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	<title>アクエリアンエイジ公式サイト &#187; ショートストーリー</title>
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	<description>美少女TCG（トレーディングカードゲーム）の真骨頂「アクエリアンエイジ」公式サイト 2011年10月より新シリーズスタート！</description>
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		<title>野良猫&#8221;久遠寺みやこ&#8221; －はじまりの狂想曲－</title>
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		<pubDate>Tue, 19 Jun 2012 07:00:33 +0000</pubDate>
		<dc:creator>aqweb_admin</dc:creator>
				<category><![CDATA[ショートストーリー]]></category>
		<category><![CDATA[ストーリー]]></category>

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		<description><![CDATA[　季節の変わり目の風が、気まぐれな力強さで街路樹を揺らし、少女の傍らを駆け抜けていく。 　フードつきのケープを羽織った彼女は、そこに溶けた新緑の息吹―――よりも、むしろ甘くて香ばしい屋台の甘味の匂いに鼻をひくつかせて、だらしなく口元を緩める。 「うにゃ‥‥‥タイ焼きの香り‥‥‥いいにゃあ♪」 　ふらふらとその源に向かいかけたところで、今し方のそれよりはるかに勢いある風が、かぶっていた彼女のフードをめくりあげようとした。 「わっ、わわわっ！？」 　慌てて両手で押さえ込むと、おっかなびっくりで周囲を確認。目撃者がいないことに安堵しつつ、小走りで路地裏へと駆け込んでゆく。 「あ‥‥‥危なかったにゃ。危うく、スポーツ新聞の特ダネにされるとこだったにゃ」 　薄暗がりの中でフードを外して、額の汗を手の甲でぬぐう少女の、その頭には。 　まごうことなきネコの耳が生えていて、ぴくぴくと落ち着きなく動いていた。 　　　　◆ 　久遠寺みやこ―――【ダークロア】に所属する獣人の少女である。 　ひょんなことから無くしてしまった記憶の断片だけを頼りに、かつての自分の「ご主人さま」のもとに帰るべく、今日もあてどのない放浪の旅を続ける身の上だ。 　そう言ってしまえば聞こえはいいが、現実は色々と世知辛い。異星勢力との戦闘で負傷した結果、人間社会に緊急避難したまではよかったものの、勝手の違いに翻弄されて、なかなか旅は進まない。 　主な原因のひとつは【お金】というやつだ。 　とかく人間社会は便利だが、これがなくてはなにひとつ立ちいかない。 「タイ焼きひとつ食べるのだって、ままならないんだもんにゃあ‥‥‥」 　食べてゆくだけならどうにかできる獣人のたくましさがあるとはいえ、目の前に素敵な物を並べられた挙げ句におあずけをくらっては、どうにもこうにもたまったものではない。 （まあ、食べ物に関してだけだったら……やりようは、いくつかあるんだけどさ……） 　野良として身につけた知恵なのだが、どれも良心の呵責をともなうので、陽性な性格のみやこには抵抗がある。そもそも異分子は自分のほうなのだ。ルールを無視した不正手段で利を得るのは卑怯な気がしたし、なにより、もやっとした気分が後を引いてしまう。 　つまり根っからの部分で、彼女はとっても【よい子】なのである。 　まあ―――それも時と場合によるものであるのだが。 　　　　◆ 　落ち着きを取り戻して、再び雑踏の中に紛れようとしたみやこは、ふと立ち止まる。 　人間たちのそれより、もっと嗅ぎ慣れた匂いが鼻を掠めたのだ。 （同族（なかま）が近くにいる！？） 　思わずこぼれかけた笑みは、だが半ばで硬直し、眉間の縦皺へと変わる。 　ほのかに入り交じった鉄錆を思わせるそれは、明らかに血の臭いだった。 「‥‥‥ッ！」 　躊躇せず、その源に急ぐ。雑居ビルを隔てた細道の奥に、手負いの小さな影がふたつ、かばい合うようにしてうずくまっていた。か細いすすり泣きの声も、切れ切れに聞こえてくる。 「キミたち、大丈夫？」 　心配するみやこの声に対して、向けられたのは幼くも勇敢な敵意の視線だった。 「おまえ……だれだ！？」 　小さな犬歯を剥き出しに威嚇してきたのは、やはり獣人の少年だった。年格好は人間でいうところの小学生低学年くらいだろうか。あちこち泥まみれで、顔には擦り傷がいくつもあった。 　そして右の太腿には、応急手当なのだろう、べったり血に染まったハンカチが結ばれている。 （血の匂いの源はこれだったみたいだね） 　最悪の予想が外れてくれたことに、みやこはちょっぴり安堵する。 　が、放っておける状況ではない。 「こわがらないで？　ほら、あたしもおんなじっ♪」 　フードをとって耳を露わにし、スカートの下に隠していた尻尾をふりふりしてみせる。 「あ‥‥‥」 　少年の後ろに隠れるようにしていたもうひとつの影が、ほっとしたようなため息をもらす。 　泣き腫らした赤い目と性別こそ違えど、それは少年とうりふたつの少女だった。 「キミたちって、もしかして双子さん？」 　笑顔でそう話しかけると、ためらいがちに、二人はこくんとうなずいた。 　　　　◆ 　双子の姉弟は、姉がサランで弟がリンドだと名乗った。 　かつてのみやこがそうであったように、戦禍を避けて人間の町まで逃げてはきたものの、親たちとはぐれてしまい、どうしたらいいのか途方に暮れていたのだという。 「そっかぁ‥‥‥でも、もうだいじょうぶだよ」 　にんまり笑って、みやこは二人の頭をぽんぽんと叩いて請け負う。 「あたしが、なんとかしてあげちゃうから」 　根拠はなくとも、小さなこの子たちを放っておくなんてことは絶対できない。寒くって、お腹が空いて、心細い思いを味わったことのある自分だからこそ、この子たちに同じ思いをさせたくはなかった。今の自分にできることは、何だってしてあげたかった。 「はい、これ着て？　あったかいから」 　脱いだケープを姉に羽織らせ、フードの紐をきっちりと結んでやる。まだ警戒気味な弟にもジャケットを着せてやると、二人の身体から少しだけ強張りがとれた気がした。 　が、それで終わりではなかった。 「よいしょ……っと」 [...]]]></description>
			<content:encoded><![CDATA[<div class="boxtext">
            <p>　季節の変わり目の風が、気まぐれな力強さで街路樹を揺らし、少女の傍らを駆け抜けていく。
