ざざざぁ〜……ざざざざぁ〜
一定のリズムでさざなみが打ち寄せる心地良い浜辺。
その側にはどこか南国を思わせる日差しを受ける緑の木々、その緑の中に白亜の建物は立っている。
その建物に近づけば、波の音さえもかき消すような若い活気に溢れた学校特有の音がするのがわかる。
星降学園(せいこうがくえん)
星の降ると名づけられたこの学園の名は、その建っている島の名に由来する。
<星降り島>とこの島は呼ばれている。
星の綺麗な夜に流れ星が近くの海に落ち、その場所に一夜にしてできた島だという伝説があるからだ。
そんな島に学校ができるというのも、その後その島をまるごと買い取り学園を建てたのが斎木グループと聞けば、自ずと何か有ると思えるものである。
この学園は、協和の精神を主に文化の継承や交流をモットーとして、様々な国から、そして様々な勢力から、指導者や生徒を集めてきた。
開校されてから数年、序々にその力を見せ始めている。
この学校の生徒達は団体種目の競技や演技に図抜けた強さを持っているのだ。
協調性と言うよりは共感性、一種のテレパシーとでも言うような仲間と間や呼吸をシンクロさせる能力を有しているようだ。
そんな学園の一室。
ずっずっずっずっずっずっずっじゃららーん
開いた窓に吹き込む柔らな風を押し戻すように、アンプの繋いでいないエレキギターの音が流れ出す部室がある。
部屋の入り口には「軽音部」と書いてある。半分開いているドアには、「バンドメンバー誰でも歓迎!」と性格が一目で分かりそうな文字で元気一杯に書いた張り紙がしてあり、その中に5人の女の子がそれぞれ思い思いの格好ですごしていた。
じゃんっじゃーん、じゃがっっじゃーん
ギターのネックの上を軽やかに手をすべらせながら、酔いしれるようにギターを弾く紫の短いポニーテールの女の子、笑うたびに見える八重歯と、赤と黒のストライプのニーソックスがポイントの彼女はD(ディー)と呼ばれている。
入り口の張り紙の製作者である。
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星降学園バンド ギター担当
イラスト/久坂宗次 |
ふんー、ふっふっふふーん
イヤホンを付け、鼻歌を口ずさみながら白い指にはめているドクロや王冠の形の指輪を弄ぶ、頬に星のシールをつけた赤いロングヘアーの子はヴォーカルのU(ユウ)。
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星降学園バンド ヴォーカル担当
イラスト/久坂宗次 |
床にマットを敷いて、短いスカートを気にもせず、足を大きく開き器用に柔軟をしながらファッション雑誌を読んでいる、ドレッドヘヤーをポニーテールにした褐色の肌の女の子が、ダンス&コーラスのK(ケイ)。
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星降学園バンド ダンス&コーラス担当
イラスト/久坂宗次 |
譜面を見ながら一生懸命にベースの指の動きを反復練習している、さらさらの長い金髪を前髪だけ青いヘアバンドで留めたL(エル)。
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星降学園バンド ベース担当
イラスト/久坂宗次 |
パイプイスにゆったり腰掛け読書しているのは、落ち着いた大人びた雰囲気と裏腹に、ブレザーの下に着ている、かわいらしい動物の顔がプリントしてあるフードつきのトレーナーがポイントのサックスのR(アル)。
ちなみに今日は、うさぎちゃんである。
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星降学園バンド サックス担当
イラスト/久坂宗次 |
今部室には居ないが、これにドラム担当で部長のI(アイ)を加えれば星降学園バンドのメンバーである。
彼女達は、互いの名前をアルファベット一文字で呼び合っている。
理由はカッコイイとか、それっぽいからだそうだ。
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星降学園バンド ドラム担当
イラスト/久坂宗次 |
じゃかじゃーん
