きゅいいいぃぃぃ……
巨大な電動のモーターが唸りを上げ、黒い大型バイクが走る。
その黒と銀で統一された車体は、硬質の金属特有の質感を持って、陽光を跳ね返している。
崩れたコンクリートの建物や、スクラップ車の散らばる廃墟の様な風景が通り過ぎて行く。
道とは呼べないほどの瓦礫の中を、大型で2輪といった不安定な乗り物が、易々と通り抜けて行く様子は、もはや一匹の獣のようだ。
それを可能にしているのは、マシンの性能よりも、ドライバーの腕であろう。
このモンスターバイクを乗りこなしているのは、青い目の可憐な女子高生である。
彼女の名は、リゼット・K・アサギリ。日本のトップ企業、斎木重工株式会社の朝霧研究所の抱える天才ドライバーである。
あらゆる乗り物を乗りこなす彼女は、その天才的なドライバーセンスをさらに強化するため、サイボーグ手術が施されている。
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リゼット・K・アサギリ
イラスト/あきまん |
今彼女は、富士の麓、朝霧高原にある斎木重工、朝霧研究所の敷地内にある演習場で新しい試作兵器のテスト中である。
「リゼット、調子どう?」
彼女のインカムに明るい声が飛び込んでくる。
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ジャンクボーグ“柴原瑞希” |
声の主は柴原瑞希、彼女も朝霧研究所の抱える女子高生サイボーグの一人である。
彼女は、かつて極星帝国の侵攻の際に重傷を受け、サイボーグ手術を施され一命を取りとめた経緯があり、帝国と戦うため日々自らの改造とチューンナップを行っている。
朝霧研究所には、メンテナンスとパーツを漁るため、手伝いもかねて度々訪れている。
今日は友達のリゼットの日課である、マシンテストに付き合ってオペレーターをしている。
「いい感じよ瑞希、ガーランドも随分仕上がってきてる」
MCB−01 ガーランド。それがリゼットの乗るモンスターバイクの名称である。
「この調子なら早く済ませて、瑞希のジャンク屋めぐりに付き合えるかもね」
「ホント!わーい♪ それじゃリゼット、サクサク進めちゃおう。廃墟の市街地を抜けて第二ターゲットに向かって」
「了解〜」
そう言ってリゼットは新たなターゲットに向けガーランドのアクセルを回すと、それに応えるように電動モーターは唸り、その巨体のスピードを上げた。
今度はサーキット場のような場所にリゼットは到着する。
「それじゃ次は、他のマシンとの同調テストだよ」
「了解」
次はガーランドのメインコンセプトである、新旧多様な兵器を仕様統一なしでオペレーション可能なメインモジュールといった部分をテストする。
サーキットをガーランドに乗って運転しながら、他の兵器をコントロールして目標を攻撃するのである。
「アルバトロス合流するよ」
瑞希の声と共に、リゼットのバイザーに斎木重工製の戦闘機、SF−01 アルバトロスの情報が流れてくる。 彼女には目で確認するのでは無く、感じ取るように認識する。
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SF−01 アルバトロス |
ガーランドと首筋のコネクタでダイレクトに一体化しているリゼットは、大量の情報を共有し、互いに補い合いながら2つのマシンを操縦する。
2つの視界を同時に得ている感覚は、ドラッグによりトリップしている感覚に近く、通常の人間ならば情報の多さに脳が耐えられず、意識を失うところである。
「コントロールしたわ、同調完了。火器管制にはいるよ」
そうやってアルバトロスを攻撃目標へ向かわせ、火器のチェックに入ったリゼットは装備された武装に気付き声をあげた。
「ちょっと瑞希!これ、ジャンクバスターが2つも付いてる」
リゼットは流れ込んできたデータに思わず驚く。
「大丈夫なの?演習場でこんな物ぶっ放して」
ジャンクバスターとは、瑞希がパーツを一から集めて、コツコツ作った愛用の武器である。
瑞希が言うには、直結するジェネレーターの数によって、その破壊力を上げるシステムが組み込まれていて、それを2つ連動させ、さらにアルバトロスのジェネレーターとリンクさせれば、かなりの破壊力を出せるらしい。
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ジャンクバスター |
「やっと2つ目が出来たから、ちょっとテストしたくてさ、テストする場所もここなら大丈夫かなーって」
瑞希は設計図を作らず感性でパーツを組み上げてしまう事もあり、ジャンクバスターは簡単に数を増やせなかったのだ。
「突然実戦に持って行けないし、お願い!神様、仏様、リゼット様」
そう言ってお願いする瑞希。
「ふう……OK了解」
「実際、ジャンクバスターもセットで動かせれば、ガーランドのコンセプトの実験サンプルには良いかもしんないしね」
リゼットが瑞希のお願いに弱いのも、サイボーグ女子高生仲間という特殊な間柄だからだろうか。
「それじゃ発射するよ」
「カウントするね、5、4、3、2、1」
!!!
強烈な光の筋がアルバトロスから、地上の標的に延び着弾した瞬間。
どごーーーーーーーーーーーーーーーんんんんん
音と衝撃が富士を揺らさんばかりの勢いで朝霧研究所を襲う。
リゼットは爆風に煽られ、アルバトロスとの同調が途切れてしまう。かなり距離があったはずのサーキット場まで衝撃は届き、ガーランドごと横転しそうになるが、そのドライビングセンスで難をのがれることができた。
リゼットは、あまりの出来事に真っ白になりかけるが、まず頭に浮かんだのは、アルバトロスは墜落しただろうなということだった。
演習場の指令室でモニターしていた瑞希は、一人こぶしを握っていた。
(やった、やった!これで極星帝国に一撃食らわしてやれるぞ〜!)
辺りの衝撃で散らかった物や、映像を映さなくなったモニターを前に、燃える瞳で一人ガッツポーズをしていた。
かつっ、かつっ、かつっ
そんな瑞希を現実に引き戻す、怒りを含んだ靴音が近づいて来る。
ごくりと唾を飲み込み、辺りの様子を再確認するころには、靴音は止み、入り口に怒りの形相の白衣の女性が立っていた。
「ヘレンさんごめんなさい!」
瑞希は、この朝霧研究所の所長であるヘレン・フィールグッドに、自分の出せる最も早いスピードで頭を下げた。
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Dr. “ヘレン・フィールグッド” |
それからしばらくヘレンから放たれるお叱りの言葉に打たれ反省している間、瑞希の脳裏には。
(しばらくジャンク屋巡りはお預けだな)
そんな思いがよぎった。