<br />　フードつきのケープを羽織った彼女は、そこに溶けた新緑の息吹―――よりも、むしろ甘くて香ばしい屋台の甘味の匂いに鼻をひくつかせて、だらしなく口元を緩める。
<br />「うにゃ‥‥‥タイ焼きの香り‥‥‥いいにゃあ♪」
<br />　ふらふらとその源に向かいかけたところで、今し方のそれよりはるかに勢いある風が、かぶっていた彼女のフードをめくりあげようとした。
<br />「わっ、わわわっ！？」
<br />　慌てて両手で押さえ込むと、おっかなびっくりで周囲を確認。目撃者がいないことに安堵しつつ、小走りで路地裏へと駆け込んでゆく。
<br />「あ‥‥‥危なかったにゃ。危うく、スポーツ新聞の特ダネにされるとこだったにゃ」
<br />　薄暗がりの中でフードを外して、額の汗を手の甲でぬぐう少女の、その頭には。
<br />　まごうことなきネコの耳が生えていて、ぴくぴくと落ち着きなく動いていた。
<br />　　　　◆
<br />　久遠寺みやこ―――【ダークロア】に所属する獣人の少女である。
<br />　ひょんなことから無くしてしまった記憶の断片だけを頼りに、かつての自分の「ご主人さま」のもとに帰るべく、今日もあてどのない放浪の旅を続ける身の上だ。
<br />　そう言ってしまえば聞こえはいいが、現実は色々と世知辛い。異星勢力との戦闘で負傷した結果、人間社会に緊急避難したまではよかったものの、勝手の違いに翻弄されて、なかなか旅は進まない。
<br />　主な原因のひとつは【お金】というやつだ。
<br />　とかく人間社会は便利だが、これがなくてはなにひとつ立ちいかない。
<br />「タイ焼きひとつ食べるのだって、ままならないんだもんにゃあ‥‥‥」
<br />　食べてゆくだけならどうにかできる獣人のたくましさがあるとはいえ、目の前に素敵な物を並べられた挙げ句におあずけをくらっては、どうにもこうにもたまったものではない。
<br />（まあ、食べ物に関してだけだったら……やりようは、いくつかあるんだけどさ……）
<br />　野良として身につけた知恵なのだが、どれも良心の呵責をともなうので、陽性な性格のみやこには抵抗がある。そもそも異分子は自分のほうなのだ。ルールを無視した不正手段で利を得るのは卑怯な気がしたし、なにより、もやっとした気分が後を引いてしまう。
<br />　つまり根っからの部分で、彼女はとっても【よい子】なのである。
<br />　まあ―――それも時と場合によるものであるのだが。
<br />　　　　◆
<br />　落ち着きを取り戻して、再び雑踏の中に紛れようとしたみやこは、ふと立ち止まる。
<br />　人間たちのそれより、もっと嗅ぎ慣れた匂いが鼻を掠めたのだ。
<br />（同族（なかま）が近くにいる！？）
<br />　思わずこぼれかけた笑みは、だが半ばで硬直し、眉間の縦皺へと変わる。
<br />　ほのかに入り交じった鉄錆を思わせるそれは、明らかに血の臭いだった。
<br />「‥‥‥ッ！」
<br />　躊躇せず、その源に急ぐ。雑居ビルを隔てた細道の奥に、手負いの小さな影がふたつ、かばい合うようにしてうずくまっていた。か細いすすり泣きの声も、切れ切れに聞こえてくる。
<br />「キミたち、大丈夫？」
<br />　心配するみやこの声に対して、向けられたのは幼くも勇敢な敵意の視線だった。
<br />「おまえ……だれだ！？」
<br />　小さな犬歯を剥き出しに威嚇してきたのは、やはり獣人の少年だった。年格好は人間でいうところの小学生低学年くらいだろうか。あちこち泥まみれで、顔には擦り傷がいくつもあった。
<br />　そして右の太腿には、応急手当なのだろう、べったり血に染まったハンカチが結ばれている。
<br />（血の匂いの源はこれだったみたいだね）
<br />　最悪の予想が外れてくれたことに、みやこはちょっぴり安堵する。
<br />　が、放っておける状況ではない。
<br />「こわがらないで？　ほら、あたしもおんなじっ♪」
<br />　フードをとって耳を露わにし、スカートの下に隠していた尻尾をふりふりしてみせる。
<br />「あ‥‥‥」
<br />　少年の後ろに隠れるようにしていたもうひとつの影が、ほっとしたようなため息をもらす。
<br />　泣き腫らした赤い目と性別こそ違えど、それは少年とうりふたつの少女だった。
<br />「キミたちって、もしかして双子さん？」
<br />　笑顔でそう話しかけると、ためらいがちに、二人はこくんとうなずいた。
<br />　　　　◆
<br />　双子の姉弟は、姉がサランで弟がリンドだと名乗った。
<br />　かつてのみやこがそうであったように、戦禍を避けて人間の町まで逃げてはきたものの、親たちとはぐれてしまい、どうしたらいいのか途方に暮れていたのだという。
<br />「そっかぁ‥‥‥でも、もうだいじょうぶだよ」
<br />　にんまり笑って、みやこは二人の頭をぽんぽんと叩いて請け負う。
<br />「あたしが、なんとかしてあげちゃうから」
<br />　根拠はなくとも、小さなこの子たちを放っておくなんてことは絶対できない。寒くって、お腹が空いて、心細い思いを味わったことのある自分だからこそ、この子たちに同じ思いをさせたくはなかった。今の自分にできることは、何だってしてあげたかった。
<br />「はい、これ着て？　あったかいから」
<br />　脱いだケープを姉に羽織らせ、フードの紐をきっちりと結んでやる。まだ警戒気味な弟にもジャケットを着せてやると、二人の身体から少しだけ強張りがとれた気がした。
<br />　が、それで終わりではなかった。
<br />「よいしょ……っと」
<br />　ぽいぽいっとブーツを脱ぎ捨て、あまつさえスカートまでずり下ろす。しなやかな曲線を描く裸身を躊躇せず晒してゆく。慌てて目を背ける弟くんにもお構いなしであった。
<br />「悪いけど、大事にあずかっててね？　一張羅だから」
<br />　脱ぎ散らかした服を、慌てて拾うサランにウィンクすると。
<br />　一糸纏わぬ姿となったみやこは、アスファルトに手をつくと、まるで猫がそうするように大きく伸びをしながら―――メタモルフォーゼを開始した。
<br />　　　　◆
<br />「うおっ、野良のミャーコじゃない！？　うっわ、久しぶりすぎぃ～っ♪」
<br />　町外れにある古びた一軒屋の、あんまり手入れのされていない中庭。
<br />　そこに現れた黒づくめの珍客に、藤子（ふじこ）はたちまち相好を崩した。
<br />「うみゃぁ～♪」
<br />「元気だったか？　またカラスたちにいじめられたりしてなかったか？」
<br />　よく利用する弁当屋の裏で、廃棄されたシャケ弁の争奪戦を繰り広げる黒猫とカラスたちを見たのは、二ヶ月ほど前のことだっただろうか。多勢に無勢で翻弄されつつも、必死にがんばるチビの姿がいじらしくて、思わず保護して連れ帰ってしまった時の記憶が甦ってくる。
