつの山脈のはざまに位置する大きな屋敷を、魔剣士レライエは訪れた。<br />
<br />
　いや、レライエにとっては、それを屋敷と呼ぶのは違和感があった。それは表面を焼いた黒い木材と、藁に似た植物の茎を干し枯らしたものを組み合わせた民芸調の構造体だった。植物で葺かれた屋根は勾配がひどく急で、積雪対策だと思われた。<br />
　ここで製鉄を？<br />
　レライエは他人事ながら、少しだけ火事を心配したのだった。<br />
<br />
　案内を乞うような習慣は持ち合わせなかった。レライエは勝手にその建築物に入っていった。そして告げた。<br />
「鍛冶師・月山とやらはいるのか？」<br />
<br />
　レライエは中を見渡した。<br />
　窓はほとんどなく、夜のように薄暗かった。間仕切りがされておらず、屋敷全体がホールのようになっていた。その中央が半地下に掘り下げられ、あれがタタラ炉というものだろうか、小舟のような構造体が据え付けられ、両脇に木製の機械式ふいごがつながっている。部屋のわきには大量の薪と大量の砂鉄が無造作に積み上げられていた。<br />
<br />
　人物が２人いた。<br />
<br />
　ひとりは女で、ツノがあり、虎柄の下着のうえに丈の短いジーンズ地の上着とショートパンツを身につけた小柄な娘だった。しめつけられるのが嫌なのか、パンツのフックもファスナーも、だらしなく開けたままにしてある。<br />
<br />
　もうひとりも女だった。その女は粗末な椅子から驚いて立ち上がった。鎧を着込み、腰には剣を吊し、その剣の柄に手を掛けていた。レライエは鎧のかたちに見覚えがあった。極星帝国の女騎士だ。<br />
<br />
　女騎士が剣に手を掛けるのを見て、レライエも大鎌をふりかぶった。<br />
<br />
　すると、<br />
<br />
「いいけどー、勝ったほうは死体をちゃんと埋めていってよね。あたし手伝わないからねー。片手が取れちゃって難儀だから穴掘り手伝ってとか言われても、聞かないからね」<br />
<br />
　ツノのある娘が「あーあ」とあくびをしながらそう言った。<br />
　レライエも女騎士も、毒気を抜かれてツノ娘のほうをまじまじと見た。<br />
<br />
「しないの？　殺し合い。つまんない。まぁ、いいよ。この月山の仕事場に、お客が２人も来るなんてゼンダイミモンよ。茶くらい出すよ、セルフサービスだけど。よく来たね、まぁ上がれ」<br />
<br />
　月山は作業場の横にしつらえられた畳敷きの小上がりに上がって、あぐらをかいて、急須から自分用の茶を注いだ。<br />
　レライエも女騎士も、それに続いて上がったりはしなかった。女騎士は製鉄場の奧側で立ったまま、さすがに柄から手を離しているが、いつでも剣を抜けるよう左手を添えている。<br />
　一方レライエも、いつでも鎌を跳ね上げられるよう手を添えて立っている。<br />
<br />
「じゃ、ま、殺し合いをしないんなら、来た順にハナシを聞こうじゃない。えー、あんた、何だっけ。長くて覚えらんない名前。もう一回言ってよ」<br />
「私は極星アトランティス王国の臣ラスタバン女公爵麾下、近衛竜騎兵、騎士サイサ・シュトルフェという者よ、鍛冶師月山」<br />
　と女騎士が言った。<br />
「前略中略シュトルフェ君は、鍛冶師月山に何の用？」<br />
「槍を一本、打ってもらいたい。私のドラゴンスピアーが失われてしまったのよ」<br />
「予備とかもらえるんじゃないの？」<br />
「スペアはない。それに……」<br />
「それに？」<br />
「ただの槍では間に合わない。特別な槍でなければ……。神話のグングニールかゲイボルグに匹敵する槍を作ってもらいたい。どうしても倒したい相手がひとりいる。作れるかしら？」<br />
「出来ないでもないよ、ないけどね」と鍛冶師は言った。「その前に、もうひとりの話も聞いとこうか。あんた誰」<br />
「レライエだ」<br />
　と黒衣の女悪魔は答えた。<br />
「鍛冶師月山。貴公はあの“妖刀村正”を打ったソードスミスだと聞いた」<br />
「懐かしいねぇ」と月山。「確かにあたしが打ったよ。何百年か前に。弟子名義にしてあるんだけどさ」<br />
「剣が欲しい。直刃の大剣だ」<br />
「そこらで売ってるよ」<br />
「ただの剣ではだめだ。地上で最も邪悪な剣が欲しい。邪悪なものが喜んで取り憑きそうな剣が」<br />
「おもしろい話が２つもいっぺんに来ちゃったねぇー。どっしようかねぇー」<br />
<br />
　鍛冶師月山は、帯にくくった鈴つきの小さな「金棒ストラップ」をちりちり鳴らした。<br />
<br />
「モンダイが２つあるんだけどね。ひとつは、最近刃物を打ってないのよ。鬼は金棒ばっかりで、カタナはめっきり使わなくなったから。最後に打ったのは鬼ババ用の出刃包丁だったよ。もうひとつは」<br />
<br />
　月山はうーんと唸った。<br />
<br />
「あたしは鬼相手にしか商売しないと決めてるわけ」<br />
<br />
　とたんに女騎士シュトルフェが剣を抜きはなち、レライエが鎌を持ち上げた。断るなら脅してでも仕事をさせる、と２人が同時に思った証拠だった。<br />