フィニッシュまでを弾ききり、イメージの中のオーディエンスに手をふりながら余韻を味わっているディーに、柔軟をしながら器用に体を逸らしてケイがタオルを投げた。
「5万の観衆を沸かせてきたぜ」
タオルをキャッチしながらディーが八重歯を見せて笑う。
「5万?そのキャパだとドームあたり?」
意外と大きく出たなとケイも笑って返す。
「さっすがケイ、わかってんじゃん」
にしし、と顔を見合わせて笑う二人。
「そうやっていつもイメージトレーニングしとくと本番で上がらないで済むんですね、なるほどです」
納得いったと真剣なエル。
「エルはもっとアタシみたいに見られる喜びってものを感じたほうがいいわよ」
抜群のスタイルをアピールしながら投げキッスしてケイが付け加える。
ちょっと赤面しながらふむふむと、これもメモしなきゃと言わんばかりに真剣に納得するエルを見て、また顔を見合わせて笑うディーとケイ、これがいつもの流れのようだ。
「大丈夫、エルは緊張するけど今のところ本番で一度もミスって無いから、マジ本番に強いんだし」
イヤホンを外しながらユウがフォローする、どうやら話しは聞いていたようだ。
「むしろ本番直前にギターソロ追加して混乱させる、悪魔みたいな奴が問題だよなぁ」
ユウがディーを横目で見ながら返す、どうやらフォローでは無く攻撃のためのジャブだったようだ。
「あーん?、ギターの神が降りてきてフレーズを授けてんだよ!」
「あーん?、そんな神は、封印でもして深海に閉じ込めんとかんかい!」
どうやら犬猿の仲のような2人のやり取りにオロオロしだすエル、わくわくした眼で見守るケイ、まったく読書を止める気配のないアル、この構図も毎度の事のようだ。
「アイちゃん来ないと収まらなくなっちゃうよ」
エルが心配していると、廊下から慌てて駆けてくる足音がこの部室めがけて近づいてくる。
エルの顔がパッと明るくなる、どうやら救世主の到来のようだ。
「た・い・へ・ん・やーっ!!」
その大声の慌てた救世主は、叫びながら勢い余って部屋の前を行きすぎるのをドアに掴まり堪えると、はあはあと肩で息をしながら眼鏡を直し、みんなの顔を見回した。
おかげで先ほどの険悪なムードから一変した部屋の雰囲気だが、今度は何事かと皆が視線をアイに集中させた。
静寂の中、アイのはあはあと息を整える音だけになった後。
「うちらが、今度富士である文化復興イベントに出れるんやってー!!!」
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「「「「えーーーーーーーーっ!!!!」」」」
理解するための時間を暫く要した後、見事にシンクロした4人の驚きの声が学園中に響き渡った。
「な、な、なんで?あれってすげー大物いっぱい来るんだぜ」
「うちの校風が、今回のイベントの文化復興って趣旨に合っとるからやて」
興奮気味に当然の疑問を投げるディーにアイが答えた。
「後はな、このバンドの構成に未来の希望を感じるとかなんとか言うてたわ」
その言葉で全員が互いの顔を見合わせた。
そう彼女達はそれぞれの異なる勢力の土地から集まっているのだ。
この学園の協和の精神と身に付く感応能力のおかげで、かつて無い柔軟な環境が整っている、これは幸運なことなのだ。
それぞれが自分の環境を思い出し互いにうなずいた。
「実力もあるんやって事、みせてやらなあかんな」
アイがそう言って片手を前に差し出した。
「はいっ、わ、私もっとがんばります」
エルがあわてて手を重ねる。
「5万の観衆じゃちょっと少なかったみたいね」
ケイも笑いながら手を重ねる。
「まったくだぜ」
ディーもおどけながら手を重ねる。
「ちょっとは緊張してきたんじゃねーの」
ユウはからかうように手を重ねる。
「・・・・・・」
イスら腰を上げたアルも無言のままうなずいて手を重ねた。
互いの手を固く重ね合い、視線を交わし、みんなでもう一度深くうなずいた。
「本番……どの子着ていこうかな?」
?????
盛り上がった空気のなか、聞きなれない声に5人の視線が集中する、その先にはフードをさわるアルがいた。
初めて聞いたアルの声に、今度は5人の見事にシンクロした驚愕の声が学園に響き渡った。
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