<br />「出されたエサはきっちり平らげるくせして、お前、ミャーコって呼ばないと返事しないんだもんね」
<br />　そんな意固地さがいかにも猫らしくて、しばらく居候させてやったのだ。
<br />　弱小地方新聞の新米記者などという、酔狂で大変な仕事をしている彼女にとって、ミャーコの存在はささやかな癒やしとなった。
<br />　ふいに姿をくらましてしまった時には、ちょっぴり泣けるほどに。
<br />　だからこそ、突然の来訪がうれしくてたまらない。
<br />　ミルクでもふるまってやろうとした藤子の、そのジーンズの裾が懸命に引っ張られた。みゃあみゃあと必死さだけは伝わる仕草で緊急事態を把握した彼女は、やがて黒いチビ猫に導かれ、暮れなずむ町に向かって小走りに駆け出してゆくのだった。
<br />　　　　◆
<br />―――ね、なんとかなったでしょ？
<br />　人間にはただの鳴き声にしか聞こえぬ波長の声で、子猫の姿のみやこは双子たちに語りかけた。
<br />　あったかいホットミルクのマグカップをそれぞれ手に抱えたまま、子供たちは不安そうな面持ちで、それでもこっくりとうなずいた。泥だらけだった手足は温めたタオルで綺麗に拭われていて、擦り傷や切り傷には、不器用ながらもバンソーコや包帯による手当てがされている。
<br />　全部、この家の主人である藤子の手によるものであった。
<br />（やっぱり、フジコさんを頼って正解だったのにゃ♪）
<br />　ここの家主の優しさは、身に染みてわかっていた。居心地のよさについ甘えて、長居してしまったくらいなのだから。正体を隠しているのが心苦しくて、打ち明けたくなってしまったほどに。
<br />（結局、また甘えちゃったけど……）
<br />　疲れ果てた子供たちを見るなり、彼女は速効で保護してくれた。耳や尻尾を見つけた時には、一瞬だけ戸惑ったけれど、それでもこうして連れ帰って、優しくいたわってくれている。
<br />　心苦しさはあったが、子供たちのためにはこれでよかったのだと、みやこは後悔していない。
<br />　自分にできないことをしてくれた藤子に深く感謝し、小さな頭をぺこりと下げた。
<br />「いいのよ、ミャーコ。よくぞ報せてくれたわね」
<br />　優しくその喉を撫でて笑っていた藤子は、やがて、思い切ったように視線を双子へと向けた。
<br />「ねえ、キミたちはいったい何者なの？」
<br />　意図的に守られていた静謐な空気に、強張った緊張感が走る。
<br />　警戒と威嚇の眼差しを向ける弟をそっと制して、姉は異種族の恩人へと告げる。
<br />「助けてくださってありがとうございます。すぐに、出ていきますから……」
<br />　うにゃあ、と驚愕したミャーコの声にかぶせるようにして、慌てて藤子がとりつくろう。
<br />「そういう意味じゃないの！　ただ、私はこれでも新聞記者だから……」
<br />　知りたかったのだ―――ずっと感じ続けている、この世界へと生じた違和感の正体を。
<br />　闇夜に跋扈する不穏な影や、空を飛ぶ不思議な光。
<br />　原因不明のまま、ただの事故災害として報じられるだけの、大小の破壊の爪痕。
<br />　オカルト雑誌のネタだと笑い飛ばすには、物証が生々しすぎて笑えない。
<br />　みんな不安に思っているのに、けれど不思議と騒ぎ立てることもしない。
<br />　まるで―――見えない意思と力で隠蔽され、封じ込められてしまっているかのように。
<br />　が、図らずもこうして、彼女はその一端らしき超常の存在に接触してしまった。
<br />　だから、問わずにはいられなかったのだ。
<br />　相手が不安に苛まれ続けている、幼い子供たちであることを失念してしまうほどに。
<br />「話したら、オレたちのこと、あいつらに報せるつもりだろッ！？」
<br />　噛みつくような勢いで、獣人の少年が吠えた。
<br />　野性を証明するようなその剣幕に、藤子は思わず身を引くと同時に、自分の軽率さに気づく。
<br />　謝罪の言葉を探す数瞬のうちに、弟をいさめた少女が、悲しげに告げる。
<br />「話したら、きっと貴方に迷惑がかかります。今こうしてここにいるだけでも、本当は‥‥‥」
<br />　言い終えるよりも早く、耳をつんざく爆発音が、それが真実であることを証明した。
<br />　　　　◆
<br />「み゛ゃみゃーっ！？」
<br />「きゃあああぁぁーっ！？」
<br />　三人と一匹のあげた悲鳴を耳にして、襲撃者たちは一様にほくそ笑んだ。
<br />　自重して獲物が出てくるのを待つよりも、こうしていぶりだしてやるほうが手っ取り早い。
<br />　これこそがまさに【帝国】の戦のやり方というものだ。
<br />「今宵は新月……ケダモノたちの力が弱まる、絶好のハンティングタイムだわねぇ」
<br />　さりとて油断は禁物だ。獣人たちはあきれる程にしぶとい。ちょっとやそっとのダメージを与えたくらいでは、前と同じように逃げられてしまいかねない。
<br />「徹底的にブチのめしてあげなくちゃねぇ……うふふっ♪」
<br />　魔力の火球を次々と放り投げながら、部隊の長は兵士たちを威勢よくあおり立てる。
<br />「さあ、みんな！　いっちょ景気よく、ひと狩りいくわよぉ！」
<br />　　　　◆
<br />（【極星帝国】の【獣人捕獲部隊】！？）
<br />　人間とも自分たちとも異なる、異世界の香りを嗅ぎつけて、みやこは全てを理解する。
<br />　この双子たちが、どうして傷つき、あんなにも怯えてしまっていたのかを。
<br />（追われていたんだ……）
<br />　富士の樹海において、獣人たちは果敢に異勢力と戦い、手痛い爪痕を残すことに成功した。
<br />　が、それは同時に改めて、獣人という種族の価値を敵に再認識させる結果にもなってしまったのである。
<br />　【獣人捕獲部隊】―――その使命は獣人たちを狩り集めること。生死の別は問わないが、なるべく活きのいい状態のほうが【素材】としての価値があがると、兵達を統率する【ネクロマイスター】は考えている。
<br />　そうして集められた獣人たちは、アンデッドに作り替えられて【帝国】の殺戮兵器となるのだ。
<br />　その有能性は【デス・ストライク】と呼ばれる人狼少女のケースで、すでに証明されていた。
<br />　だが、狩られる者たちにとっては、そんな事情など理解の範疇外である。
<br />「あ～っ、叔父さんから留守を預けられた我が家がぁ‥‥‥」
<br />　爆発と猛火の中に呑まれてゆく。かろうじて引っ掴んで飛びだした通勤用のバッグを抱えたまま、藤子は途方にくれてしゃがみこんでしまっていた。
<br />「逃げなきゃダメだよ、ねえちゃん！？」
<br />「で、でもぉ……っ」