　だが月山はひるみもせず、「まあ待ってよ」と手のひらをひらひらさせた。<br />
<br />
「まあ、そう決めてるんだけどさー、場合によっちゃ、やらないでもないわけ」<br />
「その場合とは何なの？」と、シュトルフェが訊いた。<br />
「鬼にしか武器は打たないって決めてはいるんだけどさー、でもー、何か素敵な贈り物でもあったらー、情がほどけて、決めごとなんかもヨソへいっちゃうってなもんでしょ」<br />
「贈与品をあからさまに要求するの？」<br />
　シュトルフェが憤然とした。彼女の価値観では、それは脅しよりも悪いことらしかった。<br />
「おそらく、具体的に要求したいものがあるのだろう」とレライエが言った。「鍛冶師月山、まわりくどい話は我ら悪魔の専売だが、それも場合によりけりだ。求めるところを言うがいい」<br />
「２つある」<br />
<br />
　鍛冶師月山は、斜め上の宙を見据えて言った。<br />
<br />
「この世のどこかに、崑崙山という場所があり、季節を問わず、仙人たちの桃が成るというハナシ。ひと目見てみたい、食べられるものなら食べてみたいなぁ」<br />
「もうひとつは？」シュトルフェが促した。<br />
「鬼巫女たちの便りによれば、もうすぐこの世のどこかに、“ホーリーチャイルド”なる特別な子供が生まれるとやらのハナシ。ひと目見てみたい、できれば抱き上げてみたいかなぁ」<br />
「それも食するのか？」とレライエ。<br />
「美味そうならね」平然と月山は答えた。「どちらか１つを持ってきてくれたら、久しぶりに、凄い刃物を打ってあげてもいいよ」<br />
「崑崙山とやらいう場所には、聞き覚えがある。私はそこに行くとしよう」とレライエは言った。<br />
「私はどちらにも心当たりがない」<br />
　シュトルフェはいささか悄然としていた。<br />
「でも、そちらの剣士どののあとをつけていって、成果を強奪するようなことは誇りが許さない。幸いわが国には優秀な魔術師が大勢いるわ。彼女らに“ホーリーチャイルド”の生まれ場所を占わせることにしよう」<br />
<br />
<br />
<br />
　レライエが先に鍛冶場を去り、そのあとで注意深く、騎士シュトルフェが外に出た。<br />
　夕方になっていた。<br />
　山脈のはざまを、狼の遠吠えが、深く遠く、こだましていく。<br />
<br />
「日本列島に狼は絶滅したと聞いているけれど」シュトルフェがつぶやいた。<br />
「狼は不死身だってば」月山が答えた。「あれは飯塚秋緒が率いる、人狼たちの群れだよ」<br />
<br />
　狼たちの姿は見えない。遠吠えだけが、響く。<br />
<br />
　狼が、<br />
　吼える。<br />
　吼える。<br />
<br />
　ひときわ立派な、胸を揺さぶるような遠吠えが、人狼の女王、飯塚秋緒の声だろうか。<br />
<br />
　何かを警告するように、<br />
　空から来る何かを威嚇するように、<br />
<br />
　空に向かって、狼が、<br />
　吼えた。</p>
	      <br />
	          <p class="acenter">　 <img src="https://www.aquarian-age.org/wordpress/wp-content/uploads/wedge01_name03.jpg" width="474" height="50" alt="月山"></p>
	          <p class="acenter"><img src="https://www.aquarian-age.org/wordpress/wp-content/uploads/wedge01_img03.jpg" alt="月山" width="420" height="420" class="img_line" /></p>
	          <p>　鬼の鍛冶師。容姿は幼いが、少なくとも中世以前にはすでに鍛冶として名声を得ていたことが確認されている。日本神話にみえる何柱かの製鉄神ともかかわりがあるのではないかといわれているが、本人は素性を語ることがない。<br />
<br />
　持ち主を破滅させる妖刀村正を打った刀鍛冶として有名。だが、刀剣を使うことが鬼たちの間でだんだん流行らなくなったため、ここ数百年、刀をほとんど打っていない。近年の彼女の作品は金棒ばかりである。<br />
<br />
　かなり古い鬼であるにもかかわらず、昔からの伝統的生活にあまりこだわらない。軽薄な現代の風潮にかなり毒されている。テレビが好き。特に好きなのは通販番組。</p>
            </div>]]></content:encoded>
			<wfw:commentRss>https://www.aquarian-age.org/fragments-wedge03/feed/</wfw:commentRss>
		<slash:comments>0</slash:comments>
		</item>
	</channel>
</rss>