<br />　必死に姉の手を引っ張る弟と、巻き込んでしまった恩人を見捨てられず、躊躇する姉。
<br />　そんな両者へと交互に目をやりながら、あたふたと戸惑い続ける黒猫ミャーコ。
<br />「‥‥‥みぃつけたぁ♪」
<br />　熱風にゆらめく夜闇の向こう側から、鎧を纏った部隊の長が姿を現す。
<br />　右手の火球を松明のように掲げつつ、ゆっくりと獲物たちめがけて近づいてくる。
<br />　反対の手に握りしめた無骨な鈍器には、かつて仕留めた獲物たちの置き土産なのか、錆のように赤茶けた汚れが不気味に染みついていた。
<br />「思いっきり痛めつけてから連れてってあげるわねぇ‥‥‥見てくれが多少悪くなったってさぁ、素材としてはこれっぽっちも問題ないしぃ……」
<br />　むきつけの憎悪におびえきって、身をすくませる双子の獣人姉弟。
<br />　そんな二人の前へと、慌てて、立ちはだかった者がいた。
<br />「こっ、この子たちに手出しはさせないわよっ！？」
<br />　震える脚を必死に踏ん張って、藤子は子供たちをその背にかばう。
<br />「原住民か‥‥‥戦う力もないくせして、エラそうに……」
<br />　手出し無用が原則だが、この状況下では不可抗力で通るだろう。遺体は焼いてしまえばいい。
<br />　躊躇は一瞬のみ。標的を藤子の頭部へと変更して、鈍器が勢いよく振り下ろされる。
<br />　けれど―――その一瞬の躊躇だけで、みやこには充分だった。
<br />　　　　◆
<br />「ひぃぎゃああああああ～っ！？　わ、私の顔があぁぁ～ッ！？！？」
<br />　真下から不意に伸びあがった銀光が、襲撃者の顔面を痛烈にえぐり抜いていた。
<br />　灼熱の痛みに視界を歪ませ、絶叫しながら。
<br />　隊長は見た。
<br />　チビ猫から人間の姿へと変貌した、黒髪の少女の激しい怒りの眼差しを。
<br />　圧倒的な力の差と恐怖。そして、身を焦がすような怒りと恥辱と共に。
<br />「とっとと立ち去りなさい！　でないと……あたし、本気でやっちゃうんだから！！」
<br />　愛らしい声とは裏腹にこめられた、明確すぎるほどの恫喝と敵意。
<br />　予期せぬ新手の獣人の出現に兵士たちは狼狽したものの、すぐに隊長をかばうようにしながら、反撃の陣形を整えていく。
<br />　いきりたつ面々の矛先を制したのは、だが意外にも、手負いとなったその本人だった。
<br />「よせッ！‥‥‥場当たりの対処で狩れるほど、そいつはちょろい獲物じゃない！！」
<br />　慢心の報いを痛烈に受け、激昂から立ち直った彼女の目は、冷たい復讐の炎に燃えていた。
<br />　部隊を束ねる長としての自覚が、そうさせたのだ。
<br />「覚えておけ……次は、相応の支度をしたうえで、必ず仕留めてやるからな……忌々しい黒猫め……ッ！」
<br />　苦々しげにそう吐き捨てると、部下たちに支えられながらも、最後までみやこへと向ける憎悪の視線を外すことなく退却してゆく。
<br />　追いかけて仕留める意思は、みやこにはなかった。
<br />　　　　◆
<br />「みゃ……ミャーコ……だよ、ね？」
<br />　自分の危機を救ってくれた、見知らぬはずの全裸の少女。
<br />　藤子は直感的に、それがあの黒猫ミャーコなのだと悟っていた。
<br />　けれど少女は応えず、ただ悲しげな眼差しを向ける。
<br />「ごめんなさい、フジコさん。あなたの優しさに甘えて、だまして、巻き込んでしまって……」
<br />　深々と頭を下げる。
<br />　それより他に償いようのない自分が悔しくて、みやこの瞳からぽろぽろと涙がこぼれた。
<br />「ご恩は一生忘れません。いつか、いつかきっと、返せるようにがんばりますから……っ」
<br />　手の甲でそれをぬぐい、双子たちに目配せをすると。
<br />「さようなら！」
<br />　信じがたい勢いで跳躍して、黒猫の少女は去ってゆく。
<br />　呆気にとられる恩人を、置き去りにしたまま。
<br />　　　　◆
<br />「これからどうするの、みやこお姉ちゃん？」
<br />　薄暗い山道の藪の中。預けていた服を再び身につけ終えたみやこに、サランが問いかける。
<br />「にゃははは、どーしよっか？」
<br />　苦笑しながら、みやこは必死に知恵をめぐらせる。
<br />　【獣人捕獲部隊】に目をつけられてしまった以上、少しでも遠くに逃げるべきであった。
<br />　だが、今宵は新月。しかもまだ幼い二人を連れて、果たしてどこまで逃げ切れるのか。
<br />（フジコさんみたいに、また優しいヒトを巻き込んじゃうのは絶対にイヤだし……）
<br />　自分たちだけでなんとかしたい。けれど、あまりに自分たちは無力すぎて。
<br />　途方に暮れて泣きたくなるのを、ぐっと尻尾に力をこめてガマンする。
<br />　その時だった。
<br />「―――ッ！？」
<br />　ビームランプの眩しい光を向けられて、３人は思わず立ちすくむ。
<br />　夜目を利かせていたことが災いして、とっさに回避行動がとれない。
<br />（しまった‥‥‥ッ！？）
<br />　確定するであろう不意討ちから、双子だけは守るべく、みやこはあえてその背中を晒した。
<br />　歯を食いしばり、衝撃に耐えようとしたその首筋を。
<br />　つうっと、マニキュアを塗った人差し指がくすぐった。
<br />「ひゃみゃあぁ～んっ！？」　
<br />「おーっ、いい声♪　その様子だと、まだまだ元気は残ってるみたいね？」
<br />　アウトドア用の懐中電灯の明度を一段階落としてから、藤子はにんまりと笑って見せた。
<br />「ふふっ、フジコさんっ？　にゃんで……っ」
<br />「心配だったからに決まってるでしょうが、このバカミャーコ！」
<br />　ごちん、と今度はゲンコツを食らわされた。痛くはないけど、何故だか涙がこぼれてしまう。
<br />「お家も燃えちゃったしさ。今日から私もあんたたちと同じ、野良仲間ってことで」
<br />「あ……」
<br />　詫びようとするみやこの口元を、人差し指でそっと封じて、藤子はイタズラっぽく笑った。
<br />「周りに色々と説明するのもめんどくさいしさ。行方不明がてらしばらく、あんたたちの足代わりになってあげてもいいよ」
<br />　促した視線の先には、真っ赤でちっちゃなクラシックカー。
<br />　火事場からかろうじて持ち出してきた、現在の今の彼女の唯一の財産だった。
<br />「手間賃はあなたたちのお話。プライバシーはきちんと守るし、オフレコにも応じちゃうからさ……」
<br />　ダメかしら、と首をかしげる藤子に。
<br />　ぎゅうっと抱きついて、みやこは答える。
<br />「ありがとうございますっ！」
<br />　交渉成立―――だった。
<br />
<br /></p><p class="aright">＜完＞</p>
			</div>]]></content:encoded>
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		<item>
		<title>アクエリアンエイジ 魔力の水嶺 ショートストーリー 第1話</title>
		<link>https://www.aquarian-age.org/story-mercury01/</link>
		<comments>https://www.aquarian-age.org/story-mercury01/#comments</comments>
		<pubDate>Tue, 13 Mar 2012 09:00:34 +0000</pubDate>
		<dc:creator>aqweb_admin</dc:creator>
				<category><![CDATA[ショートストーリー]]></category>
		<category><![CDATA[ストーリー]]></category>

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		<description><![CDATA[「お迎えが来るの」と、妹は言った――― 　　　† 「ねえ、お兄ちゃん……」 　名前の通り、詠うように、彼女が言う。 　真代詠―――大事な、大切な俺の妹。 　控えめで、優しくて、でも明るくて。いつも……いつでも俺の後ろをついてきた、かけがえのない家族。 　―――その妹が、俺を呼んでいる。 　現実感のない景色、現実味のない状況、現実とは遠く離れた、まるで物語のような光景の中で、妹が俺のことを呼んでいる。 　上に天使の輪をいただいた頭、本当は黒いはずの髪は淡い光を放つ白に染まり。背には、光とも実体ともつかない輝く翼を背負って。 　右と左に、手を引く天使を伴って。 　なのに着ているのは、「おやすみ」を言った時と同じパステルピンクのパジャマで、そんなところばかりがいつもどおりで、これが夢であるとごまかすことを許してくれない。 　―――妹が、俺を呼んでいる。 　返事をしなくては、連れて行かれないように、その手をとらなくては……そう思うのに、手が足が腕が脚が動かず、口すらも動かない。現実を拒否しようと目を閉ざすことすら、まばたきすることすらも許されない。 　天使の操る不可思議な力のせいなのか、俺がすくんでいるだけなのか、それともこの光景を俺が認めたくないからなのか。 　倒れ伏した俺の身体は、頭の先から脚の指先まで、金縛りにあったように動くことができない。 　立ち向かうことすら許されない、どうしようもない現実に、気持ちは焦るのに、妹の声に答えることができない。 　―――妹が、俺を呼んでいる。 「迎えが来る」と、妹がそう言って寂しげに微笑んだのは、もう何日も前のこと。 　俺は、その言葉を正面から受け止めてやることができなかった。ただただ、そんなのは気のせいだからと、大したことはないと、頭をなでてやることしかできなかった。まさか本当に迎えが来るだなんて、思ってもみなかった。 　その結果が、これだった。 　妹が天使に手を引かれ、去ろうとする、現実味のないこの光景だった。 　……ダメだ。 　行かせては、ダメだ。 　たったひとりの妹を連れて行かせるわけにはいかない。 　大切な、大切な、詠。俺がいないとなにもできない女の子を、たったひとりで行かせるわけにはいかない。 　歯を食いしばる。立ち上がろうと手脚に力を込める。 　動かない身体を動かそうと、奥歯に力を込める。 　言葉だけでも届けと、肺の中身を押し出し、喉にわずかな空気を通す。 　―――妹が、俺を呼んでいる。 「詠……」 　妹への想いが、声になる。 　この声が呼び止める鎖になり、引き留める楔になり、立ち上がる力になる。そう信じて俺は、詠の名を声にする。 「詠っ！」 「ねえ、お兄ちゃん」 　立ち上がろうともがく俺に、詠は言った。 「もう、あきらめて」 　　　　　† 　夕焼けの教室には、数人の級友が残っているだけだった。 「俺、なにをやってるんだろう……」 　呟く声に耳を傾ける同級生はいない。そもそも誰に向けられた呟きでもないのだから、聞いている誰かがいたとしても、答えることなどできないに違いなかった。 　真代開は、今日もこうして学校へ来ている。 　妹が天使に連れ去られてしまったあの日から、はや１週間が経とうというのに、起きて、学校に来て、帰って、寝て……そんなルーチンワークを。妹のいない日常を受け容れることもできないまま、漫然と続けている。 　追えばいい？　 　まさか……そんなことができるわけもない。 　開には超能力もなければ、獣のような力もない。魔法や呪術を使えるわけもなく、奴らのような天使でなければ、伝説の勇者であるはずもない……。 　まして、物語の主人公ですらあるわけもない。 　そんな自分に、なにができるはずもない。 　それに……。 「あれは、あいつが自分で決めたことなんだ」 　去り際に詠が残した、「あきらめて」という言葉が、開に追うことをゆるさない。 　それは、ずっと開の後ろをついてきて、ただ微笑みだけを向けてくれていた妹がはじめて自分の意思で開に向けた拒絶で。だから開は詠を追いかけてはいけないと、そうも思うのだった。 　なら、あきらめるしかない。 　わかっているのに、なのに開は、妹をあきらめることができないままでいる。 　　　　　† 　わたし……渡来愛花には、秘密があった。 [...]]]></description>
			<content:encoded><![CDATA[<div class="boxtext">
			  <p>			    「お迎えが来るの」と、妹は言った―――
<br />
<br />　　　†
<br />
<br />「ねえ、お兄ちゃん……」
<br />　名前の通り、詠うように、彼女が言う。
<br />　真代詠―――大事な、大切な俺の妹。
<br />　控えめで、優しくて、でも明るくて。いつも……いつでも俺の後ろをついてきた、かけがえのない家族。
<br />
<br />　―――その妹が、俺を呼んでいる。
<br />
<br />　現実感のない景色、現実味のない状況、現実とは遠く離れた、まるで物語のような光景の中で、妹が俺のことを呼んでいる。
<br />　上に天使の輪をいただいた頭、本当は黒いはずの髪は淡い光を放つ白に染まり。背には、光とも実体ともつかない輝く翼を背負って。
<br />　右と左に、手を引く天使を伴って。
<br />　なのに着ているのは、「おやすみ」を言った時と同じパステルピンクのパジャマで、そんなところばかりがいつもどおりで、これが夢であるとごまかすことを許してくれない。
<br />
<br />　―――妹が、俺を呼んでいる。
<br />
<br />　返事をしなくては、連れて行かれないように、その手をとらなくては……そう思うのに、手が足が腕が脚が動かず、口すらも動かない。現実を拒否しようと目を閉ざすことすら、まばたきすることすらも許されない。
<br />　天使の操る不可思議な力のせいなのか、俺がすくんでいるだけなのか、それともこの光景を俺が認めたくないからなのか。
<br />　倒れ伏した俺の身体は、頭の先から脚の指先まで、金縛りにあったように動くことができない。
<br />　立ち向かうことすら許されない、どうしようもない現実に、気持ちは焦るのに、妹の声に答えることができない。
<br />
<br />　―――妹が、俺を呼んでいる。
<br />
<br />「迎えが来る」と、妹がそう言って寂しげに微笑んだのは、もう何日も前のこと。
<br />　俺は、その言葉を正面から受け止めてやることができなかった。ただただ、そんなのは気のせいだからと、大したことはないと、頭をなでてやることしかできなかった。まさか本当に迎えが来るだなんて、思ってもみなかった。
<br />　その結果が、これだった。
<br />　妹が天使に手を引かれ、去ろうとする、現実味のないこの光景だった。
<br />　……ダメだ。
<br />　行かせては、ダメだ。
<br />　たったひとりの妹を連れて行かせるわけにはいかない。
<br />　大切な、大切な、詠。俺がいないとなにもできない女の子を、たったひとりで行かせるわけにはいかない。
<br />　歯を食いしばる。立ち上がろうと手脚に力を込める。
<br />　動かない身体を動かそうと、奥歯に力を込める。
<br />　言葉だけでも届けと、肺の中身を押し出し、喉にわずかな空気を通す。
<br />
<br />　―――妹が、俺を呼んでいる。
<br />
<br />「詠……」
<br />　妹への想いが、声になる。
<br />　この声が呼び止める鎖になり、引き留める楔になり、立ち上がる力になる。そう信じて俺は、詠の名を声にする。
<br />「詠っ！」
<br />「ねえ、お兄ちゃん」
<br />　立ち上がろうともがく俺に、詠は言った。
<br />「もう、あきらめて」
<br />
<br />　　　　　†
<br />
<br />　夕焼けの教室には、数人の級友が残っているだけだった。
<br />「俺、なにをやってるんだろう……」
<br />　呟く声に耳を傾ける同級生はいない。そもそも誰に向けられた呟きでもないのだから、聞いている誰かがいたとしても、答えることなどできないに違いなかった。
<br />　真代開は、今日もこうして学校へ来ている。
<br />　妹が天使に連れ去られてしまったあの日から、はや１週間が経とうというのに、起きて、学校に来て、帰って、寝て……そんなルーチンワークを。妹のいない日常を受け容れることもできないまま、漫然と続けている。
<br />　追えばいい？　
<br />　まさか……そんなことができるわけもない。
<br />　開には超能力もなければ、獣のような力もない。魔法や呪術を使えるわけもなく、奴らのような天使でなければ、伝説の勇者であるはずもない……。
<br />　まして、物語の主人公ですらあるわけもない。
<br />　そんな自分に、なにができるはずもない。
<br />　それに……。
<br />「あれは、あいつが自分で決めたことなんだ」
<br />　去り際に詠が残した、「あきらめて」という言葉が、開に追うことをゆるさない。
<br />　それは、ずっと開の後ろをついてきて、ただ微笑みだけを向けてくれていた妹がはじめて自分の意思で開に向けた拒絶で。だから開は詠を追いかけてはいけないと、そうも思うのだった。
<br />　なら、あきらめるしかない。
<br />　わかっているのに、なのに開は、妹をあきらめることができないままでいる。
<br />
<br />　　　　　†
<br />
<br />　わたし……渡来愛花には、秘密があった。
<br />　ちょっとした超能力、というのだろうか、念じて集中することで、ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ肉体のポテンシャルを引き上げるとかいう、そんな力だ。
<br />　それに気付いたときは、アニメの主人公になった気分だった。
<br />　お風呂で自分の（結構引き締まって、出るところは出た）身体を眺めて、鏡の前でポーズを取ってみたりして。そこそこ有頂天にはなったけれど、それでも案外わたしは慎重だった。そう、この力は誰にも秘密にしようと思ったんだ。
<br />　だって、それはわたしの夢が叶った瞬間だったから。
<br />　そうなんだ、これは、大切な人を守ることのできる力。大好きな家族、ともだち、学校の仲間や先生や近所の人たち……いざというときに、みんなを護ることができるかもしれない力だと思えたから。
<br />　だからこそ秘密にしようと思って、だからそのときはそれでよかった。
<br />　わたしに迎えが来たのはそれからしばらくしてのことだった。
<br />　Ｅ．Ｇ．Ｏ．―――Evolutional Generations Organizaition―――進化した世代による組織……わたしの貧弱な語彙で説明させてもらえちゃうなら、「新人類同盟」みたいな意味になるんだと思う……とにかく、その組織が、このわたし、渡来愛花の力を世界のために使うようにって言ってきたんだ。
<br />　気が進まなかったし、恐かった。わたしが地球のためになにかをできるなんて、当然思ってもいなかった。
<br />　でも、わたしはその申し出を受けることになる。
<br />　Ｅ．Ｇ．Ｏ．の人たちは、世界は今『セラフィエル』とかいう名前の宇宙人の襲来で危機を迎えている……なんて言った。そのセラフィエルは天使の姿をした宇宙人（彼らは『イレイザー』なんて呼んでいた）で、彼らを止めないと地球は滅亡するのだ、と。
<br />　最初は嘘だと思ったけれど、だけどわたしの世界はその後、あっという間に変わってしまった。世界は侵略者との戦いに満ちあふれていて、危機はすぐそこにあるのだと知らされ、それどころか、わたしの通っている高校さえ、Ｅ．Ｇ．Ｏ．の創立者……斎木一族が経営する学校法人で、生徒の中にも組織に所属する超能力者がいると知ってしまったのだった。
<br />　つまり、わたしがＥ．Ｇ．Ｏ．に所属することこそが、大事な人たちの変わらない日常を守ることだと突きつけられたわけで、それは逆を言えば、わたしの小さな力にはみんなを守る力があるっていうことでもあった。
<br />　気分が高揚しなかった、と言えば嘘になる。
<br />　特別感もすこしはあった。
<br />　けれど……現実が容赦なんてしてくれることはない。
<br />　わたしはふたつの経験を経て、わたし自身のちっぽけさを思い知ることになる。
<br />
<br />「ひとつめ」は、天使『セラフィエル』との決戦。
<br />　強大なセラフィエルという敵を相手に、Ｅ．Ｇ．Ｏ．を支えるエキスパートともいえる上位超能力者たちが次々戦線を離脱していった。前線で戦っていた彼女たちに比べたら、わたしの力なんて赤ん坊のようなものなのに、その彼女たちが倒れていく様を見て、わたしにできることなんてたかが知れていると……それどころかなにもできないのだとわかってしまったのだった。
<br />　それでも戦いは終わった。
<br />　戦いの結果、Ｅ．Ｇ．Ｏ．という組織は大きな犠牲を払うことになった。たくさんの人が超能力を失って、大幅に戦力ダウンすることになった組織の実情を目の当たりにしたわたしは、戦いに傷付いた先輩たちの分も、まだ弱い力しかないわたしたちががんばらなくちゃ、なんて思って……だけどそんなふうにすこしは前向きになれた矢先、今から一週間前に、「ふたつめ」が起きたのだった。
<br />
<br />「ふたつめ」―――それはわたしの住む町で起きた出来事。
<br />　夜中、胸のざわめきにわたしは目を醒ました。
<br />　なんだろう……そんな嫌な予感に呼応するように携帯が音を鳴らす。コール音は、Ｅ．Ｇ．Ｏ．の緊急招集のサインだった。
<br />　そうして急ぎ向かった先で、わたしは、Ｅ．Ｇ．Ｏ．の能力者と天使の戦いに遭遇することになった。
<br />　騒動の中心は、クラスメイトの少年とその妹さん。
<br />　このときのわたしは、数日前にＥ．Ｇ．Ｏ．の上層部から、ひとりの少年の監視を言い渡されていた。監視対象の少年こそ『真代開』という、わたしのクラスメイト。ちょっとかわいい顔をしただけの平凡な少年だけれど、その彼がなんらかの能力者である可能性がある、と言うのだ。
<br />　……なるほど、わたしもこうやって監視されていたのだろう。でなければ、目覚めてすぐにＥ．Ｇ．Ｏ．のエージェントが、わたしのところへやって来るわけがないのだから。
<br />　さておき……。
<br />　息をきらしたわたしがたどりついたときには、すでに戦いの趨勢は決していた。どんな攻撃を受けたのか、わたしよりも先に到着していたＥ．Ｇ．Ｏ．の仲間たち三人とクラスメイトの真代くんは気を失い倒れ伏していて、詠ちゃんは、今まさに天使に手を引かれて宙へ去ろうとしているところだったのだ。
<br />　状況を理解できなかった。
<br />　天使の輪を頭上に浮かべ、背中から翼を生やした詠ちゃんの姿に、彼女が敵である天使なのか、救うべき真代くんの妹なのか、そんな判断すらできなくらいわたしは混乱していて、ただ呆然と、起きていることを眺めることしかできなかった。
<br />「詠……」
<br />　真代くんが、うめくように声を絞り出したのは、そのときだった。気を失っているとばかり思っていた真代くんに意識があることを知ったわたしは、我に返って彼のそばに駆け寄ったのだけど、真代くんが、わたしに気付いた様子はなかった。
<br />　わたしなんて意識することもなく、詠ちゃんは真代くんだけを見ていて、真代くんは詠ちゃんだけを見ているのだとわかったんだ。
<br />「ねえ、お兄ちゃん……」
<br />「詠っ！」
<br />　詠ちゃんは静かな表情で真代くんを呼び、真代くんが苦しげに声を絞り出し、妹さんの名前を呼ぶ。だけどそれは、お互いを求める言葉なんかじゃなかった。
<br />「もう、あきらめて」
<br />　その言葉を最後に、詠ちゃんは迎えの天使共々、光になって天へと消えてしまった。
<br />　……わたしは、なにもできなかった。
<br />　それは、数千の超能力者と宇宙人がぶつかった『セラフィエル』との戦いに比べたら、とるにたらない争い。
<br />　ちっぽけな、出来事。
<br />　でもそれは、わたしの身近で起きた、初めての事件だった。
<br />
<br />　　　　　†
<br />
<br />　渡来愛花は教室の後ろに立ち、真代開の背中を見つめていた。
<br />　愛花の見つめる先にいるその少年は、もうすでに１週間もの間ずっと、こんな調子だった。
<br />　クラスの皆はすでに帰り、教室にはふたりきり。夕陽差し込む教室で、真代開は鞄を机の上に出し、ただじっと席に座っている。
<br />　きっと今日もいつものように時間だけが過ぎる。下校のチャイムが鳴るまでこうして時は凍り付き、やがて開は思い出したように席を立って帰路につくのだ。そうして今日も、彼に声をかけられなかった愛花は、ためいきをついてここを立ち去るのだろう。
<br />　仕方がないとは思う。
<br />　開にとって、詠はかけがえのない、何物にも、何者にも代え難い大切な存在だったということを、愛花は知ってしまっているから。
<br />　なぜなら……愛花は、あの真代開という少年と小学校の頃からずっと同じ学校で、何度も同じクラスになってきたから。それは全部偶然で、愛花と開は決して特別親しい間柄ではないけれど……それでも、あの詠という少女が開にとってどんなに大切な存在だったのか、それを知るくらいには、愛花は開の近くにいたのだから。
<br />　しかし。
<br />（わたしには、なにもできない……）
<br />　唇を噛みしめる。
<br />　愛花には、開にかける言葉がない。妹を失って途方に暮れる彼を助けてあげたいのに、その背中にかける声を持っていない。助けてあげられなくてごめんねと言いたいのに、話しかけるきっかけすら見つけることが出来ない。
<br />（わたしは、役立たずだ……）
<br />　―――自分の力を、ほんのちょっと引き上げるだけの能力。
<br />　そんなもの、なんの役にも立ちはしないと思い知ってしまった。
<br />　もっと強ければよかったのに……愛花程度の力では、先輩たちの戦いを助けることすらできず、連れ去られていく真代詠をつかまえることすらできなかった。
<br />　もっと違う力だったらよかったのに……こんな力じゃなくて、念動力のひとつでもあれば、開の机、その隅に置きっぱなしになったシャープペンでも落とすことができれば、それをきっかけにさりげなく彼に話しかけることだってできるのだろう。
<br />（こんな力……）
<br />　なにが、身近な人を守ることが出来る力だ……と思う。
<br />　大好きな家族、ともだち、学校の仲間や先生や近所の人たち……こんな力では、愛花程度の力では、身近な誰かを救うことなどできはしないのに。
<br />　開の背中は、まだ動かないままでいる。
<br />　あの少年もきっと、自分の無力にうちひしがれているのだろう。
<br />　仕方がない。愛花にも、開にも力などないのだ。自分よりも圧倒的に大きな力や自分の力では届かない壁を前にすれば、どうすることもできはしない。
<br />　溜め息をひとつ。愛花は開に背を向ける。
<br />　今、愛花にできることは傷付いた開のその傷が癒えて、天使になった詠が帰ってこない現実を受け容れるまで、そっとしておくことだけだ。
<br />　しかし……。
<br />「詠……くそっ」
<br />　その言葉に、愛花は脚を止めた。
<br />「あきらめるなんて……できるかよ」
<br />　振り向く。
<br />　愛花の視線の先で、少年の背は震え、その拳は強く握られていた。
<br />　はっとする。息を呑む。
<br />　脚が勝手に動いていた。並んだ机に身体がぶつかるけれど、そんなの気にも留めずにずかずかと歩み寄り、気が付いたら愛花は開の目の前に立っていた。
<br />　開が愛花に気が付き、顔を上げる。
<br />　なにが起きたのか、どうして愛花が目の前に立っているのかがわからない……愛花を見上げる開は、そんな顔をしていた。
<br />　そんな開の戸惑いをよそに、愛花の唇から、言葉が堰を切ってあふれ出す。
<br />「ちょっと！　なにあんたボケッとしてるのよ！　シャキッとしなさいよシャキッと！」
<br />　本当は慰めたいと思っていたはずなのに、なにもできなくてごめんねと謝りたかったはずなのに。そんな想いとは裏腹に、口をついて出たのは、開に向けた叱責だった。
<br />　開は、驚きを隠せないでいた。
<br />　当たり前だ。こんな暴言、傷付いている同級生に向けていい言葉のわけもない。
<br />　何を言っているのかと、愛花自身も半分パニックだった。なのに、それなのに言葉を止められない。
<br />「いつまでもうじうじしてちゃダメでしょうが！　助けに行きたいならさっさと行きなさいよ！」
<br />　それは、愛花自身に向けられた言葉でもあって。
<br />「だけど詠は……」
<br />「だけどじゃない！」
<br />　無茶を言っているなんて、百も承知だ。
<br />　でも止まらない。
<br />「ちゃんと話したの!?　言わされてただけかもしれない。言えない事情があったのかもしれない。いきなり天使になっちゃって、あんたに助けてって言いたくても言えなかっただけかもしれないじゃない！」
<br />「だけど、俺にはなんの力もなくて……」
<br />　愛花の掌が、机の上の鞄を強く叩く。
<br />「わたしにだってないわよ！」
<br />　叩いて、愛花は身を乗り出していた。
<br />「力なんてないわよ！　でもだから!?　それがなに!?　力があるかどうかなんて関係ないじゃない！」
<br />「でも、詠は……」
<br />「詠ちゃんが『あきらめて』って言った!?　そんなの関係ないでしょ！　天使になっちゃった!?　そんなの関係ないじゃない！　わたしはずっと見てきた！　だから知ってるの、詠ちゃんが小学校の頃からずっと、毎日のように真代くんのお弁当を持ってきてくれてたことも！　真代くんの帰りを校門のところでいつも待ってたことも！　真代くんも知ってるはずだよ！　詠ちゃんの笑顔は、いつも真代くんに向けられてたって！」
<br />　開の顎が小さくうなずく。それで充分だった。
<br />「だったら……！　だったら確かめなくちゃだめじゃない！　いなくなったのが本当に詠ちゃんの意思なのか！　ううん……もし詠ちゃんが自分の意思でいなくなったんだとしてもそんなの関係ない！　真代くんが思うなら！　真代くんが詠ちゃんを信じてるなら！　詠ちゃんのいる場所が、詠ちゃんが幸せになる場所が真代くんの隣だって、そこだって思うなら！　それが正しいって思うなら！　ムリヤリにでも連れ戻さなくちゃだめじゃない！」
<br />　言い切った。届けと、目を醒ませと。
<br />　やがて。
<br />「そう、だよな……」
<br />　驚きに呆けたような表情をしていた開は、顔を伏せ、わずかな沈黙の後でそう言った。
<br />　かたく握られた開の拳は、震えを止めていた。
<br />　少年は顔を上げる。
<br />「そうだよな。俺、本当のこと、なにも知らないままなのにな」
<br />「……うん」
<br />「俺が、詠を信じてやらなくちゃいけないのにな」
<br />「……うん」
<br />「もし、詠が話せないことがあるならさ。俺が、聞いてやらなくちゃいけないのにな」
<br />「真代くん……」
<br />「開でいいよ」
<br />　そう言って、開は照れくさそうに微笑んだ。
<br />　そこではじめて、身を乗り出していた愛花は、開の顔が息も触れそうなほどすぐ近くにあることに気付いて、あわてて身を引いた。
<br />「じゃ、じゃあ、開、くん……で」
<br />「ああ」
<br />　開は、もう一度微笑む。
<br />　それは一週間ぶりに見せた、おだやかな笑顔だった。
<br />　彼は言う。
<br />「そういえばさ、渡来。俺たちって、十年近く同じ学校にいて同じクラスにだって何度もなったのに、こんなふうにふたりきりで話したことってなかったよな」
<br />「うん、そうだね」
<br />「俺さ、詠がいなくなってから、この教室がすっごく広く思えててさ。こんなに狭い教室なのに、そこにたったひとりでいるような気になってた。だけど、違ったんだな……」
<br />　愛花は「うん」と、うなずき。
<br />「わたしが、いるよ」
<br />　そう、言葉を返した。
<br />「わたしが、いる。小さな力しかないけど、詠ちゃんに届かなかった力だけど、それでも一人よりも二人のほうがずっと、ずっといいはずだから！」
<br />「サンキュ、だ」
<br />　少年の瞳に、力が宿っているとわかった。
<br />　開の笑顔に愛花は気付く。
<br />　大事なことを、忘れていたと―――
<br />　それは、気持ちを伝えるのは、力ではないのだということ。
<br />　誰かを救い誰かを守るのは、超能力なんかじゃなくて、一歩を踏み出す勇気と、言葉を伝えようとする気持ち……誰でも当たり前に持っている、支えたいという、守りたいという気持ちなんだっていうこと。
<br />　Ｅ．Ｇ．Ｏ．の人たちは、愛花に「世界のために」と言った。それは素敵なことだけれど、でもそれを愛花ができるのは、もっと……もっと先のことだ。
<br />　愛花は思う。
<br />　いつでも思っている。
<br />　大好きな家族、ともだち、学校の仲間や先生や近所の人たちを守りたいと。
<br />　ならば今は、目の前で傷付いているこの開という少年を守り、彼を支えよう。
<br />
　彼の日常に平穏をとりもどしてあげるため……きっと、この手に宿った力は今、そのためにあるのだから。
</p>
			  <br />
<br />
<p class="aright">著者：寺田とものり</p>
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